何も買わずに出た店

なつろろ

何も買わずに出た店

何の予定もない日曜日、思い切って目覚ましのアラームもオフにして眠っていた。

目を覚ましたのは午後13時、朝早く目覚めることもなく私にしては遅い目覚めだ。


 スマホのロックを解除してSNSを徘徊する、あぁこのままだとせっかくの休みがいつものように終わる。この日の私は普通ではなかったみたいだ。

休みの日に出かけると、人混みに酔ってしまうし自分の隣には誰もいないのが苦痛で仕方ない。

そんなはずなのに、頭ではそう思っている、でもこのまま午後の1時に起きてSNSを徘徊してお休みが終わるのも何か癪だった。


 はぁ、とベッドの中でため息をついて体を起こす。

顔を洗って、タブレットでいつも化粧している時に流しているBGMまとめを聴きながら黙々と化粧をしていく。どうせ誰にも会わないから好きな格好をして好きなメイクをして……。と思ったが、平日やっている顔面工事をなぜ休みの日にやらにゃいかんのだと思考がまた邪魔をしてきた。

せめて、髪の毛だけでも外に出れるようにしないと

 ヘアアイロンを手に取ってある程度、寝癖を取る。

すっぴん風メイクだけにして、服装も家の周りだけを歩くつもりでスウェットとパーカーで、スマホに入っている決済アプリの残高を確認をして、スマホと家の鍵だけを引っ掴んで家から出てきた。


 「……寒い」

 外は、すっかり晩秋だ。

子供は冬の格好をしているし、落ち葉も色が付いている。いつも夜に帰ってくるし心に余裕なんかないから寝起きの頭を覚ますには最適な温度だと思いながらスウェットのポケットに手を入れて歩く。


 コンビニは最後に行こう、頭の中でとりあえず家の近辺ぐるっと地図を作る。カフェにでも入ろうかと思いいつも行っているカフェへ向かった。


 ブラックコーヒーに今日は運良くパンプキンチーズケーキがあったのでそれも食べることにした。

小説本でも持ってくれば良かったか?と思いながら窓際に座ったものだから、行き交う人を見ながらぼんやりと考える。

パンプキンチーズケーキはしっかりかぼちゃの味がした、ブラックコーヒーはホットにしたから温かさが沁みる。

それにしても昨日の私は何時ごろに寝落ちをしたんだろうと、チーズケーキを咀嚼しながら記憶を遡ろうとしたけどやっぱり思い出せなかった。


 カフェにはしばらくいた、お店が混んできたので足早に店を出てまた街を歩く。

部活帰りの高校生、これから家に帰る小学生、それに混ざって疲れ切った社会人も歩いている。

次は池のある公園へ向かった、昼間ならおじいちゃんおばあちゃんが池にいる鴨にパンをやっていたり、体操してるけど夕方は人が少ない。


 鴨が見たくて、ベンチに腰掛ける。

ガァガァと鴨の鳴き声が聞こえる、私は何も持ってないことを鴨にアピールするけど鴨はお構いなしにガァガァと池の端から端まで移動したりしている。

他の野鳥もいるらしいが私はあいにく野鳥には詳しくない。


 水辺というのと、どんどん暗くなってきたので公園から出ることにした、行ったことのない商店街へ行こうと思い商店街を目指し歩き始めた。


 肉屋でコロッケを買って、また人間観察をするけどあまりにも多くて断念した。

大人しく自分の好みのお店を探すことにした。


 雑貨屋さんに入って、自分は好きだけど周りはどう思うか悩んで手に取らなかったぬいぐるみのキーホルダーがあった、服屋さんに入ってたまにはこういうのを着てみようかと思った服があったけど店員さんに話しかけられて「あ、大丈夫です」と慌てて畳んだ服も。

本屋さんに入って、そう言えば気になる本があったなと思って寄ってみたら、人気作になってそれに乗っかって買った、みたいに見られるのもなぁと思ってそっと戻した本。


 どれも自分の部屋に入れて誰にも見せなければ誰かに何かを言われることなんてないし、第一、私が身につけているモノを気にする人なんていないから買えばいいのに。


 でも、どれも手にするものが思ったより高くてスマホと家の鍵しかない自分にはこの出費は痛手であったのだ、となると初手のブラックコーヒーとパンプキンチーズケーキが敗因なのではと脳内ツッコミが入るが、仕方ないじゃない、あそこのケーキ美味しいんだからと必要な出費だったんだと自分に言いつける。


 はぁ、とまたため息をつく商店街をぶらついていると商店街を抜けて飲屋街に出てしまった。引き返すかと思ったが商店街の外も歩いてみようと思って商店街をぐーっと迂回して家を目指す、このままコンビニに寄って家に帰ろう。


 飲屋街のネオンが目に刺さって痛い、あー目に優しくないとぶつぶつ呟きながら歩く。

晩御飯どうしようかな、明日から仕事か……。と次来ることは仕方のないことを悩んではどんどん猫背になっていく。


 周りは日曜日を純粋に楽しんでいる人ばかりだ、私だけがこんな猫背で日曜日を謳歌している。

信号待ちで、ふとお店のドアのガラスの反射に映った私はやっぱり幽霊みたいで猫背で会社の人たちが見たら驚く格好で家の近辺をほっつき歩いている。


 青信号になって、歩き始めてふと空を見上げてみた。

カラスは山に向かって帰っていく、月も出ていた。

私はなんとなくそれを記録してみたくてスマホで写真を撮って、コンビニへ向かう。


 コンビニに入って、気になっていた商品を手にしてカゴに入れていく。

午後の1時に起きたのもこういうちょっとした外に出るきっかけが欲しかっただけなのかと考えながら、商品を探し回りながらそんなことを思う。


 ホットスナックの什器に肉まんが入っていたので肉まんを買って、コンビニの軒下でどんどん紺になっていく空を見上げながら肉まんを食べている。

実際、決済アプリの残高が予算ギリギリで、心臓がバクバクしている。平静を装うために「肉まん一つ」と死んだ顔で頼んだのだ。


 クレカの支払いもあるし、スマホの決済アプリの残高チャージもしないといけないというかそもそも低い給料でこんな風に生活するのも良くないんだよなぁと肉まんに入っている筍の食感が良くて飲み込みたくなくて噛んでいた。


 袋の中には晩御飯らしいものは何もないお菓子とか袋麺とかそういう物しかない。

美味しい物を食べたり旅行とかしたいけど何せ体力も余裕もないから諦めてはいる。


 肉まんを食べ切って、家へ向かう。

誰にも会わなくてよかったと思いながら吸い込まれるように家の玄関へ足早く。

すっかり暗くなった部屋に明かりを灯して、ローテーブルに袋を置いて座椅子に座って、映画を見るかドラマを観るか迷って、気になっていた物を片っ端から見て行くことにした。


 そして、思い出す。

新商品のお菓子と飲み物を食べ飲みしながら映画やドラマを見ていたら土曜日もこうして寝落ちしたのだと。

まさかと思って部屋の中を見ると。

取り込んでそのままの洗濯物、まとめきれていないゴミ……私が土曜日に背けた現実が日曜日の夕方に見事ブーメランとして返ってきた。


 一旦、整理しよう。この映画を観てから。そうして土曜日の私は何時間も面倒ごとを日曜日の私はパスしており、それが月曜日から金曜日までここまで苦しめていたのかと。


気づいたらもう、気のせいには出来なくなっていた。

映画の再生ボタンを押して止めて、洗濯物を畳みながら明日から始まる仕事の呪詛を吐きながら、来週の私がいくらか生活がしやすいように今の私の夕方のこの現実逃避タイムを犠牲になるのは致し方ないこと……。


 やるべきことをやった後にはもう映画を観る気力は湧かなかった、そのままベッドに倒れ込んで。


 今日はやるまいとしていたSNS徘徊に私は手を出した。

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