Moon Walker

バーニーマユミ

第1話

 僕の人生に訪れたる幸運について、僕は思い考えている。

 人生というものは月のように、絶えず形を変えていくものだと思う。美しくも儚くもあり、それでいて退屈かもしれない。そして人はみな、役割を背負って生を受けるに違いないと僕は感じていた。

 僕は生まれつき左足がなかった。正しく言えば太ももまではある。脛から下はない。それだけ。

 僕は幸運なことに、この左足を呪うようなことも、母を責めたせたくなるようなことも、一度としてなかった。僕には左足がなかったが、これをからかうような近所の歳の近い子も、大人もいなかった。そのためか、僕はこの左足を何とも思っていなかった。ある程度大きくなってから母と病院に行き、義肢をもらった。それは木製で膝や足首は右足のように曲げることができ、僕は生まれて初めてまっすぐに大地に立つ感覚を知った。

 慣れるまでは義肢に当たる皮膚が痛んだ。時間がクッションになり、だんだんと気にならなくなっていった。

 その頃には先の大戦で大怪我を負った軍人さんたちが、日常に戻ってきだしていた。町にはいくらか人が帰って来たが、町はまるで葬式の後のような静けさがしばらく続いていた。

 軍人さんたちはみな、表情を失い、見知ったはずの近所のお兄さんですら、知らない人のようで僕は怖かった。

 母はそんな僕をたしなめた。"国のために、私たちのために働いて来た人を怖がるんじゃない。敬意を持つべきよ"と。

 


 時代は暗雲が立ち込めた湖面のように、闇が乱反射していた。それはほんの少しの光すらなかったことにしてしまうほどの、重たい雲だった。晴れ間はすぐに呑まれる。ーー誰もかれも元通りの生活を願っていた。

 重く垂れ込んだ空気に逆らうように、より強く時代は音楽に勇気や癒しを求めた。

 柔らかくあたたかな声がチャートを席巻していた。テレビやラジオからはビージーズのソフトロックやディスコソングがしきりに流れていた。

 母はビリー・ジョエルがいたく気に入ったらしく、よく鼻歌で歌っていた。ピアノマン、エンターテイナー、母のレパートリーはいつも変わらなかった。朝食のメニューのように。

 僕もだんだんと興味の対象が変わっていった。友だちと遊ぶのも好きだったけれど、アメフトや野球、サッカー…どれも僕の足はなかなか思うようには動いてはくれなくて、僕はいつも焦ったかった。

 僕の足をバカにする人はいなかったけれど、年頃になってくると、僕は僕の足が意地らしかった。歩くには不便しないのに僕が楽しもうとすると、足を引っ張るんだ。

 僕は僕を恨まなかった。呪わなかった。母を責めたりもしなかった。

 母や聴こえる音の真似をして、色んな歌を覚えた。

 当時の僕の1番のお気に入りはフランキー・ヴァリのグリースだった。体を自由に揺らせて気ままに乗れるリズムは僕の足にも羽根をくれた。

 リズムは色んな音を教えてくれた。たくさんの言語を教えてくれた。ーーじいちゃんのお古の小さいピアノの鍵盤は、僕の新しい友だちになってくれた。

 いつか歌手になってみんなを楽しい気分にするんだ。僕の夢はこうやって生まれた。

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