王女、勇者が憎くて魔王にしてしまう

@nama_kemono

第1話

「勇者よ、どうかこの王国を魔王からお救い下さい!」

「「さすが姫様です、どこからどう見ても悲劇のお姫様です!!」」


 王宮では第一王女セリーヌ・ガ・イチバン姫は10日後に迫った勇者召喚の準備に大忙しであった。


「ねえ、パパ。やっぱり魔王がいた方がリアリティがあると思うの」

「そうだねぇ、でも魔王にぴったりな人物なんてすぐには無理だよ」

「いいえ、いますわ!私のおねー様達を拐かす、諸悪の根源が奴を放っておいてはこの国は””になってしまいますわ」


 王女が言う諸悪の根源とは、ある村に住んでいる異世界人だった。この世界では人の感情の内容や強さに敏感に反応する魔物、平たく言うと心に反応する『ウィルオウィスプ』略して『ウィルオエロスプ』が存在する。


「その異世界人はあろうことか私のおねー様たちを見て特大の『ウィルオエロスプ』を飛ばしたのよ。極刑よ!極刑でも生ぬるいわ!!」

「でも王女よ、調査したところによるとそのリクという青年はまだ”勇者”の資格を持っているそうじゃないか、ならその村の女性にはまだ手を出していないんじゃないのか?」

「甘い!甘すぎですわ!!パパはあの異世界人がどんなに極悪非道なのかを知らないからそんな呑気な事が言えるのですわ」


 30歳まで童貞だと賢者になれると言う、なら賢者の上の勇者は? そのため40歳まで、あるいはずっと童貞だと勇者に転職すると囁かれていた。



 1週間後、村にとある御触れが出た。


 ◾️魔王の出現について(王宮)◾️


 村の住人"リク"なる異世界人を魔王と認定する。

 魔王は3日後に行われる『勇者召喚』で呼ばれた勇者によって討伐する予定である。


 ◾️王女 セリーヌ・ガ・イチバン◾️



 認定とか予定とか色々突っ込みたい所だが、それよりも王宮が勝手に人を"魔王"に仕立て上げた事にリクは怒っていた。


「何勝手に人を"魔王"と決めつけてくれてんだ」

「無理ないんじゃないの?だって私たちの姿を見て『ウィルオエロスプ』を出しちゃうなんて」

「そうそう、じゃなきゃあんな大きな『ウィルオエロスプ』にならないわ」


 お隣さんの美人姉妹、アーネとリーネにエロ異世界人認定されて反論が出来なくなってしまった。

 あの時は3人一緒だったから、エロい事を考えていたのは誰なのか、アーネかリーネがエロい事を考えていたんじゃないのかって噂が流れた。


 まあ完全な男の子なら半裸の女の子の姿を見たらウィルオエロスプを出すのも無理ないが、アーネとリーネにも疑惑の目が向けられたのは申し訳なかった。



 ーー王宮 最奥の間ーー


「さて、では勇者召喚を始めるとしましょう!」


 王宮の最奥の間では王女 セリーヌ・ガ・イチバンが、怪しげな儀式を行なっていた。


「えーと、この魔法陣の中によく焼いた鳥肉と…準備は完了ですわね」


 王女が儀式の内容を1つ1つ指差し確認でチェックしていく。

 大昔の文献に勇者召喚は"行う者"と"行う時"と"儀式に用いる供物"が重要だと書かれていた。


 本来は"行う者"と"儀式に用いる供物"に突っ込みたい所だがすでに突っ込みが大渋滞になっていそうなので割愛する。"行う時"も重要なのは現代では車と言うものや電車と言うものなど召喚陣が出ている時に余分な物まで召喚してしまう危険が高いためである。

 またトイレなどの緊急事に召喚でもしようものならこちらが召喚した者に抹殺されてしまう。に…


「さあ、勇者よ!セリーヌ・ガ・イチバンが命じる おねー様たちに近づくあの害虫に正義の鉄槌を!!!」


 セリーヌの体から滲み出ていた邪悪な魔力が魔法陣に吸い込まれて行き、召喚の儀式が発動した。


 立ち込めていた邪悪な魔力が払われると魔法陣の真ん中に人影が現れた。


「やった!やったわ!!勇者召喚に成功したわ!!!」


 セリーヌが、召喚した勇者に駆け寄ると、勇者は魔法陣の中でモゾモゾと動いていた。不思議に思ったセリーヌが勇者を覗き込むとそこには骨付き鳥肉にかぶりつく勇者の姿があった。


「ん〜〜やっぱりお肉は骨付き肉に限るわねー、お肉に味が滲みててしっかりと焼いてあって、一度かぶりつくとやめられない!止まらない!!」


 何かのお菓子のフレーズみたいな事を口ずさみながら召喚勇者は供物だった肉を平らげた。


「こほん…」

「あ、やば…お肉のタレが服に着いちゃった早く洗わないとシミになっちゃう」

「ごほん、ごほん…」


 セリーヌの咳払いにやっと召喚勇者が気づいた。


「?だれ??」

「初めまして、勇者様。私はセリーヌ・ガ・イチバン、この国の王女ですわ」

「セリーヌが1番?なぁんだ、承認欲求モンスターか…」

「商人モンスターですって?私はお金にうるさくは無いです」


 王女と勇者、それぞれ肩書きと実態の乖離が激しい2人はお互いの第一印象は"変な奴"だった。


「つまりここは異世界で私は異世界召喚されたって事だよね。あ、こほん。改めて私は山田、山田・エレガント・洋子。エレガント・プリンスって呼んで」


 明らかに王女に対抗した自己紹介をする山田を見て、王女は一抹の不安を感じながらも前向きに捉えた。


「(思った勇者と違うけど同性なら、憧れのおねー様に近づく事もないし安心ね)」


 勇者召喚が無事?に終わった事を国王や国の重鎮に報告するため山田を広間に連れて行った

 

「わはー、流石はお姫様だ。ドレスなんて初めて」


 山田がシミのついた制服をドレスに着替えて興奮していた。


「ねぇ見て見て、こほん。えー本日はお招きに預かりましてありがとう御座います」


 親指と人差し指でスカートの裾を軽く持ち上げ見事なカーテシーを披露して挨拶をすると、それを見た人々が顔を真っ赤にした。


「なっなんて破廉恥な!足が出ているじゃないか!」

「よもや勇者ともあろうものが色香で人を惑わそうとするなんて、もはや性女だ!!」


 その日以来山田は極まりない異世界の人間として聖女(性女)と呼ばれるようになった。


 ある日魔王(の冤罪をかけられた)と勇者(の予定で呼ばれた聖女)が邂逅した。


「あれ、リクじゃない?ちょっとどこいってたのよ」

「ん?あれ?山田じゃん、何だよお前もこっち来たのか?」

「あんた期末テスト補修確定だよ」

「マジかよ、だーー」

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