手を探す少年

神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)

第1話

「ちょっと八重やえのことよろしくね」

「はあい」

 恋人から妹を託された。用でも足しに行ったのだろう。さすがに女の子だ。男子トイレに連れて行くのは忍びないと思ったのだろう。

 おあつらえ向きにここは本屋だ。梶井基次郎の「檸檬」を再現しようと思い立つ。

「うん、いい出来」

 満足していると、袴を履いた男の子が現れる。キョロキョロしている。

「大丈夫?」笑いかける。「忘れ物でもした?」

 一瞬、言い淀む。ちょいちょいとされ、かがむ。

「あの、風呂敷包みを見ませんでしたか?」

 ドキッとする。

「うん? もしかして、これかな」

 二人で、本の山に置かれた八重桜の包みを見る。

「えっ、違います」

 首を振る。おっ。少年の手を取る。片腕しかない。

「やっぱり、手を忘れたんでしょ。なら、ちょうどいいよ」

 少年に風呂敷包みを渡す。

「これは……。確かに、義手でしょうが、僕のではありません」

 困惑した表情。

「ええ、両手セットでお得だよ」

「か、片手で足りますので……」

 完全に変なやつに絡まれたという顔をしている。

「やめなさい」

 後ろからチョップされた。見ると、恋人の腕の中には、別の風呂敷包みがある。

「トイレにあったよ。これ、君のでしょ」

「ありがとうございます」

「こっちは、僕の妹……」

 赤ん坊のように抱く。

「やっぱり、信也しんやじゃ信用ならないな。名前が信じる也のくせに」

 少年は頭をぺこりと下げて、帰って行った。

「ちぇ。やっちゃんの恋人にいいと思ったのになあ」

 頭の後ろで手を組む。

「八重を直接触ってもいいのは僕だけだよ。ね、八重?」

 そう言って、やっちゃんに笑いかける。

「やれやれ。いつになったら、やっちゃんはお墓に入れるのやら」

「お兄ちゃんが死んだら、その時一緒に入ろうね」

 ま、そうなるか。

 その夜、僕は夢を見た。あの男の子の手になったやっちゃんを。

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手を探す少年 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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