012 ある男
男は、疲弊していた。
今日も、ついさっきまで事件を止め、“なかったことに”してきたばかりなのだ。
薄暗い部屋に、荒い呼吸だけが残っている。
指先は震え、視界の端ではノイズのような白い粒がちらついていた。
「……また、間に合った。けど……」
声はかすれ、誰にも届かない。
頭の中には、改ざんした記憶の断片がまだ熱を帯びたまま散らばっている。
果たして、世界を“滅び”へ向かわせる流れを、本当に押し返せたのか。
それとも――
ただ“滅び”の速度をほんのわずか遅らせただけなのか。
ここまで来ると、
「つまらなくなって、アイツの手がくだる」のが先なのか、
「アイツとは別の理由で世界が滅ぶ」のが先なのか、もはや検討もつかない。
男は、もはや思考すらまともに回らないほど疲れ切っていた。
静かに目を閉じる。
まぶたの裏に、確かに見えた――
あの日、自分が配った“力”が、世界に刻んだ最初の亀裂。
(……これが、本当に、アイツの言う“面白い世界”の始まりだったのか?)
思考は重く沈み、どこにも答えはない。
静寂の中で、ただ圧倒的な疲労だけが、確かな現実として残っていた。
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