第6話 Exh.1 Phase.Ⅱ パート②

 雪葵と美瑚が索敵範囲と大幅に広げ、かつその精度を上げたおかげで、思わぬ収穫もあった。なんと、生徒会とスタンプラリー同好会のメンバーのほとんどを捕捉することに成功したのだ。

 捕捉できなかったのは、生徒会の副会長・灯波ひなみ点花ともかと、スタンプラリー同好会の琴音ことねリラくらいだった。雪葵はしれっとミニマップに印を付け、この残り二分間だけは、天文部メンバー全員が彼らの動きをミニマップ上で確認できるようにした。


『……立花、何をした?』


 すぐに景もこの異常な情報に気付き、雪葵に通信を飛ばす。彼に問うてはいるが、景の声色は大方の事情は予想がついているようでもあった。


『この状態が持つのはあと二分だけです。無駄にしないよう、お願いします』


 雪葵はそれだけ返し、索敵に集中する。

 まだドラゴンの反応はない。あと一分以内に出現するのは間違いないが、索敵もステージ全域をカバーできているわけではないし、もしかしたら索敵範囲外に既に出現している可能性もある。その場合は、アイはドラゴンの討伐に出遅れる形になってしまう。


 しかしその時――。


『来た――』


 雪葵と美瑚がほぼ同時にドラゴンを捕捉した。

 大抵の場合、ドラゴンは地中や水中、空上から現れる。そのためステージ表面に現れる前に予兆のようなものがある。それを探知できれば、ステージ上に出現する前に現地に先回りできるのだ。


『南東、約二キロ、駅と自然公園の間』


『この感じだと、たぶん黄竜ですね~……』


 雪葵と美瑚の情報を元に、アイが全速力で予測出現地点へ向かった。


『感謝の言葉か労いの言葉の一つくらいもらいたいものだけど、きっちり討伐してくれればチャラってことにしておくよ』


 雪葵がちくちくと小言を言うと、わかってる、さんきゅーな、とだけ短く返ってきて、それ以降の連絡はなかった。


「大丈夫ですかね、アイくん……」


 彼の身を案じるというよりも、何か取り返しのつかないことをしでかすのではないかと不安そうに、美瑚は隣の雪葵をそっと見上げる。


「まあ戦闘に関しては、信頼できる男だから。僕も虎野の援護に向かうから、珊野さんはここで部長の支援をしてあげて」


「わかりました。お気を付けて」


 天文部の陣地のある場所とドラゴンの出現場所はほぼ真反対。雪葵には狙撃ができるといっても、さすがに距離を詰めないと威力面でも命中精度の面でも役に立ちそうにはない。もしドラゴンの出現場所が陣地から近ければ、美瑚のカバーもできたのだが、そういうわけにもいかなくなってしまった。

 彼女を一人残すのは心配ではあるが、アイを一人で突っ走らせておくのもそれはそれで不安だった。



 一方で、雪葵と美瑚の索敵で大きな情報のアドバンテージを得た景と粕久は、生徒会の陣地近くまでやってきていた。

 フェーズⅠで真宙まそらが仕掛けた罠のある区域に一度身を潜め、ここに誘導する作戦に出ることにしたのだ。


 索敵によれば、生徒会は陣地に二人を残し、一人はドラゴンの出現に備えて別行動、生徒会長と書記が陣地周辺を警戒するように南下してきているのがわかっていた。


 そして南側のスタンプラリー同好会も、フェーズⅠと同じく悠暉子ゆきこ調しらべは陣地周辺で待機。

 ユイともう一人が陣地からやや離れているが、移動速度はそれほどでもない。何らかの作戦のための移動をしているようだ。もう一名はドラゴン討伐要員で、リラの姿はわからない。


 ただ、ユイという戦力と行動しているもう一人は、恐らく罠を張ったり索敵などの支援要員なのだろうことが想像できた。もし生徒会と天文部との交戦を予期していて、それを奇襲すべくこちらにやってきているにしても、リラ単身ということになる。であれば、ある程度の警戒で対策は可能だ。

 だから、この罠地帯という有利な地で、二対二と戦力は五分の状態で戦えれば最低でもどちらか一人を討伐し、相手の戦力を削げると景は判断したのだ。


 フェーズⅠでも交戦した線路沿いに、敷地内に広い竹林を持つ豪邸がある。

 二人はそこに身を潜めて、景は粕久に発砲させ、真琴に向けて威嚇射撃を行う。真琴も当てる気のない射撃だとすぐに気付き、何かあるのだと考え始めた。頭の回り、リスクを冒すことの少ない真琴だからこそ、簡単に挑発には乗らずに一瞬躊躇うとわかっていた。

 それこそが最大の隙で、景はその一瞬を逃さずに竹林から飛び出し、真琴に斬りかかる。


木咲きさき美妃みき 核損傷 4層]


 とっさに真琴を庇った書記の美妃の身を、景の凶刃が裂いた。発砲があった時点ですぐに身を挺して真琴の盾になることは決めていたらしく、美妃も障壁を展開してはいたが、景の刃の軌道とは合わなかった。

 障壁のアビリティは相手の攻撃を防ぐ効果があるが、展開できる範囲が限定されているために、ピンポイントでの防御しかできないのだ。


 美妃が身を盾にしてくれた隙に、真琴は自身の主力武器である戟をアビリティによって生成し、景に向けて突き出す。景はこれを難なく避けて、二撃目を入れるべく刀を振るった。

 しかし、二人は飛び退くようにして距離を取り、景の刀の間合いから外れる。一歩踏み込んで間合いを詰めることもできたが、景は粕久に撃たせ、その弾丸を障壁で防がせることで足止めした。戟で受けることもできたはずなのに、わざわざ一歩退いたのは何かあると感づいたのだ。


「ズルいねぇ、そのバチバチ撃ってくるの」


「それさえなければ私など脅威ではないと?」


「そうは言ってないよ。脅威ではあるけれど……やりようはあるって話さ」


 ニヤリとした真琴に、嫌な予感がして、景は反射的に一歩後退った。

 すると、真琴は何かを竹林に向かって投げ付け、それを戟で突き刺した。その瞬間、閃光と轟音、爆炎と爆風が巻き起こる。


[冠原かんばら粕久 核損傷 1層]


 爆発の威力自体は大したことはなく、粕久もダメージこそ負ったものの、直撃は免れた。しかしこの至近距離での不意の爆発は、聴覚のみならず、夜間では視覚すら脅かす。一時的にでも戦場で感覚器官が麻痺させられれば、それは致命的な隙になる。


[月瀬つきせ景 核損傷 2層]


 視覚に関係なく、真っ白な景の視野にシステムログが表示された。電脳世界であるが故、痛覚は大幅に抑えられている。全く痛みを感じないわけではないが、現実世界で戟で貫かれたら、この程度の痛みでは済まないはずだ。


「堅いなぁ~。こんな隙だらけのところに攻撃しても2層しか削れないなんて、堅すぎだよ、月瀬くん」


[冠原粕久 核損傷 2層]


 無防備になってしまっている景を真琴が、粕久を美妃が襲い、少しずつでも確実なダメージを与えていく。

 感覚を取り戻すのが先か、討伐されるのが先か。助けを呼ぼうにも、アイのサポートをしている雪葵を呼び戻せば対ドラゴン戦線が手薄になる。スタンプラリー同好会が周囲をうろついている以上、美瑚を陣地から離せば、陣地にも美瑚自身にも危険が及ぶ。ここの判断は誤れない。


 するとそこへ、第三の勢力が介入してきた。

 何者かが闇の中から飛び出し、粕久と美妃の間に割って入ったのだ。そして真琴に対しても何発かの銃弾が飛んできて、彼はそれを避けるために景の傍から離れざるを得なかった。


「君たち、うちのことそんなに嫌いかい?」

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