【飽きた】専業主婦でSランク冒険者の私は勇者となって元旦那のバ美肉魔王を概念切断のハサミでロボに改造しました。
夜行
Sランク主婦の朝は早い。ゴミ出しは、世界を救うついでに。
辺境の村、ルミナス。
小鳥のさえずりと、カコン、という乾いた洗濯板の音が響く。
元Sランク冒険者、現在は「最強の専業主婦」である私は、背中に一歳半になる息子を背負い、鼻歌を歌っていた。
「♪〜 今日の汚れは、今日のうちに。……あ、バブちゃん、動いちゃダメよ」
背中の息子がモゾモゾと動く。そのとき、平和な村の空気が一変した。 地響きと共に、村の防壁を突き破って現れたのは、災害級モンスター『グレート・タスク・ベア』。身の丈5メートル、鋼鉄より鋭い牙を持つ、かつての私なら報酬金で家が一軒建つレベルの獲物だ。
「オォォォォォーーーーン!!」
魔物の咆哮が、ようやく寝かしつけた息子の眠りを妨げようとする。 私は、ぴくりと眉を動かした。
「……静かにしてって、言ったでしょ。今、やっと背中で寝たところなのよ」
私は腰のポシェットから、使い慣れた「裁ちバサミ」を取り出した。 それは伝説の鍛冶師が打った神話級の遺物ではない。私が百円ショップ……ではなく、概念の果てから拾い上げた『概念切断のハサミ』だ。
魔物が、その巨大な牙を剥き出しにして私に飛びかかる。 私は避けない。ただ、空中でハサミを軽く鳴らした。
パチッ。
【概念切断が発動しました】 【対象概念: 牙 】【切断内容: 鋭さ】
瞬間。 私の喉元に迫っていた魔物の牙が、まるで茹で過ぎたアスパラガスのように「ふにゃり」と折れ曲がった。
「ガッ……!?」
魔物は困惑し、何度も私の喉を牙で突こうとするが、それはもはや「柔らかいクッション」を押し当てられているのと変わらない。鋭さを失った牙に、殺傷能力など存在し得ないのだ。
私は冷めた目で、魔物の足元を見やる。
「次は、あなたの【野生】を切り取るわ。そんなに暴れたいなら、家計のために働いてもらわないと」
パチッ。
【対象概念: 野生 】【切断内容: 自由意志】
魔物の瞳から光が消えた。 狂暴だった巨大な熊は、その場に端座し、私の指示を待つ忠実な「モノ」へと成り果てた。
「よし。じゃあ、その大きな背中で洗濯物干しを手伝いなさい。ちょうど干し竿が足りなかったの」
村人が腰を抜かして見守る中、私は手際よく「元・魔物」に洗濯物をかけていく。 その時、空の向こうから、キラキラとしたピンク色の光と共に、耳障りな合成音声が響き渡った。
『おっはるる〜☆ 全人類のみんな、生きてる〜? 魔王バ美肉・ハルルたんだよぉ!』
空に浮かび上がる魔法のホログラム。そこに映っていたのは、かつて私の給料を使い込んでキャバクラに通い詰め、離婚届を叩きつけたはずの元旦那だった。
彼は今、究極の魔法具『生成の筆』を使い、世界の概念を書き換えて「最強の美少女魔王」へと姿を変えている。
『えー、今日のお知らせはぁ〜……「不倫は男の甲斐性である」っていう概念を世界に実装しちゃいまーす! これでみんなハッピーだよねっ!』
私は、濡れたタオルをパンッ!と叩いてシワを伸ばした。 視線は、空のバ美肉魔王を捉えている。
「パパ……。あんたが『生成』するそばから、私が全部『切断』してあげる。……まずはその、ふざけた『自由意志』からね」
私はハサミをポケットに仕舞い、背中の息子を抱き直した。 Sランク主婦の戦いは、いつだって家事の延長線上にある。
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