無垢な異形 ー母の瞳ー

無垢にーさん

プロローグ

時として、世界は急速な変化を遂げる。


それは英雄の出現によるものかもしれない。

あるいは科学の進歩、文明の跳躍によるものかもしれない。


だが――

それらとはまったく異なるかたちで、世界が歪む瞬間がある。


それは、世界そのものが引き裂かれるときだ。


空が突然砕けたかのように

裂け目は、前触れなく現れる。

空に、海に、大地に。

人の認識が及ばぬほどの一瞬、だが確かに存在する“綻び”。


通常、それは観測されない。

観測される前に、閉じてしまうからだ。


しかし、世界が極端な緊張状態に置かれたとき――

大規模な破壊、無数の死、歴史的な転換点。

そうした「歪み」が生じた瞬間、裂け目は拡大し、安定する。


2100年。

この年、ある世界では大戦が最悪な形で終結を迎えた。


未曾有の破壊と犠牲を伴い、世界は決定的に形を変える。

だが――

それは、別の世界の出来事だった。


高瀬拓真たかせたくまたちが生きるこの世界では、

その年、大戦は起きていない。


ただ一度だけ、

説明のつかない“落下物”が観測された。


山中の崖下。

人知れず回収され、秘匿されたそれは、

金属でも、生物でもない、奇妙な構造体だった。

後に、それは


魂無〈こんむ〉 


と呼ばれる。


人工的に作られたであろうコア。

意識を持つように脈動する、新たな動力源。

当時の技術水準では、到底説明のつかない存在。


魂無は軍によって管理され、研究された。

平穏である世界ではまだ、魂無は兵器ではなかった。

少なくとも、その時点では。


――そして、時は流れる。

2120年。

それまで断続的にしか観測されなかった裂け目が、

明確な形を伴って出現し始めた。


裂け目の向こうから現れたのは、

人でも、機械でもない存在。


異形〈いけい〉


異形は、無秩序に破壊し、喰らい、増殖した。

まるで世界そのものを侵食するかのように。


この年を境に、

この世界は初めて「異形との戦争」に突入する。


人類は気づいていなかった。

その異形が――

人の手によって生み出された技術の、成れの果てであることを。


異形の中枢には、

かつて人が作り出した魂無と同質のコアが存在していた。


別の世界。

平行する時間軸。


生物のような筋繊維。

造形を維持するために使用されたクローン技術。

戦闘に耐えうる装甲と意識ある新動力。


他国との争いのために開発された兵器は、人の欲や様々な負の感情に触れ

やがて制御を失い、暴走した。


コアは学習し、複製し、進化した。


人と生物を取り込み、

異形という存在へと変質していった。


やがて――

異形の中から、ひとつの意思が生まれる。


母体〈ぼたい〉


母体は知性を持ち、司令役となり、

時間への干渉能力を獲得した。


そして、裂け目の先に感じ取る。


平行世界に存在する、

まだ無垢な魂無の“気配”を。


それを追うように、異形は増え続ける。

だが、別世界のの科学者たちは知っていた。

このままでは、世界が喰い尽くされることを。


だからこそ――

彼らは選んだ。

まだ異形に堕ちていない魂無を、

別の世界へ送り出すことを。


その世界が救われることにより、自らの世界に何らかの変化が起こることに望みをかけて‥


時間干渉が可能なのは、

世界が歪む瞬間だけ。


だから、”核”を使用した、その年が選ばれた。


こうして、ひとつの世界は崩壊へと向かい

ひとつの世界に魂無が落ちた。


やがてそれは改造され、

学徒兵が搭乗するための機体――”魂夢〈こんむ〉”へと変わる。


そして2126年。

異形との戦争は激化し、

ついに学生たちが戦場へと動員される。


彼らはまだ知らない。

自分たちが乗る魂夢が、

かつて異形を生み出した技術と、同じ起源を持つことを。


そして、

母体が送り込む“負の感情と欲にまみれた何か”と対峙する運命を。


――これは、

人と共に育った魂と、

人を喰らって進化した魂が、

真正面から衝突する物語



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