姑兎 -koto-

第1話 初雪

公園のベンチで君と二人。

触れそうで触れない距離に置かれた君の手。


沈黙のまま、ジレジレと時間だけが過ぎていく。


風花が舞う黄昏時。

もうじき、帰りの時刻。


ふわりと風花が君の手にとまる。


僕は、ぎこちなく、君の手にとまった雪をはらう。

君は、一言「初雪ですね」と言った。



あれから、30年。

子供達も巣立ち、二人だけの時が戻って来た。


居間に、君と二人。

あの頃とは違う沈黙の時間が過ぎていく。


窓の外に風花が舞う。


君は「初雪ですね」と言い、ふふと笑う。


そろそろ散歩の時刻。

今日は、君を誘って、あの公園に行く。


公園のベンチに君と二人。

触れそうで触れない距離に置かれた君の手。


家事と育児に頑張った君の手にそっと手を重ねる。


風花が僕の手にとまり、スッと君が消えた。


風花と入れ代わるように天に舞う君を、ただ、黙って見送る僕。



君がいなくなって5年。

毎年、初雪の日に君の幻をみる。

それが『忘れないで』の想いなのか、『忘れたくない』想いなのかわからないけれど、僕の手に残る君の手の感触、それだけは確かな感覚。


それは、悲しいけれど、幸せで……。

僕は、もう、来年の初雪を待ちわびている。


ー完ー



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