「杜口」――口を閉ざすこと。
ショッピングモールのコーヒーショップ。友人の美砂が語る「正論」は、華やかなフラペチーノのように甘く、そして容赦なく主人公・えりの心を逆なでしていきます。
「自分は正しい側にいる」
そう信じて疑わない友人の無意識の毒気が、カップの氷が溶けていく描写とともにじわじわと迫り来るのでした。
ルッキズム、学歴、マウント、そして「善意」という名の同調圧力。
自分のプライドよりも友人の罵声の方が怖くて、店員に「すみません」さえ言えなかったえりの葛藤。
謝ることも反論することもできず、ただ「磔」にされたような絶望が、冷たい結露のように肌に伝わってきます。
息苦しくなるほどのリアリティ。
凄まじい筆致に圧倒され、息をひそめるように読んでいました。
これは、同じ作者様の作品「しおりちゃん」を読んだときにも感じた、この作者様ならではの凄みです。
最後の幕切れ、タイトルの「杜口」の意味が、えりの流す涙とともに重く心に響きます。
救いがないようでいて、その涙こそが、彼女がまだ人間であることを証明しているのかもしれません。
読み終えたあと、自分のつま先を見つめて立ち止まってしまう。
忘れられない一作になりました。