第十章:38歳の等身大

12月、街はクリスマス一色に染まり始めていた。


ミクはデパートのウィンドウに飾られたイルミネーションを眺めながら、一年を振り返っていた。


今年もまた、多くの出会いと別れがあった。


翔平は就職活動で忙しくなり、自然と会う機会が減った。


拓海とは相変わらず緩やかな関係が続いている。


新しい出会いもいくつかあった。


仕事では、健太が少しずつ成長していく姿を見守った。


彼はまだ「ボーイフレンド」というわけではないが、いつかそうなる可能性も…いや、それはまた別の話だ。


SNSのアカウントは、フォロワーが5,000人を超えた。


時には批判的な声も届くが、共感してくれる人たちの存在が、ミクを支えてくれている。


「…もうすぐ39歳か」


ため息ではなく、感慨に満ちた吐息だ。ミクは手袋をはめた手をポケットに突っ込み、ゆっくりと歩き始めた。


年下好きの38歳――この事実を、彼女はもはや隠す必要は感じていない。


かといって、大声で叫びたいわけでもない。ただ、等身大の自分として、日々を丁寧に生きている。


自分の容姿は特別ではない。


だから努力する。


立場は複雑だ。


だからルールを守る。


恋愛観は一般的ではない。


だから自分を肯定する。


全てが完璧なわけではない。


むしろ、欠けた部分だらけだ。


でも、その欠けた部分を埋める努力そのものが、今のミクを作っている。


スマホが震えた。


拓海からのメッセージだ。


『クリスマス、空いてる? 予約取れそうなレストラン見つけたんだけど』


ミクは少し考えてから返信した。


『ごめん、クリスマスは妹家族と過ごす約束なの。その前の週末なら空いてるわ』


家族との約束もまた、大切にしている。


全ての時間を「男受け」に費やすわけではない。


彼女には彼女のペースがある。


歩きながら、ミクはふとあることに気づいた。


今年一年、誰にも「結婚は?」と言われなかった。


周りももう諦めたのか、あるいは彼女の生き方を尊重してくれているのか。


どちらでもいい。大切なのは、自分がどう思うかだ。


「…年下好きでよかった」


小声でつぶやくと、口元が自然と緩んだ。寒い夜の空気が、白い息となって立ち上る。


これからも年齢は重ねていく。40歳、50歳…そのたびに、年下の男子は増えていく。選択肢は無限に広がっている――少なくとも、理論上は。


現実はもっと複雑だ。でも、その複雑さを含めて楽しむのが、大人の女性の特権かもしれない。


ミクは駅に向かう歩道を、軽やかな足取りで歩いていった。ミニスカートの裾が、冬の風に少し揺れる。


38歳、未婚、年下男子好き。


日々の冒険――今日もまた、小さな冒険が続いていく。


(完?)

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年下男子好きな38歳ミク 日々の冒険 みさき @MisakiNonagase

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