雨は神様の涙なのです!

ナリム

雨は神の涙なのです!

 僕、薄切明久うすぎりあけひさの世界には、神は存在しない。


 生まれてこの方二十六年、僕の人生は散々だ。四歳には人生初めての交通事故にあい、右腕と左腕を骨折した。

 それからも、ある日はトラックが急に横から出てきて、避けたと思ったら後ろからバイクにひかれたり、ある日には誰かが壊した窓を僕のせいにされてしかられたり、数えだしたらきりがない。


 神がいるならもっといいことがあってもいいはずだ!


 そんなことを考えていると車がちょうど通りかかり、今降ってる雨でできた水たまりをはねその水しぶきが全身にかかる。


「ほらな、今日もまた運がついてない。これが罰当たりならもっと助けてみやがれ神!!」


「こんなこと考えたって無駄だな。早く家帰ってコーヒーでも飲もう」


 考えるのを諦め、家への最短ルートを考えなしのロボットになりきりたどっていく。

 その途中の公園の滑り台の上で、傘もささずに空を見上げる少女がいた。

 僕はその姿に見とれてしまい、数十秒間立ち尽くしてしまう。

 水色の髪に立ち振る舞い、その他もろもろのすべてがとても美しかった。一言で例えるなら天使だった。


「おじさん誰です?」


 少女が僕の存在に気づきまっすぐ近づき訪ねてくる。


 やべ、ずっと見てたから気づかれちゃったか? ってただのきもいおっさんじゃん僕!!


「その違くて、ただきれいだなと思っただけでその……」


「お名前教えて?」


「薄切明久です!」


「えへ、そっか! 明久ですか! 明久!!」


 名前呼ばれるってこんなにうれしいことだったのか……


「君の名前は?」


「きりか? きりかはねぇ~雨織霧香あまおりきりかなのです!」


「霧香ちゃんか、いい名前だね! それで霧香ちゃんはあんなとこで何してたの?」


「空見て! 雨降ってる!」


 空を指さしながら語り始める。


「そうだね! 雨降ってるね……」


 買い物行くときの天気予報にはずっと晴れって書いてあったのに……憎し。


「雨はね神様の涙なのです! だから泣き止ませるにはどうすればいいか考えてたのです!」

 

 雨は神様の涙か……神なんていないのに……


「そっか、それで考えてどうだった?」


「わかったのです! なんで泣いてるのか!!」


「何で?」


「霧香が迷子だからなのです!!」


「迷子!?」


 確かに小学校低学年に見えるし雨の中に一人でいるなんてよく考えるとおかしいじゃないか!! なんで気づかなかったんだ僕!


「だからお母さんたちにまた会えたら、きっと神様もニッコリ笑顔になって、お天気も晴れになると思うのです!!」


「そっか……」


 どうしよう、このまま探しに行くか? でもこの濡れ具合から雨にさらされて一時間は経ってるはず。なら着替えさせる方が先だな。


「とりあえずきっとこのままだと風邪ひくと思うし、一旦着いてきて! 家がすぐそこだからまずシャワー浴びて着替えよう!」


「お母さんから知らない人には付いて行くなって言われてます!!」


 そりゃそうだよな……知らない人に付いて行くのは駄目なことなんて誰でも知ってることだ……


「でも明久は知ってる人なので大丈夫なのです! それに明久は悪い人じゃないとわかります!!」


 本当は駄目だが緊急事態だし仕方ない! その信頼使わせていただきます!


 それからは軽い雑談をしながら家に向かっていく。

 いつも一人で歩く道が二人だったからか、はたまた霧香ちゃんがいたからか、いつもより明るく感じられて気がつくと家についていた。


「ただいまぁ~」


「ただいまなのです!! 明久の家狭いのです!」


「1DKだからね、狭くてすいません……」


「服脱いでお風呂入っておいで! そこを左に行ったところだから」


「はいなのです!」


「服は洗面台に置いておくから~ってもう行っちゃったか……まあ出たら気づくでしょ」


 霧香ちゃんが出るまでは元々外で着ていた服をビニール袋に入れ、終わってない家事をして時間をつぶす。

 干してた洗濯物なんてずぶ濡れだ………


「出たのです!! そこで一つ質問なのです! なんで子供用の服なんて持っていたのですか?」


 子供にしては鋭いぞこの子……


「実は親友が最近結婚してさ、子供用の服をプレゼントしようと思ったんだよ。そしたら間違えたサイズ買っちゃって……」


「明久は天然さんなのですね!」


 ぐふ……天然でどんだけ苦労したことか……仕事でも出てたくさん怒られたし。まあ僕が悪いんだけど……考えるのやめよ。


「お口ニッコリさんなのです!」


 僕が落ち込んでるのを感じたのか、僕の頬を引っ張りだす。

 その気持ちだけで嬉しいですほんと。


「ありがとね! さて、これからだけどまずどうして迷子になったのかを聞いていきます!」


「はいなのです!」


「じゃあまず最後に親と一緒にいたのがどこか覚えてる?」


「えっとねぇ~。なんか大きな場所の中で、中に映画館とかマックとかあったのです!」


「ショッピングモールか……」


「そうです! ショッピングモールって言ってたのです!!」


 この近くで映画館とマックが混在してるのなんて隣の市だぞ!? ここが市の境目だとしても子供一人で来れる距離じゃない。どんだけ歩いたんだこの子……というかよく無事だったな……


「とりあえず分かった。ここの近くのバス停でそのショッピングモールまで行けるからそれで行こうか!」


「わかったのです!!」


 今の時間が15時30分で次のバスは15時55分か。そろそろ出ないと間に合わないな。


「さて、方向性も決まったし行きますか!」


「行くのです!!」


 勢いよく二人で家を飛び出すと、いまだに雨は降っており、さっきよりも強くなっていた。

 そんな中、二人で気分を紛らわすかのように鼻歌を歌う。

 そこにはたしかに生きる太陽がいたのだ。

 そしてバスも僕たちと同時に到着し乗り込み、あと少しでショッピングモールに着く。

 それはもう少しでこの子とのお別れも示唆しているのだ。


「ねえ、最後に聞いておきたいんだけど何で神様がいると思うの?」


「そんなの簡単なのです! 雨は神様の涙ですし世界は神様によって作られたんです!」


 僕の瞳をまっすぐ見ながら曇りない笑顔でそう呟く。


「そっか。確かにそうだよね! 僕がバカだったよ!!」


 その時僕は確信した。神は確かに存在していることに。

 それと同時にバスも到着し、続々と降りていく。降りた先にはちょうど霧香ちゃんのご両親がいて感動の再会を果たす。

 それを祝福するように雨も止み始めた。


「本当にありがとうございます!! なにかお礼などは」


「必要ないです!! 霧香ちゃんには大切なことを教えてもらったので」


「明久! 言ったでしょ!! 迷子じゃなくなったら晴れるのですと!!」


「確かにその通りだったよ! じゃあ僕はこの辺で失礼します」


 その言葉を最後に僕たちは違う道に分かれた。きっともうあの子に会うことはないだろう。

 でも彼女は僕の神であり続ける。

 神というのは依存なのだ。人々が信仰という名の依存をしてきた存在。だから僕の神は雨織霧香であり続けるのだ。


 

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