スライムの友

祐祐(ゆうゆう)

第1話

 「スライムってかわいいよねー。」


 「えっ!?汚いじゃん!かわいくない!」


 この街には沢山のスライムがいる。

 本来はモンスターであるスライムが街にいるのはおかしいんだけど、スライムは人間を攻撃してこないし、分解能力を活かしてゴミと排泄物の処理をするために街中に生きている。

 スライムのおかげで街中がいつでもキレイになっているみたいだ。


 そんなスライムが身近にいるから、小さい時から庭に迷い込んだスライムを観察するのが好きだった。

 いつからか、スライムの動きに反応したりしているとスライムから近寄ってくるようになって、プルプルの身体をつついたり、ゴミをあげたり、追いかけっこをしたり、仲良く遊ぶようになった。


 でも周りの友達はスライムがゴミと排泄物の処理をしているから汚い、と言って嫌っている。

 あんなにかわいいのに。

 いつしか友達は僕に近寄らないようになっていた。

 いいよ、別に。僕にはスライム達がいるからね。


◇◇◇


 「あなたが与えられた加護はテイマーです。こちらが証明書です。

 詳しくはステータスから確認して下さい。」


 『テイマーの加護を獲得しました。

 ユニークスキル スライムの友 を獲得しました。』


 8歳を迎えた子供は、街の教会で神から加護が与えられる。

 たった今、僕も加護を与えられた。

 司祭の声の後に神からの声も聞こえてきた。

 神が伝えるべき内容はこうやって神から伝えられると説明されたけど、これがそうなのか。


 司祭から証明書を受け取り、両親の元に駆け寄る。


 「おかえり、ユート。何の加護だったの?」


 「ただいま。テイマーだったよ。」


 テイマーか。

 モンスターを手懐けて仲間にすることができる加護であり、どれだけ強いモンスターを仲間にできるか、便利なモンスターを仲間にできるか、それでテイマーの価値は大きく変わると言われている。

 ドラゴンを仲間にして空を飛び、危険なモンスターの討伐をした有名なテイマーは国の英雄として語り継がれている。

 人によって仲間にできるモンスターの強さや数に上限があると言われている、まだまだ謎の多い加護だと聞いたことがある。


 僕は何を仲間にできるのかな。

 まずはスライムから仲間にしよう。いつも庭にいる子たちは今日もいるかな。

 それにしても、加護と一緒に獲得したユニークスキルってなんだろう。


◇◇◇


 両親と共に家に帰って、すぐに庭に出る。

 庭を見渡すと、木陰に1体のスライムが潜んでいた。

 いつもの子みたいだな。

 スライムも僕を見つけて、こちらに跳ねてきた。


 跳ねてきたスライムをキャッチして、胸で抱きしめる。


 「ねえスライムさん、さっきテイマーの加護をもらったんだ。

 もし良かったら僕の仲間になってくれない?」


 テイマーがどうやってモンスターを仲間にするのか知らなかったので、試しに話しかけてみた。


 『スライムをテイムしました。名前をつけてください。』


 早速テイムできたみたいだ。じゃあ身体が青いからアオイにしよう。


 『スライム(アオイ)をテイムしました。スライムの友の効果が発動します。』 


 ちゃんと調べてないユニークスキルが発動したみたいだ。

 ステータス画面から調べてみる。


+++++

【ユニークスキル】スライムの友

【詳細】スライムへのテイムが100%成功する。テイム後は意思疎通が可能になる。スライム以外のモンスターをテイムできない。

+++++


 スライム以外のモンスターをテイムできないの?

 そっかあ、できないのか。

 テイムしたモンスターで凶暴なモンスターを倒していく、という英雄みたいなことはできないのか。

 スライムは弱いから無理だろうな。テイマーとしての能力は使わずに生きていけるようにならないといけないな。


 〈どうしたのー?元気ないのー?〉


 突然頭の中に声が聞こえてきた。神の声とは別のものだ。

 周りを見渡しても誰もいない。


 〈どうしたのー?何を探しているのー?〉


 再び声が聞こえてくる。

 近くにいるのはテイムしたアオイだけ。


 「もしかして、今の声は君なの?」


 〈そうだよー。いつも遊んでくれてありがとー。これからもよろしくねー。〉


 「うん、よろしくね、アオイ」


 これが意思疎通か。

 普通はテイムしたモンスターと会話なんてできないだろうし、強くなくてもこっちの方が便利かもね。


 「じゃあこれからはうちの庭に住んでね。いや、僕の部屋で一緒に暮らす?」


 〈一緒に暮らす!ずっと一緒!〉


 ふふっ。これがかわいくないとか、みんなおかしいよね。

 アオイを抱えたまま家に入っていく。

 それを見た両親にテイムしたこと、意思疎通ができることを伝えて、一緒に暮らすことを許可してもらった。

 ルールとか色々と教えなきゃ。


◇◇◇


 「アオイは1匹だけで寂しくない?」


 〈友達がいる方が楽しいよー。〉


 「じゃあスライムを見つけたら、その子もテイムしてみようか。

 何匹までテイムできるか分からないけど、できるだけ増やしてあげる。」


 〈ありがとー!〉


 数日一緒に暮らして、ふとスライムって沢山いるイメージだったから聞いてみた。

 アオイが望むなら、両親の迷惑にならない範囲で増やしてあげたい。


 両親に出掛けてくることを伝えて、アオイを抱えて家を出る。

 スライムは路地裏や排水溝にいることが多いから、まずは家の近くにある路地裏に向かう。


 路地裏に到着すると、そこにはゴミを食べているスライムがいた。

 アオイより少し大きい気がする。ゴミを沢山食べているからなのかな。


 「アオイ、あの子をテイムしようと思うけどどうかな。」


 〈ちょっと待ってー。〉


 そう言って、アオイはゴミを食べているスライム君に近づいていく。

 アオイのプルプルの身体が腕のように伸びて、スライム君をツンツンした。

 それに気づいて、身体の向きを変えたスライム君とアオイは10秒くらいプルプル身体を揺らしていた。

 揺れが治まり、アオイが戻ってきた。


 〈あの子もテイムして欲しいって。〉


 「分かった。ねえスライムくん、僕達の仲間になって一緒に暮らさない?」


 スライムくんに近づいて話しかける。


 『スライムをテイムしました。名前をつけてください。』


 今回もちゃんとテイムできた。じゃあソウタにしよう。


 『スライム(ソウタ)をテイムしました。スライムの友の効果が発動します。』


 〈名前を付けてくれてありがとうございます。よろしくお願いします。〉


 「丁寧だね。こちらこそよろしくね。」


 テイムしたスライムが2匹に増えた。

 この調子で増やそうと次のスライムを探しに行こうとして、2匹とも抱えるのは難しいことに気づいた。


 「アオイ、ソウタ。両方とも抱えるのは難しいから、僕の後に遅れずに付いてきてくれる?」


 〈1匹にまとまれば抱えられるよねー。ソウタ、吸収するねー。〉

 〈任せました。〉


 そう言って、アオイがソウタに覆い被さると、ソウタが消えた。


 「吸収ってソウタはどうなったの!?」


 〈ソウタはアオイの中にいるよー。いつでも元に戻れるから安心してよー。〉


 スライムってそんなことできるの?聞いたこと無いよ。

 でもそれなら抱えて移動できるな。

 ソウタを吸収したアオイを抱えて、次のスライムを探しに行く。


◇◇◇


 1日で9匹のスライムをテイムして、全てがアオイに吸収された。


 「吸収した9匹は吸収されている間はどうしているの?」


 〈アオイの中で一緒になってるよー。アオイが見ているものを見ているしー、食べているものを食べているよー。〉


 どうなっているのか分からないけど、それなら他の皆も僕と会話していることになるのかな。

 家に戻って、両親に今日の出来事を伝えた。


 〈私以外の皆もよろしくねー。〉


 アオイは両親の足元に行ってプルプルして挨拶をしている。

 両親には聞こえていないはずだけど、アオイを抱えて撫で始めた。

 聞こえなくても、あんなに可愛くプルプルしたら撫でたくなるよね。


 両親との挨拶を終えて、いつも通り夕食の間にゴミをもらってアオイ達も食事をしていた。

 お風呂も終えて眠りにつく。


◇◇◇


 翌日、目を覚ますとアオイのベッドとなっているクッションの上にアオイがいない。

 どこに行ったのか家の中を探し回るが見つからない。

 庭を探しに行くと、端っこにアオイがいた。


 「アオイー、探したよ。何してるの?」


 〈ユートおはよー。知らないモンスターが庭にいたから倒してたよー。〉


 「倒したモンスターはどうしたの?あと、どういうモンスターだったの?」


 〈小さくてちょこまか動く尻尾のあるモンスターで、今吸収してる所だよー。〉


 アオイに近づいてよく見ると、アオイの中に何かがある。

 これはラットかな。でもラットってスライムと同じくらいか少し強いくらいだったはずだ。

 少なくとも、スライムがラットを倒せるって聞いたことがない。


 「どうやって倒したの?」


 〈どーんってぶつかったら動かなくなったよー。〉


 しかも体当たりで倒したの?アオイって実は強いの?


 「アオイってそんなに強いスライムだったの?」


 〈皆を吸収しているから強くなってるんだよー。〉


 「吸収すると強くなるの?」


 〈そうだよー。〉


 「じゃあもっと沢山のスライムをテイムして吸収したらもっと強くなるの?」


 〈そうだよー。ユートなら沢山テイムできると思うよー。〉


 スライムが1つになるのも知らなかったし、それで強くなるのも知らなかった。

 テイムした場合だけの能力なのかな。

 普通のテイマーはスライムはテイムしないし、テイムできる数に上限があるからすぐに別のモンスターに変えてしまう。

 僕はスライムしかテイムできないから変えることはないし、意思疎通ができたから気づいたけど、そうじゃない人がほとんどだから知られてないのだろうな。


◇◇◇


 次の日も新しいスライムを探しに街を歩き回った。

 不思議なことに、昨日スライムをテイムした所に行くと別のスライムがいた。

 アオイに聞くと、ある程度ゴミを食べると分裂するそうだ。そして、スライムのいない餌場にその分裂したスライムが向かうのだと言う。

 分裂して増えすぎたスライムは大人が倒しているとは聞いていたが、そうなっているのか。


 「あれ?アオイは分裂してないの?」


 〈分裂してるよー。アオイの中にはユートがテイムしたスライムと合わせて14匹がいるよー。〉


 「分裂で増えた子はテイムしていないけど、テイムしようか?」


 〈テイムされた状態のままで分裂してるから、既にテイムされてるよー。〉


 いつの間にかテイムしたスライムが増えていたみたいだ。初めて知ることばかりだな。


◇◇◇


 毎日新しいスライムをテイムしていて、もう今何匹をテイムしているのか分からなくなった。

 それでもまだ上限にはなっていないのか、必ずテイムできている。


 「アオイ、吸収するのに上限は無いの?」


 〈無いよー。ユートにテイムされていればいくらでも吸収できるのー。〉


 じゃあ気にしないでいいか。

 テイムして吸収して分裂して。数が増える。どこまでいくんだろうか。


◇◇◇


 加護が与えられてから1年くらいが経とうとしていた。

 今でも暇があれば新しいスライムを見つけてはテイムしている。

 近所の人からは、スライムの子って呼ばれているらしい。

 いつもアオイを抱えているからね。たまに頭の上に乗せることもある。


 今日も暇ができたので、アオイと一緒に街を歩き回る。


 「最近、ラットを見かけないわね。」

 「下水道をキレイにしたのかしら。」


 そうなんだ。ラットかー。

 アオイが倒して吸収しているのを1度見たけど、あれ以降見かけないな。



 歩き回っていると、普段あまり来ない街外れまでやってきた。

 街の周りには城壁があるが、それに近い所はあまり家が無い。

 代わりに、移動式の遊具などでイベントが開催されている事が多い。

 今はサーカスが来ているみたいだ。


 「逃げろー!」


 スライムを探してサーカスのテントの近くを通った時、テントの裏側から叫び声が聞こえた。

 何があったのか、その声を聞いて動けずにいると、


 ヴォー


 とモンスターの低い声が聞こえてきた。


 とにかくここから離れた方がいい。

 そう頭では分かっているが、足が動かない。

 動かそうとしても、足に力が入らない。


 動かそうとしていると、テントの脇から大きな影が伸びてきた。

 すぐにその影の本体が現れた。


 分からない、なんだあのモンスターは。

 僕よりも大きい、両親よりも大きい、今まで見たどの人よりも大きい、僕の家くらい大きい。


 そのモンスターがこちらを見た。

 逃げなきゃ!

 その瞬間、足がようやく動いた。

 モンスターに背を向けて走り出す。

 後ろからズシンズシンと音が聞こえてくる。

 あのモンスターが追いかけてきているみたいだ。


 モンスターから逃げながら、助けを求めるために人を探すが見当たらない。

 周りを見ながら走っていると、何かに躓いて転んでしまった。


 「いったい!」


 泣きたくなるが、今は早く逃げないと。

 

 ヴォー


 モンスターの声がすぐ近くに聞こえる。

 後ろを振り向くと、腕を振り上げて僕を殴りつけようとしていた。


 あ、もうダメだ。避けられそうにない。

 目を瞑って身体を縮こめる。少しでも痛くないといいな。。。



 そう思っているが、いつまで経っても痛くならないし、殴られもしない。

 どうなったのかとゆっくり目を開けると、モンスターと僕の間にアオイが立ち塞がり、モンスターの攻撃をアオイが受けている。


 「アオイ!大丈夫なの!」


 〈全然大丈夫だよー。痛くも痒くもないよー。〉


 ラットを倒せるくらいに強いのは分かっていたけど、こんな大きいモンスターに攻撃されても無傷なの?

 ここはアオイになんとかしてもらうしかない!


 「アオイ!そのモンスターを取り押さえて!できるだけケガさせないように!」


 〈分かったー。〉


 いつものように僕の言葉に答えたアオイは、プルプルとした身体を伸ばして両腕のようなものを出した。

 それがモンスターの両腕に触れたと思ったら、両腕を包み込み、そのまま後ろに押し倒してしまった。

 モンスターは暴れているが、アオイが両腕だけでなく、両足も身体を伸ばして包みこんで抑え込んだ。


 「君!大丈夫か!」


 呆気に取られていると、テントの向こうから傷だらけの大人たちが近づいてきた。

 アオイとモンスターの様子を見て、呆気にとられていたが、


 「はい、ちょっと転んで擦りむいただけです。

 うちのアオイ、スライムが取り押さえてくれたので。」


 そう説明すると、数人がテントに戻ってモンスターを捕らえるための道具を持ってきた。

 そして、10数分後にはモンスターは捕らえられて檻の中に入れられていた。


 「迷惑をかけて申し訳ない。サーカスに使うモンスターが暴れ出して脱走してしまい、君にケガをさせてしまった。このポーションを傷口にかけてくれ。

 あと、これはお詫びのチケットだ。もし良かったらご家族と見に来てくれ。特等席を用意させてもらう。」


 サーカスの代表らしい人からポーションをもらったので、擦りむいた膝にかける。

 すぐに傷は無くなったので、アオイと共に家に帰ることにした。


◇◇◇


 あんな大きいモンスターにも果敢に立ち向かって、余裕で制圧できる。

 そんなスライムって世の中に他にいるんだろうか。

 もしかして、アオイってもの凄く強いの?

 伝説の英雄みたいに、危険なモンスターを討伐したり、世界を旅したりできたりするのかな?


 もっとアオイのことを知りたいな。


 「ねえアオイ、アオイは何ができるの?」


 〈んー、分かんなーい。〉


 「そっか。じゃあ色々と分かることから教えてね。」


 ゆっくりアオイのことを理解しながら、色々なことに挑戦していきたいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スライムの友 祐祐(ゆうゆう) @yusukehayate

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画