はい。私の高校にヴェルサイユ・ロゼが公演に来てくれたときに……


「志望動機はなんですか?」


「はい。私の高校にヴェルサイユ・ロゼが公演に来てくれたときに女優の彩光寺麗子さんの演技に感銘を受けました。そのあとSNSで広告を見たときには『ぜひ働きたいな』と思い、応募しました!」


「………よし。168回目にしてようやく志望動機がスラスラと言えたな」


「よく数えてたね。お疲れさま」


「お前、自分の記憶力のなさに罪悪感は湧かないのか?」


彗がヴェルサイユ・ロゼに短期バイトとして潜入するにあたり、宵は面接の練習を彗にやらせていた。


絶望的にまで記憶力が悪い上に1分ごとに集中力が切れる妹に文章を暗記させるのは至難の業であった。


「もう、そんなに言うならお兄ちゃんが行けばいいでしょー!」


「いや、ダメだ」


宵はハッキリと首を振った。


「俺も自分のバイトに行かなければならないし、もし彩光寺の楽屋やロッカーを掃除する仕事があるとすれば女子にやらせるだろうから、そのときに満月鏡を見つけられる可能性もある。……かなり低いがな」


彩光寺麗子……もとい、二人が冬子だと考えている人物には「予告状」を送りつけてある。


それがうまくいっていれば冬子は満月鏡を肌身離さず持っているはずだが、油断して楽屋やロッカーに置きっぱなしという可能性も否定できない。


仮に置きっぱなしであった際に素早く盗むというラッキーな状況を見逃さないためにも、この潜入は女子である彗にやらせたいというのが宵の主張だった。


「ま、大丈夫よ。私一回覚えたら完璧に頭に入るタイプだから。本番では一言一句間違えずに披露してあげる」


彗は目を半開きにし、クイと顎を上げて自信ありげに兄の方を見た。


「不安だなぁ……」


宵は不安ながらも妹に任せるしかないこの状況に、頭を抱えた。



──────────────────



そして面接本番。


彗はヴェルサイユ・ロゼが現在この街で拠点にしている、街で一番大きな体育館の中にある小さな会議室にアルバイト候補生として通されていた。


「次の方、どうぞ。そちらにお座りください」


「はい。私の高校にヴェルサイユ・ロゼが公演に来てくれたときに女優の彩光寺麗子さんの演技に感銘を受けました。そのあとSNSで広告を見たときには『ぜひ働きたいな』と思い、応募しました!」


「まだ何も聞いていませんが?」


「はい。私の高校にヴェルサイユ・ロゼが公演に来てくれたときに女優の彩光寺麗子さんの演技に感銘を受けました。そのあとSNSで広告を見たときには『ぜひ働きたいな』と思い、応募しました!」


「大丈夫ですか?私の声は聞こえていますか?」


「はい。私の高校にヴェルサイユ・ロゼが公演に来てくれたときに女優の彩光寺麗子さんの演技に感銘を受けました。そのあとSNSで広告を見たときには『ぜひ働きたいな』と思い、応募しました!」


「コピー&ペーストしてる?」


「はい。私の高校にヴェルサイユ・ロゼが公演に来てくれたときに女優の彩光寺麗子さんの演技に感銘を受けました。そのあとSNSで広告を見たときには『ぜひ働きたいな』と思い、応募しました!」


「……面接は以上です。お帰りください」


「はい。私の高校にヴェルサイユ・ロゼが公演に──」


「お帰りください!!聞いてる!?帰れって言ったの!君不採用だから!!怖いって!!」


「──来てくれたときに女優の彩光寺麗子さんの演技に──」


「誰かぁ!ヤバい子が来ちゃった!帰らせて!!」


「──感銘を受けました。そのあと──」


「あ、警備員さんお願いします!!そう、その子です!!椅子から引き剥がして連れて行ってください!私も手伝いますから!」


「──SNSで広告を見たときには『ぜひ働きたいな』と思い──」


「ダメだ!こいつ体幹が強すぎて微動だにしない!!椅子から全く引き剥がせない!?どうなってんだこの子!?人間ってこんなに『動かない』ものなのか!?本当に女子高生か!?」


「──応募しました!」



───────────────────



「なんか採用されたけど、接客とかは全部NGで、メインが高所作業とかの担当になっちゃったみたい。あとは裏方の掃除とか……」


「え?」


翌日、採用のメールを受け取った彗は宵にスマートフォンを見せた。


宵が確認すると、確かに無事採用されたらしい。

しかし担当に「高所作業」「舞台裏・楽屋などの清掃」「接客は禁止」などと書かれている。


さらに連絡メールの後半には『中村さんはコミュニケーションに少し難ありでしたが、体幹の強さは高所作業などに最適です。ぜひヴェルサイユ・ロゼの一員として一緒に働きましょう』と書かれている。


「……お前、面接官に体幹をアピールしたのか?」


宵は訝しげな顔で彗の顔をじろりと見た。


「するわけないじゃん。だって、アルバイトの面接だよ?普通に椅子に座って志望動機を話しただけだよ」


「………だよなぁ」


宵は不思議そうに、まじまじと彗の顔を見つめた。

嘘をついている様子もなく、彗にしては珍しくまともな事を言っている。

普通の面接で体幹をアピールするなど、あり得ないことだ。


「あと『コミュニケーションには難あり』というのも気になるな……彗、本番ではちゃんと志望動機は言えたのか?面接で言った通りにもう一度言ってみろ」


「はい。私の高校にヴェルサイユ・ロゼが公演に来てくれたときに女優の彩光寺麗子さんの演技に感銘を受けました。そのあとSNSで広告を見たときには『ぜひ働きたいな』と思い、応募しました!」


言い終わった彗に相変わらずのドヤ顔を見せつけられて宵は少し苛立ったが、確かに志望動機に不審な点はなかった。


「……完璧だな。疑ってすまなかった」


宵の中には拭いきれない疑問が残ってしまったが、結果的にこれは最も良い条件での採用と言える。


周囲の目が多い接客系の仕事が無しで、舞台や建物の構造を調べる機会が多い清掃や高所作業が中心となったのは、今回の潜入調査においては僥倖(ぎょうこう)に他ならない。


こうして無事面接を通過した彗は歌劇団に採用され、潜入調査とアルバイトをこなすことになった。


「なんか、引っかかるなぁ……」


宵の心に、一抹の不安だけを残して。

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