玄人向けの彼女|百合コメディ

岡山みこと

玄人向けの彼女|百合コメディ

声が好き。

彼女は私によくそう言ってくれる。

お願いをされ、耳元で囁いたこともあった。

その彼女が目の前にひれ伏していた。


あろうことか私とのデートに寝坊したのだ、私との。

そんな彼女を部屋の床に正座させ上から見下ろしている。


「なんでこんなことになったの?」


私の低い声。

怒りを抑えているつもりだがどうしても滲み出てしまう。


「ごめんなさい!携帯の充電が切れててアラームが」


私は悪く無い、そう叫んでいるようにしか聞こえない。

髪をつかみ引き寄せる。


「言い訳?」


苦悶に歪む少女の顔。


「ちが……います。やめて、痛い」


縋る手を払い、そのまま額を床にこすりつけさせた。


「頭が、高い」


小さな悲鳴と、苦しそうな呻きが聞こえる。

私は意に介さず、上からさらに強く押し付けた。


「違わないよね?」


耳元で大きな声を立てて責めた。

彼女は大きく引き付き、小さく震える。


「ごめん、もう二度と」

「……ごめん?」


髪から手を離し、彼女の向かいにある椅子に腰かける。


「言葉は選びなさい。私いつも言ってるわよね?」

「……申し訳ありません。お許しください」


恐怖に震える美しい髪。

その後頭部を私は踏んだ。

……。

……。

……。


「ギブアアアーーーーーーーーップ!」


私は椅子から飛び出し部屋の隅まで逃げ出した。


「ええええええ、まだ物足りないよ」


勢いよく顔を上げた彼女は恍惚としている。


「私の彼女いつからこんな変態になったのよ!」

「そんな!育ててくれたの君だよ!」

「育ててないよ!初めからサラブレッドだったよ!!」


逃げた私ににじり寄る彼女。

黙っていれば和風美人な風貌は残念美人となっていた。


「もー雰囲気壊れたから初めからね?」

「やだよ!私遅刻なんかで怒らないし」


逃げ場がなくて小さく座り込んで震える事しかできない。

さっきまでとは真逆であった。


「この後はー、私のお尻を思い切りー」


彼女の手には黒い鞭が握られていた。


「なにそれ!初めて見た!どこで買った!!」

「タイムセールで割引されててね」


なんだその邪悪なお買い得。

私の肩に彼女の手がかかる。

差し出された鞭には『玄人向け』、そうシールが貼ってあった。

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玄人向けの彼女|百合コメディ 岡山みこと @okayamamikoto

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