おばあちゃんに任せなさい!

セモピヨ

おばあちゃんに任せなさい!

士官学校の鐘が鳴ると同時に、ライトはため息をついた。

 黒髪短髪に、どうしても跳ねる一本のアホ毛を手で押さえながら。


「……やっと終わった」


「おつ〜」


 間延びした声と欠伸をしながら一緒に、いつもの顔が横に並ぶ。

 幼馴染で腐れ縁、士官学校の同級生――エリだ。


「なんでいつも一緒に帰ろうとするんだよ」

「えー別に良くね?ライトの婆ちゃんに会いに行くっしょ」


 悪びれもなく言い切るエリに、ライトは小さくため息をつく。


「……俺の婆ちゃん目当てで付いてくるな」

「いーじゃん。かわちぃし」


 そう言われると、反論できないのが悔しい。


 俺の婆ちゃん――ルリは、近所では有名な存在だ。

 見た目はどう見ても十代半ばの少女。

 だが実際は、300年以上生きているという、どう考えても説明のつかない存在。

 

 昔に色々あったらしい。

 それの副作用だとは聞いたが、それ以上のことはわからない。


 ただ、その功績から国では功労者扱いされていて、女王様からも特別に保護されている。

 生活に困ることは一切ないらしい。

 ……本人は「つまんなーい」の一言で、探偵ごっこを始めたが。



「ただいま」


 ライトが扉を開けた瞬間だった。


「おかえりー!!」


 奥から、ぱたぱたと軽い足音がして、勢いよく飛び出してくる影。


「……」


 抱きつかれた。


「今日もお疲れさま!」

「婆ちゃん、勢いが強い……!」


 ルリは満面の笑みでライトを見上げている。

 どう見ても、年下の女の子だ。

 淡いピンク色のポニーテールが跳ねて、軽装の少女用の服がやけに動きやすそうに揺れる。


「ルリリ〜ン!」


 靴を脱ぎ切る前にエリが突撃する。


「会いたくてしんどかった〜」

「可愛いね〜!私も〜!」


 二人はそのまま手を取り合ってくるくる回り始める。


「……姉妹かよ」


 ライトはもう慣れたつもりだったが、やはり落ち着かない。

 俺の、ひいひい……いや、もう数えるのをやめた方がいいおばあちゃんが、同級生とじゃれあっている。

 


「お茶飲む? クッキーもあるよ!」

「やったー!」


 完全にエリが家族の一員になっている。



 少し落ち着いた頃、ルリは湯気の立つカップを手に、楽しそうに話し始めた。


「ねえねえ、ちょうど面白い話が来てね」

「……嫌な予感しかしない」


 ライトの勘は当たることが多い。


「下層部の地下通路、最近増えてるらしいの」

「なにそれー?どこに繋がってるのー?」


 エリが身を乗り出す。


「正式な事件ってほどじゃないんだけど、女王様が“様子を見てきて”って」

「……調査か」


 ライトは眉をひそめた。


「危なくないのか?婆ちゃんは、その……強くないだろ?」

「大丈夫大丈夫!おばあちゃんに任せなさい!」


 ルリはにこっと笑う。


「ちょっと見て、怪しかったらすぐ帰るだけだよ?」

「その言い方が一番信用できないんだけど」


 するとエリは、髪の毛を手にくるくる巻きながら


「明日は学校休みだし、一緒に行こうかな〜」

「お、おい!お前は関係ないだろ!」


 エリは目を輝かせた。


「だって、面白そうじゃん? 」

「婆ちゃんと居たいだけだろ!」


 エリは横目でこちらを見ながら、ニヤリと笑う。


「ウチ、強いし?」


 茶色の巻き髪の隙間から、右頬に走る雷のような紋様がちらりと覗く。


「ぐぬっ!否定はできん…」


 ルリはくすくす笑う。


「女の子に負けちゃうぞー? がんばれー!我が子よー!」

「あのな!婆ちゃんに言われると煽りにしか聞こえない!」


「じゃあエリちゃん!一緒に行こうか!」

 

 婆ちゃんが、エリの腕を掴む。


「……待て」

ライトは小さく息を吐いた。


「婆ちゃんとエリを二人で行かせるわけにはいかないだろ」


 エリが目を丸くする。

「うお?心配な感じ?」


 深くため息を吐き、頭を抱える。

「……事故が起きたら、俺がお父さんとお母さんに怒られる」


「素直になんなー?」

 エリが手をヒラヒラさせて言う。


「見るだけだから!みんなで一緒に行こう!」

ルリが、拳を上げて意気込む。


 こうして――

 本来なら平穏なはずだった士官学校生の放課後は、

 “軽い調査”という名の厄介ごとへと繋がっていく。

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