スワイプの先の君ー24時間では消えない後悔ー

夏凪みつな

第1話

 学校から帰ると着替えもそこそこに、みんなの日常を流れ作業のようにスワイプしていく。友達とラーメンを食べている様子や、教室で踊っている女子。

 友人たちの、当たり障りのない普段の様子が映し出されている。


―みんな充実してんなー


 高校に入学して2か月。クラスメイトとはだいぶ打ち解けた。学校はどうかと聞かれると、楽しい。新しい友達も増え、充実した日々を送っている。


 いくつかスワイプしたところで、教室で満面の笑みを浮かべた、中学時代の友達のドアップが現れた。久しぶりのアホ面に吹き出しそうになる。


―こいつも楽しそうにやってんな


 そのまま指をスライドさせようとした。が、勝手に手が止まる。

 俺の目は、その画像のある一点から動かなくなった。友達のドアップには目もくれず、俺は、背景の教室の様子を凝視していた。


―美優……


 大きく映っているわけではないが、俺が美優を見間違うわけがなかった。


 そのストーリーに映りこんだ彼女は、小さくて見えづらかったが、それでも隣の席の男子に笑いかけていることは分かった。


 自分の知らない場所で知らない男子に笑いかける彼女を見て、心臓をぎゅっと、力まかせに握りしめられたような痛みが走る。俺が一目ぼれした、あの笑顔だった。



 

 中3の冬。その日の夜はいつも以上に寒く、時々雪がチラついていた。


「高校が離れても、私たちの関係は変わらないよね?」


 美優を塾まで迎えに行った帰りに、寒さで鼻と目を真っ赤にさせた顔で美優は言った。


「あったり前じゃん。自信しかねーよ」


 繋いだ左手を思いっきり高く上げ、ガッツポーズをする。つられて美優もガッツポーズする形になり、二人で笑いあった。


 ほとんど隠れていた月が、その瞬間だけは俺たち二人をしっかりと照らしてくれていた。




 中3で同じクラスになった美優に一目ぼれした俺は、知らない場所で、知らない男子と話している美優を見るのは初めてだった。


 違う高校に進学すると分かった時点で、そんなことは分かり切っていたし、覚悟はしていた。したつもりだった。


―誰だよそいつ


 スマホを持つ手に思わず力が入る。


 本当は美優と同じ高校に行きたかった。でも、美優と出会うまで、勉強という勉強をしてこなかった俺が、美優と同じ高校なんて行けるはずもなかった。


 少しでも受かる可能性があったのなら、間違いなく彼女と同じ高校を選んだ。中3になって、こんなにも好きな子に出会えるなんて、思ってもいなかった。


 もし分かっていたら、中1、いや、小学生の時から勉強を死ぬ気でがんばっていただろう。


 中3からがんばっても、俺にはもう時間がなかった。違う学校を選ばざるを得なかった過去の自分に腹が立つ。


 そんなことを今さら悔やんでも仕方ないが、それでも、友達のストーリーに映りこんだ笑顔の彼女を見ると、そう思わずにはいられなかった。


 梅雨入りはまだのはずなのに、湿り気のある風が部屋に流れ込んでくる。月はぶ厚い雲で覆い隠されていて、息をひそめていた。


「ダセ―な、俺」


 そうつぶやき、感情と一致しないハートマークをタップし、ベッドへダイブした。

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