本能寺後記

伊原茂児

第1話 本能寺

 覚悟が、あっけなくなかったことにされる。



 天正10年6月2日早朝、敵に包囲されたことを知ると、信長は寺に火を放った。煙に巻かれ意識が遠のいていく。このまま2度と目覚めない――はずだった。



 暑い。だが、火に焼かれているのではない。視界には青い空、日差しが強い。足元は硬く平らだ。


「ちょっとあんた、どないして入ってきはったん?」

 男に咎められた。僧ではなさそうだ。促されて歩いていくと、見えない壁にぶつかった。


「ここはいずこか」

「いずこて、ここは本能校舎どすやろ、校舎」

「……」


 男に付いて外へ向かった。そこには見慣れない街並みが広がっている。


 石碑が目に入った。

「本能寺跡」※


 ※「䏻」は、火災除けのため火偏を避けた異体字。実際の石碑表記による。

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