言葉にしなかった恋
⭐︎Ryua⭐︎
第1話
亮は、卒業式の日の空気をよく覚えている。
少し湿った風と、誰かの泣き声と、まだ冬を引きずった桜の枝。
綾香とは、最後まで隣に立たなかった。
クラスが違ったわけでも、喧嘩をしたわけでもない。ただ、二人とも分かっていたのだ。
あの距離に立ってしまえば、何かを言わなければならなくなる。
亮は言葉を選びすぎた。
綾香は待つことをやめただけだった。
二人は同じ大学を目指していたわけでも、同じ未来を描いていたわけでもない。
それでも、放課後の教室で並んで課題をやった日や、帰り道で何でもない話をした時間が、特別だったことだけは、疑いようがなかった。
「好きだよ」
そう言えば、何かが変わったのかもしれない。
でも亮は、変わることが怖かった。
春休みの終わり、綾香は言った。
「私、前に進むね」
責めるような声じゃなかった。
むしろ、少しだけ寂しそうで、それでも決めた人の声だった。
亮は笑ってうなずいた。
それが一番正しい返事だと思ったからだ。
大学二年の春、亮は駅前で綾香を見かけた。
隣には知らない男の人がいて、二人は同じ速度で歩いていた。
楽しそう、というより、自然だった。
声はかけなかった。
かけられなかった、でもない。
――もう、自分が立つ場所じゃない。
そう理解してしまったからだ。
綾香は気づかなかった。
それでよかった、と亮は思った。
家に帰ってから、ふとスマホの奥に残った連絡先を見る。
消していないだけで、使うこともない名前。
亮はその名前を閉じて、窓を開けた。
夜風が、少しだけ冷たい。
彼らは、確かにそこにいた。
同じ時間を笑って、同じ帰り道を歩いて、同じ気持ちを胸にしまった二人。
言葉にしなかった恋 ⭐︎Ryua⭐︎ @Ryua092138
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