朝8時前の車窓から

仮言絶句

今日も君たちは乗ってくる


ピーッ  チンッ


今日も私は人を乗せている。巡り巡る人生を乗せて。


◻︎


荒川哲夫あらかわてつお、32歳独身。今日も田舎と田舎を結ぶバスを走らせる。有竹村、本当に山奥に数軒と片手で数えられるほどしかない場所から、ひとつだけある大型ショッピングモールだけを中心に栄えている真紘町を結ぶバスの運転手をしている。


山からちょっと栄えた町へ、移り変わりゆく車道を私は走らせる。今までは、あまりにもなその景色の激変を楽しみに走らせてきた。たった1人、利用者の少ない路線ばかりを走らせてきたあまり、最近はもの寂しくなってきた。しかし、ある日を境にそんな景色を見るばかりではなくなってきた。


今までは有竹村行きから乗るお客様なんかほとんどいなかった。乗ったとしてもじじばば程度。しかし、そこに1人の少女が乗り合わせた。彼女は私立真紘女子中学の制服を着ている。偏差値60ぐらいの名門中学だ。私は真紘町に住んでおり、そしてその中学のちょうど隣の寂れたアパートで部屋を借りている。だから、知っているのだ。決して趣味ではないぞ!たまたまだぞ!


そのような子がわざわざ辺鄙なバス停から乗り進めたのである。それは気になりまくるに違いないだろ。


そうバスを走らせて3つ目のバス停が見えてきた辺りにて。そこに1人少年が立っていた。私はそこにバスを止め、扉を開けた。


入ってきた少年はICカードをかざし、1番後ろの右側の席に座った。あの有竹村から乗っていた少女はちょうど彼の前に座っている。


2人は幼なじみなのか、その独特な雰囲気に私は気になり、少し耳を傾けてみた。




「なあ、しおり……最近、どうなの?学校」


「うん……元気だよ、こうじくんこそ勉強についていってる?」


私はちらちらと2人の様子を鏡越しで見ながら、山中を安全に運転する。


「だいじょーぶ、だいじょーぶさ!」


「ふふ、本当に?小学生のときは漢字、ぜんぜんダメだったけど」


「…ッ、か、漢字だけはちげえよ!俺は、昔から数学だけは自信があるんだ」


「ふふふ、変わってないね…こうじくんは」


そのこうじくんと呼ばれた少年は赤く顔を染めている。少女に見えないように。


巡り巡る山道を通り、幾たびもトンネルを抜け、山々あった景色に人口物が見え始めたころ。最終停車地ふたつ前。少女は後者ボタンを押した。


「また、明日ね、こうじくん」


手を振り、彼女は降りる。


その様子に少年は笑顔で会釈し、私は走らせた。


「……しおり、やっぱ、すきだよ………」


少年はふと口を漏らした。しかし、そこに彼女はいない。私は見守りたい。いつも走らせるこのバスで生まれる恋に。


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朝8時前の車窓から 仮言絶句 @Harukazebyunbyun

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