第3話 Exh.1 Phase.Ⅰ パート③
刃は虚しくも空を切り、リラを捉えることはなかった。わざと狙いを付けず、身体を支えずに発砲したリラは、その反動でわざと体勢を崩して倒れ込み、刃の軌道から外れたのだ。しかしこれが決まらないのは景にとって想定内。景の本当の狙いは、雪葵の狙撃だった。
『やれ』
景の合図で雪葵が引き金を引く。その弾丸が狙う先は、景の刃が向く先が自分ではないと知って気を抜いたであろう、生徒会長・調野真琴だ。
より厄介なのはリラだが、彼女も射撃のエキスパート。狙撃には気付かれるだろうと思っていた。それに加えて、この状況で狙うならリラだという心理は真琴にもあるはずだった。だからこそ、目の前で狙われたのがリラで、自分が狙われなかったことにも、思惑通りだったことにも安堵したことだろう。完全に不意を突いた一撃で、これで駄目ならまともなやり方ではダメージを通すのは難しいとまで、景は感じていた。
視界の隅に流れるシステムログに、[調野真琴 核損傷 3層]と表示された。
各チームのメンバーは、固定で10層の核耐久値を持つ。核はこの電脳世界における命であり、核の耐久値がゼロになった時点で討伐扱いとなる。その核が3層削られたということは、すなわち真琴にダメージが入ったということだ。
厳密には、個人ごとのステータスから算出された固有の攻撃ランクと防御ランクというものが設定されており、その差が核へのダメージ量を決めている。通常であれば真琴の防御ランク5に対し、雪葵の攻撃ランク5では差はゼロ。ゼロの場合は固定で1のダメージしか与えられないが、雪葵がアビリティを使用して攻撃力を底上げしていたこと、真琴が不意を突かれて防御のアビリティを展開できなかったことで、出来得る限りの最大ダメージが入ったのだ。
「なるほど……この状況で伏兵を隠していたとは。これはこれは、恐れ入った。だけど――位置が割れた狙撃手ほど、狙いやすいものもないねぇ」
それは景も想定済みで、既に雪葵には撤退命令を出してある。今から彼の元へ向かっても追いつくことはないだろう。
そうは思ったが、実際に陽太が戦線から離脱して雪葵の元へ向かおうとすると、少しの焦りも感じた。真琴も無策で兵を動かすような人間ではない。何か策があるのだろうか。そう思わずにはいられないのだ。
陽太の相手をしていたユイは、真琴が代わりに食い止めている。真宙は既に逃がしてしまったし、陽太を追いかけさせまいと、景の前にはリラが立ちはだかる。リラを振り切ろうとしても、無傷というわけにはいかないだろう。かといって、雪葵を落とされるのは戦力的に大きな痛手になる。
すると、わずかにリラの抵抗が緩んだ。まるでわざと逃がさんとするようで、景は逆にそれを訝しく感じ、素直に陽太を追いかけなかった。
結果的にその判断は正しく、直後に眩い光とともに轟音が響き、すぐそばの民家から激しい土煙が舞った。
『砲撃です。撃ったのは恐らく、スタンプラリー同好会の
[
狙撃とは違う、ステージを抉って地形ごと変えるような砲撃。巻き込まれた彼はタダでは済まなかったのだろうと、その一撃のダメージだけでも察するに余りある。
これで彼は過半数以上のダメージを負った。このまま彼の核がゼロになれば、最も多くのダメージを与えたスタンプラリー同好会の夜神
ただ、まだやられていないのは確かで、彼が任されたであろう雪葵の討伐を遂行しようとするかもしれない。放っておくのはリスクになる。過半数以上のダメージをスタンプラリー同好会が既に与えているので、他のチームもわざわざ彼を狙わないだろう。スタンプラリー同好会ですら、彼を落とすのは後回しでも構わないはずだ。トドメさえ刺せれば自分たちのポイントになる状態なのだから、無理して今すぐに落とす必要がない。
真琴と対峙していたユイも退く構えを見せ、この場は全員が一度退くかのように思われた。
ところが、リラが真琴に向けて発砲し、それを防がせることで彼をその場に釘付けにする。その隙を突いてユイが再び飛び出し、戻ってきた陽太を強襲する。
大きなダメージを負っている陽太としては、これ以上のダメージは致命傷となる。さらには真琴から撤退命令が出ていると思われるので、無事に帰ってくることが今の彼に与えられた任務だとすれば、絶対にやられるわけにはいかないと、ユイの攻撃に対して必要以上に神経を擦り減らしていたのだろう。
だから彼は、足元への注意が疎かになっていた。至近距離であれば見え見えのはずの罠に、みすみす引っかかってしまったのだ。
[慶桜陽太 核損傷 3層]
[
突如爆炎と爆風が巻き起こり、起爆した陽太と、そのすぐ近くにいたユイが巻き添えを食う形でダメージを負った。
こうなれば、核が残り1層となった陽太は是が非でも撤退か、決死の覚悟でできるだけユイを削るしかない。ユイも、あと一撃で落とせる相手を逃すまいと猛攻をしかける。陽太を助けたい真琴はリラに足止めされ、その場を動けない。
自由になった景は、選ぶことができる。撤退して身の安全を守るか、ユイを挟撃して過半数以上のダメージを与えるか。しかし後者の場合、リラの銃口がすぐさま景を捉えるだろう。ユイへの討伐ポイントと引き換えに、攻撃ランク8を誇るリラから受けるダメージは割に合わない。
迷う余地はなかった。景はすぐさま撤退を選び、後方を警戒しながら陣地へと戻っていった。
そして景は、ここで新たな作戦を伝える。
『
『慶桜が落ちるまでの、タイムリミット付きの作戦ってわけですか?』
『いや、
その隙に、ギリギリまでリラに気付かれずに手薄になっているスタンプラリー同好会の本陣を叩く。そういう作戦だった。
『立花は引き続き、後方支援を頼みます。琴音リラの動向の監視も任せられますか?』
『……人遣いが荒いですね。でも、わかりました』
一つため息を吐いた雪葵は、姿を隠しながら、先ほどとは別の狙撃ポイントを探しに動く。
『天舞は私と一緒にスタンプラリー同好会の陣地を襲撃します。ついてきてください』
『わかりました』
エキシビションマッチはレギュラーシーズンよりも各フェーズの制限時間が短く設定されている。今回、フェーズⅠは二十分で、その残り時間もわずかになってきている。その中で、時間ギリギリまで少しでもポイントを得るため、また少しでも次のフェーズへ有利に繋げるために、今できることを最大限やり切ろうというのが景の考えだった。
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