一文字2ミリ
なかむら恵美
第1話
袋から出す。出来上がりを確認する。
「はぁっ?」驚いた。
「はぁ」店主が続ける。「字数が多いので、どうしてもそのように」
16ミリの円(まる)い中に、ごちゃごちゃとした細い線。
何だか分からぬ迷路みたいに、わたしの氏名が記されている。
字体は篆書体(てんしょたい)。材料は黒檀。仕様は極めてオーソドックスだ。
必要があり実印を作ったが、まさかここまでとは。
「まっ、いいわ。字数で料金が変わる訳じゃないから」
丁度を現金で払い、店を後にする。
碁盤城ケ崎(ごばんじょうがさき)
覚えるのに、どれだけ苦労したか。
小学校にあがる迄に完全、漢字で書けていたが、それまで苦労だらけ。
苦労と苦行の連続であった。
登志海(としみ)
誌的であるけど、覚えるまでには以下同文。
「えっ?」驚かれ、「はっ?」繰り返され。
「漢字で、どうやって書くの?」紙と筆記具を差し出され。
大きく大きく記していった。
「ごじょー」学生時代の綽名であるが、「ごー何とかさん」
デパートでバイヤーとして働く今では、取引先でまず呼ばれ、「碁盤城ケ崎、ですね」
社内関係者が、正しく教えてくれている。
但書有(ただしがきあり)
母の旧姓にも勝るとも劣るまい。
三文判からしてオール特注、特注するしかないのだ。
その分大事にしよう、ちゃんとしまおう、保管しなければ、とは思うが。
しかしねぇ。
帰宅して、試し印。レシートの裏面に捺印した。
2ミリ。一文字2ミリぐらいではあるまいか。
16ミリの円(えん)だもん。実印って。仕方ないかぁ。
(はぁ~っ)誰ともなくわたしは溜息をついた。
<了>
一文字2ミリ なかむら恵美 @003025
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