ついてくるのは本当にあなたの影ですか?

火之冬弧

ついてくるのは本当にあなたの影ですか?

 これはある夜道で起きた奇妙な事象。


 街灯が数十メートル間隔で並ぶ田舎道を私は歩いていた。あたりは真っ暗で、街灯がかろうじて進む先を照らしてくれている。こんな夜中にここを歩く人はそうそういない。今も周辺に人の気配は感じられなかった。


 ふと、なんとなく後ろを向いてみると、街灯の薄明かりの下で黒い影が動いた。一瞬ドキッとしたが、なんのことはない。すぐに自分の影だと気づいた。

 後ろを向いたまま先へ進むと、もちろん私の影も後をついてくる。ゆっくり、ゆっくりと、私が歩けば歩くほど影のついてくるスピードは緩やかになる。特に頭のあたりはついて来れずにどんどん伸びていく。ゆらゆら伸びていく様を見て、最初の恐怖など忘れてなんだか愛らしさすら感じてしまった。


 ……いや、おかしい。そんなはずはない。この状況で影がそんなふるまいをするはずがなかった。

 後方にできる影は前方にある街灯から発せされる光によるものだ。その場合影が近づいてくるスピードは、私の歩くスピードがほぼ一定であればどんどん速くなるはずなのだ。それは私や街灯などから相似な三角形のペアを見つけられればすぐにわかる。

 影の近づく速さが大きくなるということは、その影の長さは縮む一方であって決して伸びることはない。であれば、私の足元から伸びる【これ】は何だ?


 街灯を通り過ぎると、今度は私の前方に影が現れた。私の歩みに合わせ、【それ】は少しずつ伸びてゆく。問題ない。これは普通の論理の範疇だ。

 なんだ、さっきのは見間違いかと自分に言い聞かせるように納得し、私は歩き続ける。


 歩き続ければ次の街灯の灯りが支配的になる。となると、私の影は私の後ろにくる。私は歩きながら、恐る恐る後ろを振り返り【それ】を見る。


 やはり【それ】は不自然に私の足元から伸び続けていた。



 私の目の錯覚か、それとも何かの冗談で辺り一帯の幾何学がおかしくなっているのかはわからなかったが、とにかくまともじゃない。私は再び振り返ることなく逃げるように走って家へと帰った。きっとその足下には、ゆっくりと伸びながらついてくる影があったのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ついてくるのは本当にあなたの影ですか? 火之冬弧 @fuyuko_hino

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画