ep.7 始動
楓がいた場所に突如爆発があったかのような土煙が上がり、衝撃波による突風が吹き荒れた。
「大丈夫か?」
土煙が徐々に風に流れていって少しずつ視界が晴れてくる。巨大な影が見えた。オーガが高速移動で突っ込んだのだろう。
「あいつ…まじか」
楓が神器で化け物の拳を止めていた。オーガ腕の筋肉がミリミリと音を立てているかのように動いているところを見ると、あの化け物が手加減などしていない事は明白だった。なによりあの高速移動に反応できたのが信じられない。
「ってぇ」
力比べは拮抗していたように見えたが、楓が苦しそうな表情を浮かべると巨大な拳に押し飛ばされ後方の木に激突した。
「全然効いてない。やっぱり無理かも。背中めっちゃ痛いし」
涙目で瞬に助けを求めているこの情けない男が、オーガの一撃を真正面から止めたのだ。状況をすぐには呑み込めそうもないが、ただならぬ事が起きているのは確かだった。
「おい!集中してくれ」
瞬も隙かさず神器の攻撃で援護する。立ちあがる気力は残っていないが、引き金を引く事は出来る。生き残る為にやるべき事は全てやりきらなければ。
気がかりなのはオーガの行動だ。高速移動は聞いたことがなく驚いたが、今のところそれだけだ。高速移動と腕力だけの脳筋がレベル5に位置付けられている筈はない。
(集中しろって言ったって…)
先程はよく分からないまま化け物の一撃を受け止められたが、自分でもどうやったかは分からない。だが受けることは出来たし力にそこまでの差も感じなかった。有効打になるとしたらやはり頭部を狙うべきだろう。
作戦が決定したので楓は神器を前に構えたまま脚に力を込め走り出そうとした。しかしー
「は?」
前に進もうと脚に力を込めただけなのに、楓はいつの間にかオーガの背後にいたのだ。瞬も目を疑ったし、本人が一番驚いていた。
「ウゴゴォォオオ」
オーガが悲鳴を上げた。左脇腹には抉れたような大きな傷が出来ている。偶然通り過ぎる際に神器が脇腹を掠めたのだろう。
「え、何がどうなって…」
「油断するな!すぐに再生するぞ!」
昔、本で読んだことのあるオーガの有名な特性の一つだ。瞬の叫びと同時に傷口がジュクジュクと動き出し傷口を塞ぎ始めた。
(この純正神器、身体能力まで底上げする機能もついているのか?今のスピードといい、パワーといい自分の身体じゃないみたいだ)
試したいのは山々だが、今は命がかかっている。再生は阻止したいが正直自分の動きをコントロール出来る自信は無いし突っ込むのは辞めたほうがいいだろう。
「グガガァァァア!」
再生の終わったオーガが雄叫びをあげ構えを取った。楓が危惧した通り、突っ込むのは辞めたほうがいいだろう。この化け物には知性がある。さっきのスピードにも対応して来そうだ。
(パワーじゃ勝てないし、スピードは制御出来ない。なら)
楓は慎重にオーガに近づいた。ゆっくりと自分に言い聞かせていてもかなり速度は出ている。オーガが迎撃しようと拳を振り上げた途端、目の前から楓の姿が消えた。
「らぁっ!」
オーガの頭上から神器が振り下ろされた。楓は真上へ全力で飛んだのだ。どこまでも空高く飛んでいってしまう可能性もあったが、空中に神器を数度振ることでなんとか勢いを殺せた。オーガの頭はグシャリと潰れ作戦成功だ。
〜
「凄いどころの話じゃ無いぜ。レベル5の邪種を倒すなんて」
背中に乗る瞬は今だ興奮が冷めないようで、絶え間なく称賛の声をかけ続けてくる。楓はそんな事より瞬の左脚が無くなっている事が衝撃的過ぎてそれどころでは無い。急いで診てもらわないと。
「そうか?まぐれだろあんなもん」
まぐれなんかでレベル5の邪種を倒せる筈はない。が。確かにあのオーガの行動は奇妙ではあった。
「あ、そんな事よりここまでで良い。降ろしてくれ」
「は?そんな身体で何言ってんだよ」
「お前の神器見られたら不味いし、この森にも不法侵入したんだろ?」
確かに。と楓は納得した。怪我をした親友を歩かせるのは心苦しい。悩んでいると前方から人の気配がした。避難した他の生徒達の呼びかけを聞いて捜索隊が組まれたのだろう。
「大丈夫。味方だ。お前は隠れてろ」
瞬がそう言うのでゆっくりと背中から降ろし森の中に身を隠した。こちらに向かって来てたのがしっかり人間であることを確認してから楓も見つからないよう脱出することにした。
その後、新井先生は見るも無惨な姿で捜索隊に発見された。詳細は伏せられたが、瞬や自分もそうなっていたかもしれないと思うと背筋が凍る。レベル5の出現ということで検問所の周辺は大騒ぎになっていた。お陰で楓は何食わぬ顔で人混みに紛れて脱出することが出来たのだが。オーガの死体等は見つかっていないためこのエリア一体はしばらく厳戒態勢が敷かれるようだ。とにかく瞬の命があったは幸いだった。
〜
「いつまで泣いてんだ?」
困ったように笑いかける。もう決めたことなのだ。誰になんて言われようが変わることは無い。
「だってさぁ」
瞬はこの学校を退学し、転校する事になった。確かにあの脚では神器科を続けるのは厳しいかもしれないが普通科に編入してもよかっただろう。
「じゃあ行くわ。元気でな」
(俺がもっとはやく神器を届けられたら)
あの日から後悔の念に襲われ続けている。その苦しさを吐き出す為に瞬に何度も謝罪しようかとは思ったが脚を失って一番苦しいのは本人だろう。
「あぁ。お前もリハビリ頑張れよ!」
楓は旅立つ親友の背中に大きく手を振った。
〜
「本当によろしいのですね?」
「あぁ。私が直接見張るのが一番だろう?」
(だからといってここまでする必要は無いのでは?)
口にこそ出さなかったがやはり心配だ。しかし主が決めた事に対し反対する気もない。
「留守は頼んだ」
「はい。いってらしゃいませ」
グレアは制服姿のミアを見送った
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