第14話 Exh.1 Phase.Ⅲ パート④

 一方で、守りに入る生徒会の陣地を崩すべく、けい雪葵ゆきは結界の耐久力を地道に削っていた。

 美瑚みこが討伐されたことはシステムログで気付いていたが、同時に真宙まそらが救出されたこともわかっていた。だから今は逃げてくる真宙と夏灯なつひの合流を待って、戦力が揃ってから生徒会の本陣に突入する。美瑚の離脱は惜しいが、事態は大方景の想定通りではあった。


『部長、やはり香雲かぐもの姿がないですね。探知もしてみましたが、近くにはいないようです』


 生徒会監査の香雲来夜らいやは、生徒会の三本柱の一柱。

 守りの要の真琴まことと、遠距離制圧の点花ともか、そして近距離制圧の来夜という三本柱が生徒会の主力だが、今は点花は討伐され不在。守りの要が陣地に立て籠もっている中で、もう一つの攻めの駒は一体どこにいるのかと思っていたが、姿を眩ませているのが来夜で良かったと、景は少し安心していた。


『近くにいないのであれば、一旦無視しましょう。急な接近に備えて、索敵だけは怠らないようにしてください』


『わかりました』


 しかしながら、そろそろ“ソニック”の効果は切れた頃とはいえ、二人の合流が遅いなと雪葵は思っていた。

 姿が見えない来夜は、実はスタンプラリー同好会の陣地の方へ行っているのだとしたら、二人と遭遇していてもおかしくない。真宙はもとより、夏灯では来夜の相手にはならない。まさかと思い、雪葵が索敵範囲を広げようとしたその時、あるシステムログが表示される。


天舞てんまい真宙 +4pt(奪取)]


 これには景も思わず驚いたように手を止めた。

 奪取とはつまり、相手陣地のスフィアを奪い、自陣に持ち帰ったということだ。真宙が救出されて逃げる際に、隙を見てスタンプラリー同好会のスフィアを奪っていたのだ。

 奪取はボーナスなしの加点としては最大の3ポイント。さらに真宙のポジション“道化師”の効果で、ボーナスポイントが追加された。これで現時点で暫定一位。これを得られたことは、天文部にとって大きな後押しになった。



 時間を同じくした別の場所では、そのシステムログを見た香雲来夜が思わず口元を緩めて天を仰ぐ。


「マズいねぇ、この状況……。ともちゃんもいないし、どうも俺が頑張らなきゃいけない流れだねぇ。このエキシビションマッチ、生徒会として負けるわけにはいかないからなぁ。……ああでも、なかなかに愉快だ。琴音ことねリラがいなくなるだけで、あのチームはあんなにも脆くなるのか」


 ぶつぶつと独り言ちる来夜は今、ほとんど周囲が更地となった、ステージ東部へ単身でやってきていた。目の前には、生き残っている六人の図書委員会メンバーが、陣地の中で手に汗握っている。


「お前ら、その中にいれば助かると思ってるんだろ。ははは、甘いねぇ。そんな考え、俺が一人で潰してやるに決まってるだろ」


 そう宣言すると、来夜は刀を取り出し、流れるような剣捌きで陣地の結界を何層も削っていく。そのスピードは、中に立て籠もるメンバーを恐怖に陥れるには充分過ぎた。それを敏感に察知した委員長の毛利もうりトリロが、皆を落ち着かせようと声を掛ける。


「まあ待て。まだ破られたわけじゃあない。だが、そうだな。破られるのも時間の問題だろう。皆、武器を持て。相手は一人だが決して油断するな。全員が本気で倒そうと思えば勝てない相手ではない」


 トリロの言葉を聞いて、来夜は余計に“甘い”と思わざるを得なかった。防衛戦術そのものを否定したいわけではない。やり方がぬるいと感じたのだ。

 立て籠もるにしても、せめて狙撃手の一人くらい近くに配備しておくべきだ。罠も設置しておくと良いだろう。


(まあどっちも、こうして更地になってしまえば意味はないかもしれないが――)


 ほどなくして、来夜は一人きりで図書委員会の陣地の結界を破った。だがそのために相当量の燃料を消費しており、このまま図書委員会メンバーとの戦闘に突入した場合、燃料切れを起こす可能性が高い。

 しかし、来夜が単身でここに派遣された目的は、一つでも多くのポイントを取ること。そして真琴はそこまでは明言しなかったが、来夜の帰還を当てにしていなかった。それはつまり、来夜はここで討伐されるつもりでの突攻を図っていたのだ。


若菜わかなちゃ~ん、お願いしていいかな?』


 甘い声で通信を飛ばすと、無言で祈祷が発動された。つれないなとは思いながらも、これで戦う準備は整った。


 結界が解かれた図書委員会は、来夜に向けて総攻撃を仕掛ける。

 しかしながら、来夜のアビリティ構成はあまりにも戦闘に特化していた。AGIを上げて体感速度を上昇させる“体感加速”、一度だけあらゆる攻撃を防ぐ“絶対防御”、障壁に反射性能を付与した“反射鏡”、素早い動きの中でも認識能力を落とさない“動体観測”など、単体で集団を相手にしたとしても、充分に戦い切れるだけの性能を誇っていた。

 そこへさらに、祈祷・“四葉”の効果が付加される。この祈祷は、五分間、クリティカル発生率を25%上昇させるというもの。できるだけ省エネで多くの相手を討伐したい来夜としては、一撃の火力を上昇させられるクリティカルに期待をしていた。


(最初に突撃してくるのは、最もAGIの高い奴。だが動きが直線的で、ただ速いだけ。軌道は読みやすい。一番厄介なのは、火力も射程もあるあいちゃん。既に手負いだし、一番奥に隠れちゃいるが、狙えないことはない。だが一番狙いやすいのは――)


 来夜は、真っ先に突っ込んできた橘橋きつはし璃門りもんの剣撃をするりとかわし、それに続く有象無象の攻撃をかわし、いなしながら、愛の前までたどり着く。既に構えていた刀を横薙ぎに振ろうとすると、愛を庇うように心持こころもち切那せつなが飛び出してくる。ここまで――来夜の予想通り。


「残念、狙いは最初から君だよ」


 そう不敵に笑んで、来夜は刀の軌道を変え、切那に強力な一太刀を浴びせる。


[心持切那 核損傷 10層 討伐]

[香雲来夜 +2pt(討伐)]


 攻撃アビリティを使用していたことと、クリティカルが決まったこともあり、たった一撃で切那を討伐した。

 来夜のポジションは“英雄”。相手を討伐した時、その相手にダメージを与えたのが自分だけの場合、追加でボーナスポイントを得られるうえ、攻撃ランクと防御ランクが1ずつ上昇するという特性がある。相手を倒せば倒すほど自身がより強くなれるポジションであり、まさに一騎当千の来夜に相応しいポジションでもあった。


「そんな……切那くん……」


 来夜が再び愛目掛けて刀を構えると、それをさせまいと、璃門が素早く間に割り込んだ。


「やめろ! それが奴の狙いだ!」


 トリロが珍しく声を荒げて叫んだが、時既に遅し。最初から愛を庇おうとする者を狙っていた来夜は、ワンテンポ遅らせて刀を振るい、璃門が攻撃を受けようと構えた剣を避けるようにして薙いだ。


[橘橋璃門 核損傷 10層 討伐]

[香雲来夜 +2pt(討伐)]


「ああ……璃門くん……!」


 またも目の前で自分を庇った者が討伐され、愛の精神は揺らぎ始めていた。図書委員会は大きく連携を崩され、しかしトリロを中心に陣形を組み直そうと試みる。しかしこの混乱を利用しようとしていた来夜は、相手が冷静になる隙を与えない。


 再び愛を狙おうとする来夜。それを防ごうと彼の背後から攻撃を仕掛けた落窪おちくぼ蒼穹そらへ、来夜は身体を捻って刀を振るい、一太刀浴びせる。


[落窪蒼穹 核損傷 7層]


 しかしこれは一撃で討伐とはいかなかった。それもそのはず、来夜の燃料は、もうほとんど空になってしまっていたのだ。狙ったアビリティを出す燃料がなく、攻撃力が想定よりも上がり切らなかった。


(チッ――仕留め損ねた。そろそろ潮時か。点取り屋の仕事としちゃ及第点とはいかねぇが、しょうがねぇ……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る