悔恨のユウシャ。

充電6%

プロローグ。

※物語の全体像が見えてきたため、

 後からプロローグを追加しました。




 赤は、音を立てずに広がっていた。


 石の上を伝い、溝に溜まり、足元で静止する。

 それが血だと理解するまでに、少し時間がかかった。


 剣を握る指が言うことをきかない。

 冷えているのに、熱を持っている。

 自分の手なのに、どこか他人のもののようだった。


 振り下ろした。

 確かに、振り下ろしたはずだった。


 それでも終わらなかった。


 足元に首はない。

 あるのは、赤だけだ。

 濃く、重く、逃げ場のない現実だけが、そこに残されている。


 逃げることはできた。

 剣を落とし、目を閉じ、何も見なかったことにすることも。


 けれど彼女は立っていた。

 選んだのは自分だと。

 そう思わなければ、立っていられなかった。


 ざわめきが遠くで波のように揺れている。

 声がある。

 意味は、もう分からない。


 涙が込み上げる。

 それをこらえる理由も、はっきりしていた。


 ――ここで崩れたら、すべてが嘘になる。


 肩に布が落とされた。

 視界が暗くなり、赤が隠される。

 触れた手は静かで、迷いがなかった。


 優しさはときどき残酷だ。

 拒むことも、逃げることも許さない。


 彼女は何も言えずに歩き出した。

 背後に残したのは血溜まりと、選ばれなかった可能性だけ。


 ――人ではない。


 そう思ったのが誰の声だったのか、もう分からない。

 ただひとつだけ確かなことがある。


 この瞬間から、

 彼女は戻れない場所に立っていた。

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