【怪談】黒いノート
紅風秋葉
第1話
今の子供達は知らないかもしれないが、一時期ブームとなった漫画がある。
主人公は男子高校生で才色兼備な優等生。
そんな主人公がある日に一冊の黒いノートを拾う。
ノートは、顔を思い浮かべて名前を書けば、その人物は死ぬ。
主人公はノートの死の能力を使い、恐怖による犯罪の無い世界を目指す。
しかし、その殺人を止める為に世界で最高の探偵が捜査に乗り出し、主人公との高度な頭脳戦を繰り広げる。
以上が大雑把なあらすじ。
漫画は他に多くのメディアへ展開され、スピンオフが作られる程の社会現象になっていた。
当時、そんなノートを欲しがる人は多かったが、実際には無い。
でもあったなら…そんな会話がそこらで話されていた。
鬱憤の溜まったサラリーマン等は、その最たるものだ。
そんな思い出話を、居酒屋で友人と話していた。
「あった。あった。懐っw」
「でも俺さ!黒いノート買って来てさ、白ペンで表紙を書いて、ノート作ってたよw」
「マジで?って、まぁ俺もやったけどw」
「お前もかよw」
「でもさ、マジあったら誰書く?」
「う〜ん…とりまクソ上司だなw」
「判るぅ〜w」
そんな会話をしていると、もう一人の友人Aが黙っている事に気が付く。
そんなAに「お前はどうなん?」と話を振る。
Aは浮かない顔で「ぃゃ…まぁ…」とだけだった。
それ以後のAは口数が極端に減り、それからしばらくして飲み会は解散となった。
帰り道がAと同じ方向だった俺は、一緒に帰路に着いた。
「どうした?」
先の飲み会の時のA変化が気になり聞く。
「俺さ…高校の時にBに虐められてたじゃん…」
Aは呟く。
「ぁ…ぁぁ…そうだな…」
「物を捨てられたり、イタズラの罪を擦り付けられたり、暴力で怪我だって…」
Aは俯きながら声を少し荒げた。
俺はAの背中に手を置き、近くの公園のベンチに導いた。
Aと俺は中高と同じ学校で中学の時に友達になった。
高校は一緒のクラスにならなかったが、休日などは良く遊んだ。
ただ高2になる頃から、Aの様子がおかしくなった。
高3では足の骨折による入院から、不登校みたいになっていた。
原因はBによるイジメだ。
Bは町の有力者の息子で態度は横柄でガラが悪かった。
そんなBが何かの拍子に、Aにかなり絡み始めたらしく、それが悪化しイジメになった。
学校側はイジメに積極的な対応はせず、むしろ隠蔽に走った。
もちろん俺は学校に進言した。
学校からは「他のクラスに首を突っ込むな」「内申に響くぞ」と釘を刺され、それ以上は相手にされなかった。
その後、高校を卒業し大学に行った俺は、Aとは自然と疎遠になってしまった。
社会人になり数年後、Aとは地元で偶然に再開した。
それから友情は復活して、今に至っている。
「あの漫画…高校の時だったか…思い出しちまったか…すまん…」
俺は、途中で購入した缶コーヒーの1つをAに渡す。
「いや…違うんだ。……違わなくは無いが…イジメを思い出したから、黙った訳じゃないんだ…」
Aは缶コーヒーを開けずに、少し弄んでいた。
「俺さ…高3の引き篭もっただろ。そん時にさ…カウンセリングを受けたんだ。」
缶コーヒーのプルタブを軽く弾きながら続ける。
「っで、カウンセラーにさ『嫌な事はノートに書き出しなさい』って言われたの。」
Aの視線は、缶に注がれている。
「っで、書いたよ。ノートいっぱいに余白も罫線も関係なくびっちりと書いた。」
Aは少し自嘲気味に笑う。
「今まであった事、悔しくて苦しい辛い心境とか…感情の全部を書き込んだの。途中からは『死ね』「死にたい」のばっか。」
缶コーヒーを持つ手は微かに震え、指先が白くなっていた。
「でも不思議な事にさ…書くとそれだけ心が少し軽くなるんだよ。」
缶コーヒーを持つ手が緩んだ。
「だから何冊も書いた。そうだな…ざっと300冊かな…異常だろ?」
180mlのショートの缶は少し凹んでいた。
「である時にな、Bがどうやって死んでほしいかを書いたんだ。」
Aが一瞬、俺を見た気がする。
「高3の時にBが俺を階段から突き落とした所為で、俺は足を骨折して大会に出れなかった。人生がパァだよ!」
Aの声は震えていた。目は赤く充血していた。
「だからBには階段から落ちて死ねって書いたんだ…その通りに死んだんだ!マジ笑える!ざま見ろだ!」
そうAは興奮気味に言った。
その顔は目を見開き広角が上がり、俺は狂気を感じた。
確かにBは俺が大学の頃に事故死していた事は、お袋から聞き知った。
何でも、家族全員を就寝中に殺害。
その後に自身は実家の階段から転落死。
但し、1回の転落では無く、何度も同じ階段を転落していた。
全身骨折をしていたらしく、自身が這い上がっている跡もあったと言う。
内容が異常だった為、詳細は伏せられていた。
地方紙の隅に、記事は載っていた。
俺は冷静を装いつつ言った。
「偶然だろ…オマエの所為じゃ無いよ…気にすんなって…」
するとAは横目で俺を見上げる。
「信じてないのか?」
真顔で低く言う。
「いや…信じるも何も、非現実的だって。それじゃまるで、あの漫画ノートじゃないか…あれは漫画で現実じゃない。漫画みたいに死神が見えたっていうのか?」
俺はムキになって言う。
「いいや…死神は見えないよ。そもそも死神のノートじゃ無い。俺が作ったノートだ。恨みと怒り、絶望を込めまくって作ったノートだ。」
Aは淡々と続ける。
「だからってBの死がノートの力とは限らないだろ…」
俺の言葉に「担任のCはどうだ…」とAは被せてきた。
当時の担任Cも、俺達が大学の頃に行方不明になったと聞く。
こちらは部活の後輩から聞いた。
実際は他の高校に異動したのか、教師を辞めたのか、その辺りは不明だ。
「学校から居なくなったとは聞いているが…」
俺は憶測は挟まず、知っている事実だけ伝える。
「そうだな、Cは俺を含めイジメを無かった事にした。」
Aは、どこか遠くを見る目になる。
「だから俺もCを無かった事にしたんだ。今頃は樹海で独り寂しく誰にも知られずに死んでるはずだ。」
喉の奥で、くぐもった笑いを上げた。
「Cの事も書いたのか?」
俺の問いに「ああ…」とだけ、Aは答える。
俺は目の前の友人が人間では無い、何か別の存在に見えてしまい背中に寒いモノを感じた。
Cについては生死の確認が出来ないから何とも言えないが、Aの中では殺した事になっている。
「仮にお前が言う通りにノートが本当だとしてだ…どうするんだ?」
「どうもしないよ。あのノートは高校時代の恨みだ…それ以外は範疇外だよ…」
そう言うとAは缶コーヒーを開けて飲み干した。
「缶コーヒー、ごちそうさん。お前はやっぱりいい奴だ。…またな。」
そう言うとAは、ベンチを立ち独り町中に消えていった。
俺はAのその背中を眺めた。
「それ以外は範疇外…」
引っかかったその言葉を流し込む様に、残った缶コーヒーのぬるくなった中身を飲む。
高校時代に力になれなかった自分の非力さを悔やみながら、俺はもう一度あの言葉を思い返していた。
【怪談】黒いノート 紅風秋葉 @BenikazeAkiha78
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