第2話 推理するほどの事でもない

翌日の昼休み、美咲から緊急のメッセージが届いた。


『また二人消えました。お願いします、会えませんか』


大学の中庭で待ち合わせると、美咲は明らかに動揺していた。


「昨日リストアップした後、また二人消えたんです。もう怖くて」


「落ち着いて。まず、消えた人たちに共通点はない?」


「それが、あるような、ないような」美咲はリストを見せた。


 消えたフォロワー(フォローされた順):

 1. 高校同級生・石川真奈(三ヶ月前)

 2. 高校同級生・佐藤優子(三ヶ月前)

 3. バイト先先輩・田中健太(二ヶ月半前)

 4. サークル後輩・鈴木美羽(二ヶ月前)

 5. サークル後輩・渡辺佐紀(二ヶ月前)

 6. 高校同級生・山田彩花(一ヶ月半前)

 7. 従姉妹・木村さくら(一ヶ月前)


「従姉妹まで消えるなんて、ありえないですよね。家族とか親戚なんて、何かない限り絶対にフォロー解除するはずないのに」


 僕はリストをじっくり見た。フォロー時期はバラバラだが、確かに新しい順に消えている。


「美咲、このフォロワーたちに、何か心当たりはない? 例えば、喧嘩したとか、何かトラブルがあったとか」


「全然。みんな普通に仲良いですよ。LINEでも普通にやり取りしてるし」


「じゃあ、この人たちに直接聞いてみたら? なぜフォロー解除したのかって」


 美咲は目線を逸らしつつ、口どもるように答えた。


「……聞いたんですけど。そしたら、みんな口を揃えて『フォローなんてしてないよ』って言うんです」


「え?」


「『確かに美咲のアカウントは知ってるけど、フォローはしてない』って。でも、あたし確かに彼らからフォローされたって通知を受け取ったんです。スクショも残ってます」


 美咲はスマホの画面をスワイプして、過去の通知のスクリーンショットを見せた。確かに「○○があなたをフォローしました」という通知が並んでいる。


 これは奇妙だ。


「もしかして、誰かが彼らのアカウントを乗っ取って、勝手にフォローとフォロー解除を繰り返してるとか?」


「それも考えたんですけど、七人全員が乗っ取られるなんて、確率的にありえないですよね」


 確かに。しかも、乗っ取った犯人がわざわざフォローして、また解除するなんて、動機が見えない。


「美咲、1つ聞きたいんだけど、この消えたフォロワーの人たちに、リアルで会った?」


「ほとんど会ってないです。最近は忙しくて」


「じゃあ、最後に会ったのはいつ?」


 美咲は考え込んだ。


「えっと、従姉妹のさくらちゃんは先月の家族の集まりで会いました。サークルの後輩二人は、二ヶ月前の合宿以来かな。バイト先の田中さんは、あたしがバイトを辞めた三ヶ月前が最後。高校の同級生たちは、卒業以来会ってません」


 僕は何かが引っかかった。


「待って。その『会った時期』って、フォローされた時期と一致しない?」


 美咲の目が見開いた。


「あ、確かに。さくらちゃんは家族の集まりの直後にフォローしてくれて、サークルの後輩たちも合宿の後で……」


「つまり、この人たちは全員、美咲に会った直後にフォローしてるんだ」


「でも、それってよくあることじゃないですか? 久しぶりに会ったから、SNSでも繋がろうって」


 それはそうだ。だが、何かが腑に落ちない。


「美咲、もう1つ聞きたい。この七人以外に、最近会った知り合いでフォロワーになった人はいる?」


 美咲はフォロワーリストを確認し始めた。しばらくして、顔を上げる。


「います。先週、中学の同窓会があって、その時に会った友達が何人かフォローしてくれました」


「その人たちは消えてない?」


「消えてないです」


 ということは、「会った直後にフォローされた人が消える」という法則は成り立たない。


 その夜、僕は自分の部屋で美咲から送られてきた情報を整理していた。ホワイトボードに人物相関図を書き出し、時系列で並べていく。


 消えたフォロワーの特徴:

 - 全員、美咲の知り合い

 - フォローされた順番の逆に消えている

 - 本人たちは「フォローした記憶がない」と証言

- 美咲と会った直後にフォローしている(一部例外あり)


 ここで、僕はあることに気づいた。


 美咲が「フォローされた」と認識したのは、通知を受け取ったからだ。だが、本人たちは「フォローしていない」と言っている。


 もし、誰かが偽の通知を送っていたとしたら?


 いや、それは不可能だ。美咲のスクショには、確かにInstagramの公式通知が映っている。


 では、本人たちが嘘をついている?


 それも考えにくい。七人全員が口裏を合わせる理由がない。


 ふと、僕は別の可能性に思い至った。


 もしかして、美咲自身が——


 いや、待てよ。


 僕はスマホを取り出し、自分のInstagramアカウントを開いた。そして、フォロワーリストを確認する。


 ある仮説が浮かんだ。


 翌日、僕は美咲を呼び出した。


「美咲、聞きたいことがある。正直に答えて」


 美咲は不安そうな顔で頷いた。


「この消えたフォロワーの人たち、本当に全員、自分の意志であなたをフォローしたと思う?」


「え? それはもちろん……」


 美咲の言葉が途切れた。


「実は、違うんじゃない?」


 僕は単刀直入に聞いた。


「君は……この人たちのスマホを借りて、勝手に自分のアカウントをフォローさせたんじゃない?」

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