003 終わりの始まりの、始まり ①

朝のホームルームが始まる。

担任の成瀬隆也先生が、いつものようにドアを開けて入ってきた。


「おーい、席につけー。まだ寝てるやつ、顔洗ってこい」


低いけれど、不思議と優しさの混じった声。

その響きに、生徒たちはゆっくりと腰を上げ、ざわめきが少しずつ静まっていった。


出席を取る間、教室には鉛筆の音と紙が擦れる音だけが残る。

窓の外では、薄い雲が空を覆っていた。


……なんか、気味が悪い天気だ。


もうすぐ自分の番が来る。そう思って、窓に向けていた焦点を教卓へ戻す。


「……影浦」

「はい」


短く返すと、成瀬先生は軽く頷いて次の名前へ進んだ。

ただそれだけ。けれど、妙に“静かすぎる”空気が引っかかった。



胸の奥で、小さな警鐘が鳴る。


――何かが起きる。


そう確信できるほどの勘が働いた。

けれど、教室にはいつも通りの朝が流れている。

何が起こるのかまでは分からない。考えすぎだ、と自分に言い聞かせて思考を止めた。


……まあ、いいか。

陽介はそう区切りをつけ、ノートを開いた。


そのとき、隣の席から小さな声が聞こえた。


「ねぇ、今日も部活、行くでしょ? コンピュータ部だったっけ?」


南野々花が、いつものように柔らかく微笑んでいる。


「そうだよ。……まあ、たぶん行く。」

「そっか。がんばってね。」



チャイムが鳴った。

いつものように始まり、いつものように過ぎていく朝。

そして、いつものように――授業が始まった。


……ただ一つ違っていたのは。


その“静けさ”が、まるで世界全体を包み込む前触れのように感じたことだった。

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