手話
此岸之 芥
手話
僕たち5ニンは、生まれたときから一緒に暮らしてきた。
言わば、家族のような存在だ。
そんな5ニンの中で、僕だけが劣っている。そう思うことが多々ある。
他の4ニンを見ると背が高くスラっとしているのに対し、僕だけが小さくて太っている。僕は5ニンの中で、いつも5番目の存在だった。
いつか僕も他の4ニンみたいになりたいと思うと同時に、僕の存在なんて人は必要としていないと、そう思っていた。
体育のバレーの試合でボールをレシーブするとき、あまり近づく機会のなかったコと話すことになった。そのコも僕たちと同様に、生まれた時から5ニンで暮らしている。いつもは、大きな壁の反対側にいて話すことができないのだが、バレーのレシーブをするときは近づくことができるのだ。
(伝言を頼まれてくれないかな?)
突然そのコは僕にそう言った。
(誰に?)
(いつもキミの隣にいるヒトだよ)
僕は隣にいるヒトが苦手だった。いつも5ニンの中で1番的存在であり、よく人に頼られている。僕にできてあのヒトにできないことなど一つもない。そんな現実を押し付けてられているような気がして嫌なのだ。
(頼むよ)
このコが僕の隣にいるヒトに話せる機会なんてそうそうないだろう。
そう思った僕は嫌々承諾することにした。
(ありがとう!)
(それで、伝言の内容は?)
(どうしたら、人に頼られるような存在になれるのかを教えてほしい)
(!?)
同じだ。
このコの言葉を聞いたとき、僕はそう思った。
(私は細くて力もない。そんな私を人は必要としない。だから、キミの隣のヒトに聞きたいんだ)
このコは、僕と同じくコンプレックスを持っていて、自分は人に必要とされていないと思っているのだろう。
(わかった。伝えてあげる)
これは善意でも同情でもない。ただ、僕も気になったのだ。どうしたらあのヒトみたいになれるのかを。
バレーの試合中、ボールが相手コートに入った時、隣のヒトにあのコから聞いたことを伝えた。すると、思わぬ返答がきた。
(確かに、俺はよく人に頼られる。でも、あのコにしかできないことだってあるよ)
その言葉を聞いたとき、怒りが込み上げてきた。
(っは、なんでもできるヒトにはわからないだろうね。僕たちの気持ちなんて)
そう嫌味っぽく言う僕に対して、隣のヒトは動じることなく言葉を返してきた。
(俺はキミみたいに相撲ができないよ)
その言葉を聞いたとき、僕はハッとした。そう、相撲は確かに僕にしかできなかった。このヒトが出てきてしまえば、ルール違反になるからだ。
(それぞれしっかりと役割があるんだよ。みんな必要なんだよ)
その時、すべての悩みが吹き飛んだ。
他の4ニンのようにならなくてもいい。僕には、僕にしかできない役割がある。そう思うと、気持ちが楽になってきた。
今すぐにでも、壁の反対側に暮らすあのコにも伝えてあげたい。
大切な約束をするときに、あのコが必要であるということを。
「栗田!」
そう言われた次の瞬間、栗田の頭上にトスが上がった。
栗田はタイミングを合わせて思い切りジャンプする。
そして僕たち5ニンにボールが勢いよくぶつかる。ぶつかったボールは、誰も触れることなく相手のコートの地面についた。
「栗田! ナイススパイク!」
栗田は褒められたことがうれしくてニッコリと笑う。
そして次の瞬間、僕以外の4ニンが縮こまり、僕だけがピンと立つ。
(あぁ、これも僕にしかできない役割だ)
――これがいわゆる、グッドポーズというやつだ。
手話 此岸之 芥 @haru86008600
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