第7話 現代に転生したはずが、魔法が残ってました


天界の記録室では、

珍しく確認項目が

赤く点灯していた。


「……これは」


女神ユーファが、

画面を凝視する。


「現代転生案件、

ですね!」


レーシャが、

元気よく言った。


「異世界からの帰還。

十七歳、女性。

戦闘経験あり」


「はい。

異世界での役目を終え、

記憶と能力は

原則、消去です」


「原則、ですね!」


レーシャは、

にこにこしながら

操作盤に手を伸ばす。


「魔力遮断。

術式記憶削除。

世界干渉制限――」


「はい、

全部チェックしました!」


ユーファは、

一瞬だけ

嫌な予感を覚えた。


「……確認画面を

拡大してください」


「えー?

大丈夫ですよぉ」


だが、

転送準備は

すでに完了している。


光が集束し、

魂は現代へと

送り返された。


――――――


目を覚ました少女は、

白い天井を見上げていた。


「……病院?」


消毒薬の匂い。

機械音。


「……あれ?」


身体は、

高校生のそれだ。


制服が、

椅子に掛けられている。


「……戻ってきた?」


記憶は、

はっきりしていた。


剣を振る日々。

魔法を使う戦場。


そして――

終わりの時。


「……現代、

だよね」


少女の名前は、

水城アオイ。


交通事故に遭い、

一度は命を落とした。


そして、

異世界へ。


「……夢じゃ、

なかったんだ」


手を握る。


その瞬間、

空気が

わずかに揺れた。


「……?」


指先に、

微かな熱。


「……え?」


嫌な予感が、

胸をよぎる。


「まさか……」


彼女は、

カーテンを閉め、

小声で呟いた。


「……火よ」


ぱちり。


小さな火花が、

宙に生まれた。


「……残ってる」


魔法が、

残っていた。


本来、

あり得ない。


アオイは、

深く息を吸う。


「……使っちゃ、

だめだ」


そう決めた。


現代では、

魔法は

異常だ。


目立てば、

騒ぎになる。


彼女は、

普通の生活に

戻ろうとした。


学校。

友人。

日常。


だが、

力は

彼女を放さない。


雨の日、

傘を忘れた友人に、

無意識に

風を操ってしまう。


転びそうな子を、

反射的に

身体強化で支える。


「……あれ?」


「今の、

どうやったの?」


誤魔化しは、

次第に

難しくなった。


ある日、

夜道で

事件が起きた。


暴漢が、

人を襲っている。


周囲に、

助けはない。


「……やめて」


声が、

震える。


だが、

身体は

前に出ていた。


「――止まれ」


言葉と同時に、

空気が凍る。


暴漢の足が、

地面に縫い止められた。


「……何だ、

これ……」


警察が来る頃には、

魔法は

消えていた。


「……危ない」


だが、

救われた命が

あった。


その夜、

アオイは

空を見上げる。


「……使わない、

って……」


「無理だよね」


彼女は、

決めた。


力を隠し、

だが――

必要な時には使う。


誰にも知られず、

誰かを守る。


現代の、

影の守り手として。


――天界。


「……報告です」


ユーファが、

資料を差し出す。


「対象者、

魔力、

一部残存」


「えっ!?」


レーシャが、

飛び上がる。


「全部、

消したはずです!」


「遮断処理、

最終確認が

未実行です」


「……あ」


サフィーネが、

ゆっくりと立ち上がる。


「レーシャ」


「は、はい!」


「始末書、

九十枚です」


「もう、

本になってます!」


だが、

ユーファは

静かに続けた。


「ただし……

事件抑止率、

上昇中」


「現代世界に、

悪影響は

出ていません」


サフィーネは、

天井を仰いだ。


「……監視、

強化だ」


レーシャは、

小さく呟く。


「少しくらい……

残ってても、

いいですよね」


その言葉に、

誰も

答えなかった。


天界には、

今日も魂が戻ってくる。


そしてまた、

女神レーシャは

操作盤に手を伸ばす。


「次は……

完璧に……」


その声は、

自信がなかった。


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