最強の異端児。ステーキを食べる為に無双してたら革命のリーダーに担ぎ上げられていた件​

空花 星潔-くらげ せいけつ-

第1話 異端児、入学する

 それは、現代日本における学園生活にとってあまりにも異質な光景だった。


 入学式の朝。

 期待を胸に校門をくぐり、新たな生活に心を踊らせていた生徒たちはざわめく。


「おい、なんだよあれ」

「虎!? 狼も居るぞ!」

「きゃあっ! 怖い!」

「逃げるぞ!」

「おい待て、人が乗ってる!」


 真新しい制服に身を包み、新入生である事を示す花飾りを胸につけた二人の男子生徒が、まるで自転車でも乗りこなすが如く虎と狼に乗って通学してきたのだ。


 よく見れば、虎に乗った生徒の首にはコブラが巻かれていて、狼に乗った生徒の頭の上にはハリネズミが乗っている。


 ソレイユ学園の入学式は、そんな目を疑う光景から始まった。


 ――ソレイユ学園。

 大阪の中心部に位置する、巨大な学園だ。


 異能力者の存在が当たり前になった現代で、異能力の強さも入試項目に含めた世界最大の学園。

 世界中から人の集まる学園なため、毎年何かしらトンデモ事件が起きるのだが、さすがに猛獣連れ登校というのは前例が無い。


 猛獣連れの新入生は早速注目の的となっていた。


 新入生1号、狼に乗っているのは廿楽 透真つづら とうま

 緩くウェーブを描く緑のロングヘアに紫の目をした美青年だ。

 長い前髪が顔を半分以上隠しているが、はみ出ている隙間から美青年だと伝わる圧倒的美青年。

 何を考えているのか一切読めない無表情が、ミステリアス感を醸し出している。


 なお、何も考えていないので考えが読めないのは当然である。


 もう1人の、虎に乗っている方。彼は廿楽 虎珀つづら こはく

 銀のサラサラストレートヘアをひとつに纏めた、緑の目のこちらも美青年。

 一見、柔和な笑みを浮かべているように見えるが、どこか考えを読ませない瞳をしている。


 こちらはこれからの学園生活をどのように過ごすか、綿密に計算中だ。


 彼らが動物に乗って歩いていると、何やら足音が近付いてきた。


「騒ぎを聞いて来てみれば……なんだ貴様らは!」


 濃紺ストレートヘア、紫の鋭い目つきをした美少女が透真達を睨み付ける。

 彼女は透真達の先輩に当たる存在で、風紀を取り締まっている存在だ。


廿楽 透真つづら とうま。新入生。君、ちょっと邪魔」


 淡々とした声で透真が告げる。

 本人としては「もうすぐ入学式が始まるので通してください」のつもりで話しているのだが、透真は生粋のコミュ障だった。

 透真の言葉に、少女は怒りで顔を赤くする。

 虎珀は透真の発言に笑って、虎を道の端に寄せ、透真達から距離を置く。

 危機管理能力は抜群なようだ。


「貴様!」

「なんで怒るの? 事実なのに」

「なっ!」


 透真は絶望的に言葉選びが下手くそである。

 本人は純粋に、なぜ怒られているのか知りたがっているだけ。

 なんなら、よく分からない人に絡まれているせいで入学式に遅刻しそうだとすら思っている。

 馬鹿である。


「貴様、は?」

だけど」

「そうか、ならば決闘を申し込む! 貴様のような人間を我がソレイユ学園に入学させる訳にはいかないからな!」


 入学区分、それはソレイユ学園に入学するために示す3つの基準だ。

 異能力、学力、技術力が入学区分だ。


「分かった」


 そして、入学区分が同じ生徒同士は決闘をする事ができる。

 ソレイユ学園では実力が全て。

 決闘の勝敗によりランキングが変動し、勝者は敗者になんでも言う事を聞かせることができる。

 退学される事だって、不可能では無い。 


 そんな決闘を申し込まれたと言うのに、透真は焦った様子も無く受け入れる。


浅雛あさひなさんが新入生と決闘するんだって」

「あーぁ、あの新入生終わったわ」


 わらわらと野次馬が集まってきた。

 透真に決闘を申し込んだのは、浅雛 律花あさひな りつか。ソレイユ学園2年生。異能力区分のランキング上位者である。


「本来なら決闘は申し込まれた側がルールを決めるのだが、新入生という事でルールも分からないだろう。一番シンプルな、戦闘不能になるか降参した時点で敗北というルールで良いか?」

「いいよ」

「なら、いざ――勝負!」


 透真の入学を賭けた決闘が始まった。



 ――――――


 透真はソレイユ学園に入学する事をとても楽しみにしていた。

 ソレイユ学園は全寮制の、日本最大の学園。

 入学生徒はタダで美味しい食事が食べ放題になる。


 貧困層で、ロクなものを食べられなかった透真にとって、というのはあまりにも魅力的だった。


 だから、こんな所で止められるわけにはいかない。

 自分がなぜ怒られているのか分かっていない透真は、ただ自分の食を邪魔する存在を排除しなければいけないと考えていた。

 

騎士ηソルジャーイータ――ウルフフォーム」


 異能力を発動する。

 透真が乗っていた狼が白銀のロングコートに変化し、透真に着せられた。


「変身能力か? そんな能力で私に勝てると思うなよ!


 姫の剣プライド・ソード


 律花の周囲に数十本の剣が浮遊する。

 先手を取ったのは律花。

 浮遊していた剣が一斉に、目にも止まらぬ速さで透真の方へ飛んでいった。


 野次馬から声が上がる。


「やっぱ浅雛さんすげぇ!」

「あれ全部避けるのは無理だろ、新入生終わったな」


 しかし透真は眉一つ動かさず、人間離れした脚力で迫り来る剣を躱す。

 剣の隙間を縫って、律花に急接近。腕を振り上げた。


「ヘッジホッグフォーム」


 白銀のロングコートは狼の姿に戻り、透真の頭にしがみついていたハリネズミがブラウンのマフラーに変わる。


 何も持っていなかったはずの透真の手に、太く長い針が現れ、律花の喉に針の先が触れた。


 凄まじい速さだった。

 大半の生徒が透真が剣に包まれたと思った次の瞬間、律花が窮地に立たされている。

 野次馬達は困惑した。理解できた生徒なんて、片手で数える程も居ない。


「僕の勝ち、で良い?」


 針先を喉に突き立てたまま、問いかける。

 あまりの速さに、自分が敗北したのだと理解するよりも先に律花は頷いていた。


 次第に状況を理解し始めた野次馬が、困惑の声を漏らす。


「何が起きた?」

「勝負あった感じか?」

「律花さんが勝ったんだよな……?」

「いや……でも、新入生が優勢っぽくないか?」


 ざわめく野次馬に、律花はようやく事態を理解していく。


「ま、負け……た? この私が……」

「うん。僕の勝ち」


 透真は端的にそう言うと、狼に跨る。

 マフラーはいつの間にかハリネズミの姿に戻っていて、透真の頭に乗っている。

 急がなければ入学式に遅れてしまうと思っている透真は、その場を立ち去ろうとした。


「ま、待て! 貴様……いや、あなたは私に勝った。勝者は敗者になんでも命令できる。私に何を望む?」


 ソレイユ学園において、決闘とランキングの結果が全てを決める。

 この学園に入学して以来初めての敗北をした律花は、見知らぬ新入生がどんな命令を下すのかと恐怖に身を竦ませる。


 決闘に敗れた者には何をしたって良い。

 パシリにしても、サンドバッグにしても良い、大金を請求しても良い、性的な事だって求められてしまう……。

 これが学園のルール。教師は見て見ぬふりをするし、教育委員会だって我関せずだ。

 なぜなら、ソレイユ学園は勝利こそが全てだから。

 教師も、教育委員会も、世に居る社会人も、力を持つ人は皆ソレイユ学園で功績を残して来た人達なのだ。

 今更敗者にかけてやる情けは無い。


「……廿楽 透真つづら とうま。僕は廿楽 透真。覚えてて」


 しかし、透真が少し悩んだ後に下した命令はたったそれだけ。

 律花は拍子抜けしてしまった。と同時に、支配への恐怖から来ていた鼓動が、別の何かに変化するのを感じていた。


「廿楽……透真……」


 名前を口にして、心臓が高鳴る。

 顔が熱い。

 もしかして、これが恋と言うやつなのではないだろうか? 幼きに日に読んだ少女漫画では胸の高鳴りを恋だと表現していた。


「……覚えた、あなたの名前は覚えたからな!」


 振り返り、透真は頷き、去って行く。

 その後ろを虎に乗った虎珀が追い掛けた。

 何を考えているのか分からない無表情。しかしそれが、律花にはとても優しい表情に見えていた。


 ――なお、透真は何も考えていない。

 入学式に遅刻してしまったら遅刻理由として代わりに事情を説明してくれたら良いな〜、くらいの事しか思っていない。

 透真は、食べる事以外に一切興味が無いのだ。


 それが故に気付かない。

 律花が透真に恋をした事も、透真がこの先の未来で世界を変える革命のリーダーに担ぎ上げられる事も、普通の高校生は移動手段として猛獣を用いたりしない事も、全て。


 なぜならば、透真はアホだからである。



 ――――――


 

 決闘を終え、式典会場へと向かう透真の背中を見詰めながら、琥珀こはくは今朝の事を思い出していた。


「楽しみだね、入学式!」

「うん。楽しみ」

「透真は入学したら何がしたい?」

「……ステーキが食べたい」

「ステーキ……そっか、良いだね」


 いつも無表情で言葉数が少ない兄弟。

 養護施設で貰われたので、血は繋がっていないが気の合う兄弟だ。


 異能力者の台頭により、世界は大きく変化した。

 人類が異能力を得たのと同じように、動物達も大きく変化した。


 結果的に食べられる肉は大幅に減少。植物も数を減らした。

 結果生まれたのが、栄養カプセルだ。

 とまぁ、詳しい事は追々。


 学園に入ってステーキを食べる。

 つまりそれは、権力を得る、という透真の意思表示である。


 現代日本でステーキを食べられるような人間はひと握りだけ。

 透真は言外に国のトップになると言っているのだ。


「頑張ろうね、透真」

「うん」


 ニコリと微笑む虎珀。

 無表情で頷く透真。


 ――もちろん、2人の想いは当然のように食い違っている。


 透真は本当にただステーキが食べたいだけ。

 学園に入れば自動的にステーキが食べられるようになると、本気で思い込んでいるだけのアホである。


 そんな透真アホの事を心の底から信じている虎珀。

 盛大な食い違いが、これから世界を根底から作り替えて行く。

 そんな話が、ここから始まる。


「ねぇ虎珀、この子達、どこに置いて行けばいいの?」


 式典会場前、狼から降りた透真が問いかける。


「あっ……」


 中に彼らを連れて行けないと気付いた虎珀は間抜けな声を上げた。


 虎珀もまた、アホなのかもしれない。














 あとがき

 最強の異端児。ステーキを食べる為に無双してたら革命のリーダーに担ぎ上げられていた件​をお読みいただきありがとうございます!

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 今後とも最強の異端児。ステーキを食べる為に無双してたら革命のリーダーに担ぎ上げられていた件​をよろしくお願いします。

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