ぼくの左手
岩田へいきち
ぼくの左手
ぼくは、左手で、ジャンケンのパーが出来ない。
だけど、朝起きた時は勝手にパーをしてる時もある。パーでそそり立っているのだ。まるで男の朝立ちのようだ。
何故かと思うが、それを開いたり閉じたりコントロールすることは出来ない。やっはり同じ感覚か?
リハビリの専門用語で言うところの不随意運動しているのだ。
そう、ぼくは、脳出血で倒れてから左半身麻痺になった。頭蓋骨を一辺8センチほどの三角形に切り取る開頭手術をしてから目覚めるまでの間、ぼくは、病院の廊下の上をさまよってた。
「う〜ん、トイレどこだよ? オシッコしたいなあ。身体が上手く動かない。ベッドにくくりつけてあるのか? 」
目覚めるとてっきりローブで結ばれてると思ってたぼくの身体は、動けなくなってるだけだった。左半身が全く動かない。手も脚も体幹もダメである。座っていることすら出来ない。感覚もない。動かない方の身体は、邪魔でしょうがない。左脚が重たくて寝返りすら上手くいかない。動かなくなったモビルスーツを着ているようだ。
それから3ヶ月、必死のリハビリが始まった。
なんとか立って歩けるようにもなったが、左手はまだまだだ。
勝手にグーはするくせにパーにはならない。出来ない。開くことが出来ないから物も掴めない。右手で強制的に手を開かせてから物を握らせると掴めることもある。ただこれも調子次第だ。もちろん、右手の助けなしでは、腕をテーブルの上に出して前に伸ばすことも出来ない状態である。そのくせ、夜寝る時に横向きに左側を向いて寝れば、朝まで大人しくしているのだが、たまに右向きに左腕を上にして寝たら、どうも夜中に勝手に左手が動いてるらしい。
朝になって背中の後ろに来て下敷きになってることもある。そうなったら、左腕を引き出すのは一苦労だ。
また、リハビリ専門用語を使えば、深部感覚が狂ってるらしい。肩から全部変なところへ行っている。朝からどこへ行った? と右手で捜すのだ。変に捻れていると下敷きになった左手を引き出すのが大変だ。
手術して間もない頃、頭も混乱していたのか。左手が100手観音?のように100本くらいあるように感じていた。あとになって、なんだ、左手一本だけ動くようにすればいいのか。100本も無理と思ってた。と回想した。
左手は、動かなくなってから気づいたのだが、知らず知らずにのうちに右手のサポートをしている。たとえば、カップを落としそうになる。咄嗟に左手が押さえに行く。歯磨き粉の蓋を取ろうととする。もう、左手で本体を掴んでる。それが今は、
『ちょっとこれを掴んでもってて。力緩めちゃダメだよ』
とぼくの脳と右手に命令されないと動かない。
しかも途中で命令を忘れて、手を離す。
ぼくは、毎年、4.5枚の茶碗やカップ。皿を落として壊している。左手が咄嗟に出ていれば壊れなくて済んだ物が半数以上だろう。それがサポートをするどころかとんかつ屋のご飯茶碗も席を立った時、勝手に動いて落として割ってしまう始末。とんかつ屋のお姉さんあの時はごめんなさい。
それでも、左手は、なるべく使って、動けるようにしなければならない。リハビリのために使わなければならないのだ。たとえ更に皿を割ったとしても。
最近、リハビリ男料理を始めた。料理が1番左を必要とする。
フィーラーを左手に
『持っておいてね』
と言い聞かせ、ジャガイモを右手で動かす。キャベツを左の手のひらで抑えることは出来ないから甲の方で軽く押さえて、切る。右手で開かせれば多少抑えれるかもしれないが、魚などは、無理。特に滑りやすいクロなどは、全然無理だ。
この先、リハビリを続けて、いつかは、自ら左手が行動し、自主的に動くようになって欲しい。
なんか社員教員みたいになってるな。
そして、左手に右腕の右腕になって欲しいと思っている。
「えっ?」
終わり
ぼくの左手 岩田へいきち @iwatahei
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