6話「道中の雑談にて」

シャブルイを離れて半日。

地形はなだらかな丘陵に変わり、遠くには石造りの街道が伸びていた。


墨「……平和だな」


日「フラグ立てるのやめてください」


墨「言っただけで立つフラグなんざ、安すぎだろ」


日「この世界では“安い言葉ほど高くつく”んですよ」


墨「名言っぽく言うな」


他愛のない会話。

だが、互いに“何も起きない”ことを、どこか警戒している。


日「そういえば……墨染さん」


墨「ん?」


日「派閥を三つ使える人って、やっぱり……珍しいんですよね?」


墨「珍しいどころか、嫌われ者だな」


日「ですよね。普通は一つでも“正義”を名乗れば精一杯なのに」


墨「混ぜもんは嫌われる。酒も思想も、な」


日「……でも、切り捨てなかった」


墨「は?」


日「悪魔派の残党の人。あの時、討伐しなかったでしょう?」


墨「……殺す理由がなかった」


日「それだけですか?」


墨「それだけで十分だろ」


日丸は一瞬、何か言いかけて、口をつぐむ。

代わりに、少しだけ歩調を落とした。


日「……心を斬る、でしたっけ」


墨「覗くだけだ。斬るかどうかは、その後決める」


日「怖い力ですね」


墨「怖がるやつは、大体“自分の心”が見たくねぇだけだ」


日「……」


沈黙。

だが、気まずさではない。


日「墨染さん」


墨「なんだ」


日「もし、私の心を斬ったら……何が見えると思います?」


墨「知らねぇよ。本人に聞け」


日「……ですよね」


その時だった。


遠くの空に、白い塔の影が見え始める。

陽光を反射し、神殿のようにも、牢獄のようにも見える建築。


日「……あれが、タブールです」


墨「戦女神の都、か」


日「武器、闘技場、信仰、暴力……全部が“正しい”街です」


墨「最悪じゃねぇか」


日「でも、だからこそ」


日丸は、少しだけ微笑った。


日「墨染さんみたいな人が、一番目立つ場所でもあります」


墨「……面倒ごとの匂いしかしねぇな」


墨染は左腕の義体を、無意識に握りしめる。

その黒い刀は、まだ抜かれていない。


だが――

心を斬る準備だけは、いつでもできていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る