4話「酒が無くとも酔いはある」

墨「とまぁ、快諾したはいいが……」


日「ま、待って……くださいよぉ〜……」


どうやら昨日の軽いランニングが祟ったらしい。

全身筋肉痛で、まともに歩けていない。


この状態で登山は無茶だな。


墨「よし! お前はここで待機だ!」


日「……ッ!」


想像以上にショックを受けた顔をする。

いや、そんなに酷いこと言ったか?


日「あ……あなたも、そうやって私を置いていくんですか?!

やれます! 私、やれますから!! 連れて行ってください!!!」


必死すぎるだろ……。

その気迫に、逆に罪悪感が湧いてくる。


墨「置いてかねぇって! そんな縋るなよ!

俺が悪者みてぇになるだろ?」


日「……置いて、行かないんですよね?」


墨「旅は道連れ、世は情けってやつだ」


日「……絶対に帰ってきてください! 約束ですよ!」


墨「お、おう……」


妙に重たい言葉だった。

あいつの過去が、どんなものだったのか――少しだけ想像がつく。


日丸が宿に戻ったのを確認し、俺は谷へ向かう。



いざ登ってみると、異様な光景に気づく。

滝――いや、水の流れがやたらと多い。


しかも、微かにアルコールの匂いが漂ってくる。


墨「うへぇ……目的がなきゃ、ここで一杯やりてぇとこなんだがなぁ」


愚痴を零しつつ、駆け上がる。

そろそろ一番大きな滝に着く頃――


刹那。


背後から、杭のようなものが心臓めがけて飛来した。


間一髪で回避したが、服が裂ける。


墨「この速度……てめぇ、“機構派”だろ?」


??「ふむ。いかにも。我は機構派のシミターである!」


墨「へぇ? 何があって酒豪派の大事なもん奪ってんだ?」


シ「今作成中の大型装置が大量にエネルギーを消費してね。

代用品として、この水を回収してあげているだけさ」


墨「どストレートにカスだな!

今すぐその首、すっ刎ねてやらぁ!」


シ「やってみるがいい! 忌み子とやら!」


……チッ。

俺の素性を知ってやがる。


日丸を連れてこなくて正解だったな。


影に隠れ、遠距離からチクチク撃ってきやがる。

だが――


こんな野郎に、心を覗く価値はねぇ。


墨「……解放」


シ「ほう、その“真剣モード”か。

隠れている俺に当てられるのかな――」


今だ。


左腕から黒き刀を抜刀する。

円を描くように振り抜いた刃は、

シミターの隠れていた木ごと、根元から両断した。


シ「な……に……?」


墨「言っただろ? すっ刎ねるってな」


実際に斬ったのは首じゃなく、胴から下だが。


さて……どこかで他の連中が見てただろうな。

どうせ、もう撤退してる。


墨「ちゃちゃっと下りて……6割引の酒、飲むぞ〜!」


谷を下る途中、匂いを嗅ぎすぎたせいか、

まだ一滴も飲んでいないのに、少し頭がふわつく。


墨「う〜い……解決したぞ〜……」


日「墨染さん!!」


うわ、タイミング悪ぃ。


墨「ど、どうしたんだい日丸くん?」


日「言わなくてもわかってます。解決したんですよね?

ですけど……それのおかげで、新しい問題が……」


墨「……問題だァ?」


村A「俺が! 飲む権利があんだよ!!」


村B「適当こくんじゃねぇ! 俺だろうが!!」


墨「……何やってんだ、あいつら」


日「村の人たち全員が、飲む権利を主張し始めてて……」


墨「それ、どうして?」


日「理由は特にないと思います。

酒豪派を名乗るだけあって……誰よりも多く、早く、美味しく飲みたいみたいで」


飲めなくなってた間は協力的だったが、

いざ飲めるとなった瞬間、これだ。


墨「……村長に聞いてみっか」


長「6割? なんの話じゃ? そんなもん知らん!」


墨「あ? そりゃねぇぜ村長。

命張った俺の頑張りはどうなるんですかねぇ?」


長「知らん! さっさと帰れ!!」


……ああ。

こうなる気は、してたんだ。


日「……墨染さん。

これは……切れませんよね?」


墨「……当たり前だろ」


墨「人の心はな。

魔物より、よっぽど厄介なもんだ」


そう言って悟ったような言葉を吐きながら、

内心では理解している。


――脳死で信用した、己が悪いのだ。

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