密かに授かった王子様との愛し子を隠したいのに、猫耳のおかげで即バレしそうです
越智屋ノマ
第1話
西の大国アルノーク。
辺境のとある街で、最近ちょっとした噂があります。
――とても腕の良い帽子屋がいるらしい、と。
……らしい、というより。
その帽子屋って、どうやら私のことらしくて……。
貴族令嬢だった頃に身に着けた裁縫の腕だけが取り柄で、気づけば領外からもたくさんお客さんが来てくれるようになりました。
私の帽子は少しだけ特別で、風で飛ばないよう伸縮性の『あご紐』を付けているんです。
配色や編み方にもこだわっているから、とくに幼児用の帽子は「子どもが失くさないし、かわいい!」と奥様方にも好評で。
*
「……ふぅ。ちょっと一息付けますね」
午前の仕事をひと段落したところで、店主のジャックさんが声をかけてきました。
「おつかれさん、メアリー。今日も朝から5件もオーダーが入ったな」
奥さんのマーサさんも、ジャックさんの後ろからひょこりと顔をのぞかせて笑います。
「メアリーが来てくれてから、うちは毎日大繁盛だよ。本当にありがとうね!」
「こちらこそ。すてきなお店で働かせていただけて、幸せです」
『ブラウン帽子店』の店主夫婦は、とても気さくで優しい人たちです。行き場のなかった私たち母子に、居場所を与えてくれました。
「メアリー、奥でお昼を食べておいで。ルッカも待ってるよ」
「はい! ありがとうございます!」
帽子店の奥は、店主夫婦の住まいにつながっています。
奥へと続く仕切りを抜けると、ソファで絵本を読んでいる幼い姿が目に入りました。
――息子の、ルッカです。
「わぁい! ままだ!」
私を見るなり、大輪の花みたいな笑顔で駆け寄ってきました。
まだ3歳の幼い子ですが、室内でも私の作った帽子をかぶっています。
「お待たせ、ルッカ。いい子にしてた?」
「うん」
ルッカをぎゅっと抱きしめると、ミルクみたいな柔らかい匂いがしました。
胸にぴっとりくっつく体温。
「まま。だいすきっ!」
ルッカはまるで、しっぽを振る子犬みたいです。
でも動いているのはしっぽではなく、頭の上の小さな耳……。
「ママもルッカが大好きよ。……でも興奮しすぎると、帽子がずれちゃうわ」
店主夫婦が見ていないのを確かめてから、ルッカの帽子をかぶせ直します。金髪を掻き分けるように、金毛の猫耳がひよひよと動いていました。
私はルッカに囁きました。
「ルッカの猫さんのお耳、絶対誰にも見られちゃだめだからね……?」
「はーい!」
――私が帽子屋で働く、いちばんの理由。
それは、この子の猫耳を隠すため。
この子が、王家の血を引いていると気づかれないために。
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