粉塵のパイルバンカー

うなぎかご

第1話 鋼鉄の黙示録

 かつて、空は青かったという。

 だが、その記憶は1940年代の炎と共に焼き尽くされた。


 第二次世界大戦。

 それは日和極東連邦とゲリマーが「枢軸」として結託し、アメリア率いる連合軍と衝突した、人類史上最大の自滅へのカウントダウンだった。

 激化する技術開発は、破壊の速度を神の領域にまで押し上げ、世界を焼き尽くした。

 そして、膠着の果てに訪れたのは平和ではなく、猛烈な粉塵に覆われた「世界の停滞」だった。

 長年の戦火と化学兵器の応酬は大気を回復不能なまでに汚染し、空からは翼が奪われた。

 エンジンに粉塵が混入すれば、航空機はただの鉄屑となって墜落する。

 レーダーは霧に遮られ、ミサイルは干渉によって誘導を失った。


 1981年。

 世界は四つの巨大な「ブロック」――四大メガ・ブロック(広域勢力圏)によって分断されている。


 四大メガ・ブロック:均衡という名の対峙


 大東亜経済広域圏(東方広域圏)

 首長国:日和極東連邦。

 首都:八洲(やしま)。

 崩壊したヂュオ・ルン・セクトラ地区の利権を呑み込み、高度なAI制御による精密な歩行兵器運用を誇る。

 その洗練された暴力は、東方の秩序を冷徹に維持している。


 アングロ・アメリ・ユニス(Anglo-Ameri-Unis)

 首長国:アメリア。

 首都:ニュー・ヨルクス。

 かつての超大国の残影。

 広大な資源を抱えながらも、粉塵による孤立から保守的かつ狂信的な武装共同体へと変質した、眠れる巨獣。


 エウロ・ゲルマ・リキ(Euro-Germa-Riki)

 首長国:ゲリマー。

 首都:ベルアーク。

 「第三帝国」の響きを継承する欧州帝国。

 停戦後、欧州全域を物理的な壁と装甲板で覆い尽くし、外界を拒絶する軍事要塞国家。


 ヴァジュラ・バラ・カノン帝国(Vajra-Bhara-Kanon)

 首長国:聖典ヴァジュラ帝国。

 首都:デリ・ガート。

 旧宗主国を血で塗り替え、独自の宗教と軍事思想で台頭した新興勢力。

 世界最強の二足歩行兵器大国であり、新エネルギー、マンガニスの一大産地。

 死を恐れぬその進撃は、今や北へと牙を剥いている。


 それぞれ世界の境界線には、四大ブロックが手を出せない、あるいは「餌場」とする空白地が広がっている。


 国家が機能しない不毛地帯。

 放置された兵器の山から部品を漁る亡霊たちの住処、ヴォスト・ウラル・スクラップ。


 分断された政治思想から東西南北に分かれ、代理戦争の泥沼に沈む双竜内戦区、ヂュオ・ルン・セクトラ。


 そして、水と権威を巡り聖戦が繰り返される不毛の回廊、アル・サハラ・コルドル。

 今や時代遅れとなった資源、「石油」をめぐり旧式兵器での戦争絶えない地域。


 空を失った人類は、泥を這い、鉄を削り、歩行兵器の足音で大地を震わせる。

 これは、そんな終わらない黄昏の時代を、一人の男が「愛」という名の設計図だけを胸に駆け抜けた記録である。

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