下半身麻痺の少年がスキル【AI】で現代ダンジョンを開拓する話

@Aozora_713

第1話 歩けない少年

 世界中にダンジョンが存在するようになってから、もう何十年も経つ。

 危険と隣り合わせでありながら、莫大な資源と可能性をもたらすその存在は、今や人々の生活の一部となっていた。


 ニュースでは毎日のようにダンジョンの話題が流れ、街の外れには巨大な塔や深い穴が当たり前のように存在している。


 そんな世界で、僕は生まれた。


 ――歩けない身体で。


 三歳の頃、幼馴染と遊んだ帰りに事故に遭ったらしい。

 らしい、というのは、正直ほとんど覚えていないからだ。


 覚えているのは、目を開けた時に見えた白い天井と、必死に涙をこらえようとしていた母の顔。

 それから、医者の低い声。


「命が助かったのは奇跡です。ただ……下半身の麻痺は残るでしょう」


 その一言で、僕の世界は大きく変わった。


 歩くことはできない。

 走ることも、跳ねることも、友達と同じようにはできない。


 家の中にある小さな段差。

 学校までのわずかな坂道。

 それらすべてが、僕にとっては高い壁だった。


「無理しなくていいのよ」


 母はいつもそう言ってくれたし、父も変わらず接してくれた。

 家族は誰一人、僕を見捨てなかった。


 ――それでも。


 窓の外を見ていると、胸の奥がざわつくことがあった。


 街の外れにそびえ立つ、黒い塔。

 ダンジョン。


 大人たちは言う。

 危険だ、近づくな、命を落とす場所だと。


 それでもテレビの向こうでは、冒険者たちが輝いて見えた。

 ダンジョンから持ち帰られる資源。

 世界を変える力。


 歩けない僕でも、あの場所なら――

 何かを得られるんじゃないか。


「……また見てるの?」


 背後から声がして、はっと振り返る。


 姉だった。


 姉は僕より少し背が高く、いつも落ち着いた表情をしている。

 何も言わず、僕の肩にそっとブランケットをかけてくれた。


「寒いでしょ」

「……うん」


 姉は、僕が無理をしていないか、誰よりも早く気づく。

 歩けなくなってから、ずっとそうだった。


「ダンジョン、怖い顔してるよね」


 姉の視線も、同じ塔に向いていた。


 怖い。

 きっと、それは本当だ。


 それでも――目を離せなかった。


 七歳になったある日。

 僕は食卓で、ずっと胸の奥に溜めていた言葉を口にした。


「ねえ……ダンジョンを、見てみたい」


 一瞬、時間が止まったように感じた。


 母は驚いた顔をし、父は黙り込む。

 そして姉は、少しだけ困ったように笑った。


「……簡単に言うね」


 それでも、否定はしなかった。


 この日が、僕の人生の分かれ道になることを。

 歩けない少年が、世界を変える一歩を踏み出す始まりになることを。


 ――この時の僕は、まだ知らなかった。

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