第4話 うさぎ
「すごい……! 本当に、物語の世界だ……!」
僕と、生身の姿を取り戻した彼女は、見慣れないキノコの森の中を歩いていた。
彼女は嬉しそうに、地面に咲く青い光を放つ花に触れたり、空に浮かぶ二つの三日月を眺めたりしている。
その横顔には、現実世界では見ることのできなかった、純粋な喜びが溢れていた。
「ねえ、佐藤くん。私、ずっとこんな世界を夢見てたんです。病室の窓から見える景色は、いつも同じ四角い空と、灰色の建物ばかりで……」
彼女が振り返ったその時、森の奥から、何かがこちらへ駆けてくる気配がした。
ガサササッ!
「!?」
身構える僕の目の前に飛び出してきたのは、純白の毛並みを持つ、大きなウサギだった。
そのウサギは、真っ赤な瞳を大きく見開き、まるで僕たちに何かを訴えかけるように、ピョンピョンと飛び跳ねている。
そして、その首には、小さな金色の鍵がぶら下がっていた。
「うさぎさん……?」
彼女がそっと手を差し出すと、ウサギは臆することなく、その小さな鼻先を彼女の掌に擦り付けた。
その瞬間、ウサギの首にぶら下がっていた鍵が、チカッと光を放つ。
「この鍵、どこかで見たことあるような……」
僕が首を傾げていると、ウサギは僕たちの足元を軽く蹴り、森のさらに奥へと走り出した。
まるで、「ついてこい」とでも言うかのように。
「待って! どこへ行くの?」
僕たちが慌てて後を追うと、ウサギは巨大なキノコの根元にある、古びた木の扉の前で止まった。
その扉は、蔦に覆われ、まるでずっと昔からそこに忘れ去られていたかのように佇んでいる。
そして、扉の中央には、ウサギの鍵とぴったり同じ形の鍵穴があった。
「ここが……何かの始まり、なのかな」
「そうかもしれません。私、なんだかドキドキします。この扉の向こうに、私の『忘れ物』があるような、そんな気がするんです」
彼女はウサギが落としていった鍵を手に取り、ゆっくりと鍵穴に差し込んだ。
カチリ。
再び、あのスイッチが入ったような音が響き渡る。
扉はきしみながら、ゆっくりと開いていく。
その向こうには、闇が広がるばかりで、何も見えない。
しかし、その闇の中から、どこか懐かしい、優しい声が聞こえてきた。
「……やっと、来てくれたのね。私の、可愛い子たち」
それは、一体誰の声なのか。
そして、この扉の先に、僕たちは何を見つけるのだろうか。
期待と不安が入り混じった表情で、僕と彼女は顔を見合わせた。
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