ラバーズ

@Saitou_sou

ラバーズ

 大地が厚い雲に覆われたとき、空から巨大な唇が表れた。その唇には厚い赤いルージュがひかれ、なまめかしく輝いている。若い女性だろうか。この不思議な唇は閉じたまま、何の言葉も発してくれない。

 農夫たちは、太陽の光が届かず荒れ果てた農地を前に、絶望の淵に立たされていた。

 農夫たちが唇を見上げた。もしかしたら神様ではないのか。ダメもとで、お願いしてみよう。

 農夫たちは必死に両手をすり合わせた。

「このまま太陽が隠れたままだと、農作物はダメになってしまう。助けてください」

「雨も降らなければ冷害もひどい。おれたちが育てた麦は全滅してしまった。なんとかおめぐみを」

「子どもたちが、お腹を空かせて泣いています。どうか、慈悲の心を」

 口々に訴えると、巨大な唇がゆっくりと開いた。農夫たちはどよめいた。やはり巨大な唇は神様だった。これから神様の言葉が聞ける。

 農夫たちは正座をして、唇の前に平伏した。

 ついに唇は言葉を発した。

「美味しそうな人間たちだこと」

 唇からアリクイのような長い舌が伸びて、集まっている人間を根こそぎさらっていく。

 農夫はひとりもいなくなった。

 荒れ果てた農地の上に、無慈悲な咀嚼音が響き続けた。

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