晴れ間
KEMMY|けみー
晴れ間
田舎の昼下がり。
天気は小雨。
億劫な気持ちでいつもの寂れた駅に向かう。
木造の駅舎に、寂れた看板が立てかけられている。
駅舎内には昔の名残の対面販売のチケット窓口の前に
無造作に券売機が3つ。
待合所の掲示板には、
地元の子供達がひねり出した私の町の好きな所という絵が
何枚も掲載されている。
いつもの駅だ。
違うのは俺が駅に来た時間だけ。
ホームの自販機の横にデフォルメされたカエルのゴミ箱がある。
お腹のところに「次は一体何に変える?」という市の職員が考えたであろうメッセージが書かれている。
小学校の頃からそのままだ。
田舎の昼下がり。
電車の間隔は40分。
少し早めに来たから20分は暇だ。
ベンチに腰掛け、ベンチの左隣のホームの床に無造作に置かれた水槽に目をやる。
金魚が3匹泳いでいる。これもずっとある。
この駅は明日からもきっと変わらないのだろう……
ふと、反対のホームに目をやると、黒髪ロングの女子高生が座っている。
あの子もこれから学校かな?
今どきの子もルーズソックス履くのか……再ブームかな?
いや、あんまり見るとキモいな。
目を逸らそうとしたとき、気づかれたのか軽く会釈された。
一応軽く返す。
「サボりですかー?」
女子高生が質問を投げかけてきた。
周囲を見ても俺しかいないようだ。
どうやら俺に話しかけているらしい。
「午前休だよー。これから行こうか悩んでるとこー」
「一緒にサボりませんかー」
ニンマリした表情で女子高生が返してきた。
彼女はこちらの返答を待たず、ホームをつなぐ線路にまたがった道を渡ってきた。
「ねねっ、おにーさん。サボろっ?」
傍から見たら怪しい勧誘を受けるサラリーマンか、いかがわしいことをしているサラリーマンに見えるだろう。
「いや、サボるって……
ちょっと人の目もあるし……女子高生と歩いてたらさ……世間的にね?」
「だいじょーぶっ!
年そんな離れてなさそうだし、おにーちゃんって呼んであげる。
そしたら兄弟にしか見えないでしょ?ね?」
「いや、そうはーー」
「ほら行くよ!!
クレープ!クレープ食べよっ!おにーちゃん!」
断る隙を与えられないまま、ほぼ強制的に勢いで駅から連れ出された。
駅から少し離れた寂れた商店街まで来た。
近くに大きな商業施設ができたので、今では地元の老人くらいしか来ていない。
「こんなとこにクレープ屋なんてあったか?」
「あるあるっ!あたしの行きつけなんだよねぇー」
「へぇ、さすが女子高生。
スイーツには詳しいのな」
「へへっ。
ほら、あそこだよ。」
「あれ?……
ここ、知ってる気がする……」
そこは幼少期に、兄とその友達とよく来ていたクレープ屋。
なんで、忘れてたんだろう?
まだ、未来が明るかったあの時のことを……
「あたし、いちごのやつ!
おにーちゃんは?」
「あー、いいや。
俺甘いの苦手だし……」
「えー、悪いよ……
あたしだけ奢ってもらうなんて罪悪感出るじゃん。
あ、半分こする?」
「しねーよ。
てか奢ってもらう前提かよ。」
「へへっ美少女とクレープ食べれるんだからご褒美でしょ?」
「はいはい」
「じゃ、あたし席取っとくねー」
「席取るほど人なんていねーだろ」
「いいからー
あそこの日当たりの良い席にいるねー」
そう言うと、近くの広場のベンチに向かっていった。
すでに小雨も止んで、うっすら日が差している。
「おばちゃん、いちごのやつ1つ」
「あらっ、珍しい子が来たね。
大変だったねぇ……」
「え?……
俺のこと知ってるんですか?」
「知ってるわよー
雪くんでしょ?前田さんとこの」
「はい……
そうですけど、なぜ?」
「あー、そうよねぇ。
お店来てたの小さい時だもんねぇ。
お母さんにね、写真付きの年賀状もらってたのよ。
お母さんは……残念だったねぇ……
今は、お兄さんと二人?」
「あー、そうだったんですか……
いえ、兄は去年他界したので、今は一人です……」
「あら……
ごめんなさいね……
なんかあったら言うのよ!
おばちゃん力になるから!
背負い込んじゃだめよ!」
「あ、はいっ。
ありがとうございます」
「はい、いちご1つね。
お代はいらないよ。
遠慮せずに持っていきなさい。
たまには一人でリフレッシュも大切だからね!」
「あっ、ありがとうございます!!」
「はい、じゃあまたいらっしゃいねー」
ベンチに向かうと、女子高生はケータイをいじっていた。
「買ってきたぞ。
ほれ。
ガラケーって、珍しいな。」
「ありがとー!!
うちの親、新しいの買ってくれなくてねー……
あ、美味しっ!」
「その笑顔見れただけで奢ったかいがあったわ。
ガラケーってLineとか友達との連絡どうしてるんだ?」
「Line?……」
「あー、最近の子はもう使わないんだっけか。
なんか、おっさんぽいな……
何だっけ?インスタとかで連絡取るんだっけ。」
「無理して最近の女子高生に話題合わせようとしなくていいよっ」
「む、無理してねーよ」
「はいはい。
次は動物園行こ!!」
「動物園って……また駅戻るのか?」
「違うよ、この街の動物園」
「そんなのあったか?」
「あるある~
ついてきてー」
「あ、おいっ」
少し歩き、地元で一番大きな公園についた。
子供の頃によく自転車で兄とその友達と来ていた場所だ。
「おい、ここ公園だろ」
「いいから、いいからー」
手を引かれ、公園の噴水を抜け少し人気のない道を抜ける。
「あれ?この先何があったっけ?……」
「動物園がありますよー」
道を抜けると少しだけ広い広場に出た。
その広場に動物の檻が4つほどおいてある。
孔雀、猿、狸、オウムの4種が檻の中を歩いていた。
公園の職員が飼育している動物たちのようだ。
「ここ……知ってる。
いや、なんで忘れてたんだろ……」
幼稚園くらいのとき、兄とその友達の誰かと来た記憶がある。
確か、猿に掴まれて兄が泣いてたっけ…
「みてみてー
孔雀!
昔のまんまだねー」
「うん……
そうだな。
まんまだ。あの時の……」
「どうしたのー?
暗いよお兄さん。
あ、お猿さんこっち見てる。
なんか、あげれるものあるかなぁ?」
「いや、ちょっと昔思い出しててね」
「そかそか。
じゃあさ、最後に行きたいところあるんだけど、
いいかな?」
「ああ、いいよ。
どこ?」
「内緒。
ちょっと歩くけど、体力平気?」
「バカにするなよ。
体力だけは自信あるんだなー」
「へぇー」
30分ほど歩いただろうか。
近くの山道をひたすら登らされている。
そんなに険しくはないが、地味に体力を削られる。
女子高生に目をやると、さっき道すがら駄菓子屋で買ってあげた
アイスを食べながら涼しい顔をしている。
「あれれー?
ご自慢の体力は?」
「ここ……こんな……しんどかったか?……」
「年ですねぇ……
あ、見てみて。
ついたよ!!」
「あー?
まだ頂上じゃねぇだろ……
……ここ。
知ってる……
でも、なんで?」
そこは忘れていた場所。
幼少期に。
家族が壊れる前に。
兄と、その同級生のお姉さんにつれられて来た場所。
壊れた看板が時間の経過を表している。
3人しか知らないはずの場所。
そしてもう、その二人は……
「へへっ……
今日はありがと……」
「あのっ…」
いつの間にか自分の返答する口調が変わっていることに気づいた。
「私の生きてるうちにやりたかったこと、全部叶えてくれてありがと……」
「え?……なんで?……だって……」
思考が追いつかない。
いや、思考を拒絶している。
「お兄さん。
君じゃなくて、君のお兄さん。
亡くなって、君、今日あと追うつもりだったでしょ?」
「えっ……」
「図干しでしょ?
ぜーんぶ見てたんだよ。
雪くん。」
「…」
「お兄さんのことは……
ごめんね……
私のせいでもある……
いや、私のせい……」
「違う……
違うよ……
誰のせいでもない……」
「ううん。
私のせい……ごめんね。
……雪くん。
大きくなったね……
……頑張ったね……」
ここ数年の毎日が瞬間に思い起こされる。
中学までの優しかった兄。
好きだった女の子が転校先でいじめで亡くなり、おかしくなった兄。
その兄を家族を支えるために身を削って、亡くなった母。
母の代わりを頑張ろうとしたが、兄を守れなかった自分。
ブラックな会社。
真っ暗な未来。
今日、楽になろうとしたこと。
それが、この一言で、思い出され。
少し、光が差したように感じた。
涙が出た。
いつぶりだろう?泣くのは。
「俺、頑張った!……
頑張ったよ……でも、兄ちゃんを。
家族を。守れなかった」
「知ってる。
見てたよ。
全部ちゃんと。」
「俺、これから、もうどうしたらいいかわからない。」
「いいんだよ。
もう何もしなくていい。
自分の好きなことをしたらいい。」
「好きなことって……
何したらいいか……
わからない……」
「そうだね……
じゃあさ……お願いしていいかな?
今日はいっぱいあたしのやりたかったこと叶えてくれたじゃん?」
「うん……」
「最後に一つだけ。
どうしてもあたしじゃ叶えられないことがあるの……」
「なに?……」
「それはね……
素敵な好きな人を見つけてその人と家族になること……
代わりに叶えといてよ。
あたしがどうしても叶えられない夢……
あっあたしは対象外だよ!
好きな人いるから!
できるかな?」
「うん。
できる。
頑張ってみる」
「よし!
じゃあ、あたしそろそろ行かなきゃだから……
見てるから……
ちゃんと、お願い叶えてね」
頭を優しく撫でられ、下を向いた。
手がふわっと軽くなり。
顔を上げると、そこにはもう。誰もいなかった。
「あっ……
また。お別れ言えなかっった……」
幼少期の記憶の中に彼女はいた。
兄と一緒にいつも遊んでいて、俺のことを事あるごとに気にかけてくれていた。
俺が小学校に入った頃には転校してしまって、顔もぼんやりとしか覚えてなかった彼女。
その淡い記憶と今日の淡い夢のような一日を思い出しながら歩いていると、
駅についていた。
寂れた駅。
カエルのゴミ箱。
金魚の水槽。
空の雲から光が漏れて、今日来たときと違いキラキラと光らせている。
天気は雨のち晴れ。
「帰って、退職届書くかぁ……」
口に出すと、なんだか心にも光が差した気がした。
この晴れ間のように。
晴れ間 KEMMY|けみー @kemmy02
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