レンタル ダンジョンで戦わない人

@tempman

亡国の清掃員と緋色の供花

 このダンジョンの空気は、三つ目の区域を超えたあたりから明確に変化する。

 外層の埃っぽい乾燥した空気ではない。内層特有の、黴(かび)と鉄錆、そして有機物がゆっくりと腐敗していく甘ったるい湿気。

 清掃環境保全士のダリウス・ヴェインは、防毒マスクの吸気缶が正常に機能していることを確認し、黒いゴム引きコートの襟を立てた。眼前の「現場」を見下ろすその目は、職人のそれであった。


「おい、踏むな」

「うおっ!?」


 ダリウスの短く鋭い警告に、先頭を歩いていた剣士のアルヴィンが飛び退く。彼が踏み抜こうとしていたのは、ただの水たまりではない。冒険者たちが「スライムの死骸」と呼んで放置した、溶解液と体液の混合ゲルだ。

「なんですかダリウスさん、急に大声出して。びっくりするじゃないですか」

「そのブーツ、幾らした?」

 問いかけるダリウスの声は、マスク越しでも冷徹に響く。

「え? こないだ新調したばかりで、金貨二枚叩いた特注の……」

「なら下がっていろ。そのゲルは強酸性だ。踏めば修理に金貨一枚、完全に洗い流すのに半日はかかる。お前の大事にしている自称聖剣の鞘に跳ねれば、一晩で錆びて抜けなくなるぞ」

 ダリウスは腰のホルスターから愛用の『多機能トング(モデル・クリーナー)』を引き抜いた。先端にルーン文字が刻まれた特殊合金製のトングだ。硬質な金属音が二度、静寂を切り裂いて鳴り、ダリウスはゲルの中に残っていた魔石を摘み上げる。

「回収完了。中和剤散布」

 トングを持ち替えることなく、左手で腰のポーチから粉末袋を取り出し、ゲルに撒く。

 『――ジュ、ッ、ッ、ッ……!』

 熱したフライパンにわずかな水を垂らしたような激しい反応音が上がり、液体が泡立ちながら無害な灰色の粉末へと変わっていく。

 この間、わずか十秒。

 ダリウスは灰の上を平然と歩き、呆気に取られるアルヴィンの肩を叩いて前に促した。

「よし、通っていいぞ。……だが、次はパンツのゴム紐まで溶かされたくなければ、足元を見て歩け」

「……はい」

 二十歳のリーダーは、三十四歳の清掃員(ダリウス)に、すっかり縮み上がって頷いた。


 彼ら『七本槍』パーティは、セルシア亡国ダンジョンの王宮内を進んでいた。

 かつて栄華を極めた魔法大国セルシア。五十年以上前、一夜にして謎の滅亡を遂げ、国全体が巨大なダンジョンと化した場所だ。今では、魔力を帯びた「セルシア鉱」を産出する資源プラントとして、周辺諸国に管理されている。

 ダリウスの仕事は、その深層調査に向かうパーティの「衛生管理」だ。喪服を思わせる黒いコートは、死者への敬意であると同時に、決して消えない汚れを目立たせないための実用的な仕事着だった。


「もうやだぁ……髪がベタベタするぅ……」

 最後尾から、魔導師エリアの悲痛な呻きが聞こえてくる。伯爵家の令嬢である彼女にとって、この湿度は拷問に近いらしい。

「我慢しろ。湿気があるってことは、換気口が近い証拠だ」

「でもぉ、さっきから変な虫が増えてるし……ダリウスさん、これなんなんですかぁ」

「死肉食(スカベンジャー)の羽虫だ。前のパーティが食べ残しを捨てていったんだろうな」

 斥候のミックが、鼻をつまみながら補足する。

「へへ、先輩方(ライバル)の尻拭いは楽じゃねえな。なぁダリウスの旦那、そろそろ休憩にしません?」

「ああ、丁度いい場所がある」


 そう言ってダリウスが指差した瓦礫の陰。

 そこに、それは咲いていた。


「……ッ」

 ダリウスは息を呑み、即座にトングを構えた。

 暗い瓦礫の隙間に、一輪だけ咲く鮮やかな緋色の花。

 パイロ・リリー。緋色の百合。

 かつて、この国の王妃が何よりも愛した花だ。


「わあ、綺麗! こんなところに花が――」

「触るな!」

 駆け寄ろうとしたエリアの腕を、トングの柄で強引に制する。

「い、痛いじゃないですか!」

「下がれ。全員、防護マスクのランクを上げろ。排気弁を閉めろ」

 ダリウスは背負った『携帯式焼却炉』の火力を最大にセットした。バックパック型の魔導炉が腹の底に響くような低い唸り声を上げ、男の背中から強烈な熱波を発する。

 トングの先から伸びるチューブを、焼却炉に直結。トリガーを引く。

 瞬間、トングの先端が二千度の高熱を帯びて赤熱した。

「ダリウスさん!?」

「ただの花じゃない。これは『呪い』の高濃度結晶だ」

 ダリウスは躊躇なく、その美しい百合を根元から焼き払った。

 『――キ、ィ、ィ……バチッ!』

 水分が一瞬で蒸発する鋭い破裂音と共に、花弁が焼け焦げ、断末魔のような甲高い音が響く。ただの植物なら、こんな音はしない。

 黒い灰になったそれを、ダリウスは慎重に回収ボトルへ封入した。


「……この環境で開花など、ありえん」

 ダリウスは誰に聞かせるでもなく呟いた。マスクの下の表情は険しい。

 このダンジョンは、「主(あるじ)」を失った『永続型(タイプB)のダンジョン』と判定されていた。主がいないからこそ、安定した資源採掘場として機能していたのだ。

 だが、この過酷な環境で王妃の象徴であるこの花が咲いたということは。

「王妃(主)が、まだ『漏れて』いるのか?」

 ダンジョンの奥底で、何かが臨界点を超えようとしている。

 ダリウスの背筋に、冷たい汗が伝った。これは、掃除のしがいがありそうだ。


## 2


 その光景を見た瞬間、アルヴィンがその場に崩れ落ちた要因は、恐怖ではない。

 絶望だ。


「なんだ、これは……」

 目指していた「安全地帯(セーフエリア)」で王宮の空中庭園。

 そこは、地獄のような様相を呈していた。

 魔物の死体ではない。

 ゴミだ。

 壊れた武具、食料の廃棄物、そして何よりも――排泄物。

 先行していたライバルパーティ『マナ』が、ここで大規模な野営を行い、そして撤収の際に「ゴミ処理」を怠った成れの果てだ。

 放置された有機物に群がった羽虫が、黒い霞のように広間を覆っている。空間を埋め尽くすような、神経を逆撫でする羽擦れの轟きが、エリア全体の空気を震わせていた。


「う、うぷ……」

 エリアが口元を押さえて蹲る。無理もない。アンモニアと腐敗臭が入り混じった猛烈な悪臭は、高性能な防毒フィルタすら貫通してくる。

「無理だ……こんな場所で野営なんてできない……」

 アルヴィンが青ざめた顔で首を振る。

「撤退しよう。一番近いセーフエリアまで戻るんだ」

「バカ野郎!」

 珍しく声を荒げたのは、ミックだった。

「戻るのに六時間はかかるぞ! エーちゃん(エリア)の魔力(MP)はもう空っ欠だ!それに、俺も……その、限界なんだよ!」

 ミックが股間を押さえてモジモジしている。生理現象の限界だ。

 エリアに至っては、もう顔面蒼白で涙目になっている。聞いていたはずのセーフエリアがこの有様なのだから、当然だ。


 進むも地獄、戻るも地獄。

 これが、冒険における真の「死地」だ。時にダンジョンの主よりも恐ろしい、兵站(ロジスティクス)の崩壊。


「……どいてろ、素人ども」

 ダリウスは前に出た。

 喪服のようなコートを翻し、慣れた手つきでゴム手袋を新品に交換する。

「ダ、ダリウスさん? 何をする気だ?」

「環境修復(リノベーション)を行う」

 ダリウスは背中の焼却炉の出力を『広域散布モード』に切り替えた。

 取り出したのは、火炎放射器ではない。圧縮空気のノズルだ。

「ミック、風上へ回れ! アルヴィンは入り口で盾を構えてろ!」

 ダリウスの指示に、呆気に取られていた二人が弾かれたように動く。

「エリア、俺の後ろに隠れていろ。絶対にマスクを外すなよ!」

 ダリウスはポーチから『高濃度石灰弾』を取り出し、床に叩きつけた。白煙が舞い上がる。

「散布開始(スプレー・オン)!」

 焼却炉のファンがタービンのような高音を上げ、猛烈な風圧が白煙を広間全体へ行き渡らせる。

 消毒石灰と、虫が嫌う特殊なハーブ(竜の糞の臭いを模倣したものだが、人間にはミントの香りに感じるよう調合してある)の粉末だ。

 凄まじい風切り音。

 黒い霞となっていた羽虫の群れが、暴風と忌避剤に煽られ、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。

「そこだ、ミック! 換気口を開けろ!」

「へいッ!」

 ミックが壁のレバーを引き、錆びついた格子窓を開放する。逃げ場を失った虫たちが、新鮮な風の流れに乗って外へと排出されていく。


 視界が晴れるのに、三分もかからなかった。

 だが、仕事はここからだ。

「アルヴィン、その辺の岩を持ってこい。風除けを作る」

「は、はい!」

「エリア、結界石はあるか? 『塵』と『音』を遮断する結界だ。防御用じゃない。『音』と『匂い』も遮断できるならなお良い」

「あ、ありますけど……」

「今すぐここに展開しろ。四畳半だ。休息スペースを作る」

 ダリウスは手早く防水シートを敷き、その上に簡易式のエアマットと、携帯型の空気清浄魔道具をセットした。

 岩で囲い、防水シートを天蓋として吊るし、最後にエリアの結界を発動させる。


 完成した。

 ダンジョン内完全隔離、無菌・防音機能付き簡易シェルターだ。


「……入れ。中は安全だ。マスクを外して水も飲めるし、2部屋しかできなかったが、奥は個室にしてある」

 ダリウスが顎でしゃくると、エリアは震える手で男の袖を掴んだ。

「あ、ありがとうございます……! ダリウスさん……貴方は神様です……!」

 涙ながらにそう言い残し、彼女はシェルターへと駆け込んだ。ミックも続く。

 数分後。

 中から出てきたエリアたちは、憑き物が落ちたような安らかな顔をしていた。

「……生き返りました。空気が美味しいです……」

「次はアルヴィン、お前だ。少し休んで回復しろ」

「へへ、助かったぜ旦那」

 彼らが交代でシェルターで休息を取る間、ダリウスは黙々と周囲の床に残った汚物をトングで回収し、焼却炉へ放り込んでいた。

 湿った有機物が焼ける嫌な音が、静かになった広間に微かに響く。

 彼はただの清掃員だ。だが、この瞬間、彼は確かにこのパーティの命を救った。ダリウスは清潔になった床を見渡し、満足げに一つ頷いた。その自負だけが、この孤独な仕事の報酬だった。


## 3


 最深部。

 そこは、かつての王城の「寝所」だった場所だ。

 重厚な扉を開けた瞬間、これまでとは桁違いの濃度の「澱み」が溢れ出した。


「う……」

 アルヴィンが呻き、剣を構える手が震える。

 部屋の中央。かつて天蓋付きのベッドがあった場所に、それはいた。

 王妃、だったモノ。

 人の形は辛うじて留めている。だが、その下半身は苗床のように肥大化し、部屋中の床や壁と融合していた。

 血管のような蔦が部屋全体に張り巡らされ、脈動するたびに、緋色の百合が粘り気のある飛沫を滴らせながら咲いては枯れていく。

 美しい、とは到底言えなかった。

 ただ、痛々しかった。

 彼女はもう、生物としての輪郭を失い、ただ魔力を垂れ流し続けるだけの「汚染源」と化していた。


 音がする。

 重く湿った粘着音が、断続的に響く。

『……グ、ヂュ……リ。』

 肥大化した肉塊が脈打ち、そこから零れ落ちる粘液がて、まるで涙のように床を濡らしていた。

 言葉などない。だが、その場の全員が理解していた。

 これは、これ以上存在してはいけないものだと。

 尊厳を踏みにじられた、悲鳴そのものだと。


「ダンジョンの、主なのか……? 本当に解放型(タイプA)のダンジョンだったなんて」

 アルヴィンが一歩踏み出す。だが、どこを斬ればいい?

 彼女の本体はどこだ? この部屋全体か? それとも、あの干からびた上半身か?

 剣で斬れば、膨大な魔力が爆発し、この階層ごと吹き飛びかねない。

 剣士の勘が、手出し無用と告げていた。


「下がっていろ、アルヴィン」

 ダリウスは前に出た。

「ダリウスさん! でも、これは!」

「討伐対象(モンスター)じゃない」

 ダリウスはゴム手袋を締め直し、マスクのフィルタを「対重金属・猛毒」用カードリッジに交換した。

「これは産業廃棄物だ。そして……弔うべき、ただの人間だ」

 冷たい金属音を鳴らし、トングが開閉する。

 ダリウスは剣を持たない。魔法も使えない。

 だが、汚れたものを綺麗にすることにかけては、誰にも負けない。


「問題ない。報酬分の労働の範囲内だ」


## 4


「ミック、右側の瓦礫を撤去。通気口を確保しろ! 煙が篭もると酸欠になるぞ!」

「了解ッス!」

「エリア、お湯だ。最大限の熱湯を出せ」

「えっ? 『浄化(クリーン)』の魔法ではなく?」

「こびりついた執念(よごれ)は、魔法の光なんかじゃ落ちない。熱湯でふやかして、油分を浮かせるんだ」

「は、はい! 任せてください!」

 ダリウスの指示が飛ぶ。

 これは戦闘(レイド)ではない。特殊清掃作業(オペレーション)だ。


 ダリウスはポーチから業務用の『強アルカリ性溶解液(ボトル)』を取り出し、王妃の肉体――部屋の床と癒着した「根」の部分へと歩み寄る。


「失礼します、王妃様」

 ダリウスは敬語で話しかけた。

「酷い汚れだ。ですが、まだ手遅れじゃありません」

 溶解液を散布する。

 『――ヂュブ、……ヂュ、ル、ル、ゥ……ッ!』

 強酸が有機物を灼く、暴力的な溶解音。腐敗した蔦が瞬く間に白く変色していく。

 断末魔のような振動が部屋を揺さすが、清掃員は眉一つ動かさない。

 これは外科手術であり、同時に頑固な換気扇掃除と同じだ。

 正常な世界と、異常な呪い。その癒着部分に薬剤を浸透させ、境界を明確にする。


「よし、浮いてきた……。エリア、もっとお湯だ! 洗い流せ!」

「はいっ! 『熱泉(ホット・スプラッシュ)』!」

 エリアの杖から激流のような熱湯が噴出する。本来は攻撃用の魔法を、温度調整して洗浄に使っているのだ。

 泡立った汚泥が洗い流され、その奥に、黒ずんだ心臓のような結晶が露出する。まだ強固にへばりついている。


「アルヴィン! 出番だ!」

「おお、ついに俺の聖剣が!」

「その自称聖剣で、この『汚れの核(コア)』をこそぎ落とせ。いいか、叩き切るんじゃない。刃を寝かせて、下地(たましい)を傷つけないように、表面のヘドロだけを剥がすんだ」

「えぇ……? そ、そんな地味な……!」

「スクレーパー(削り器具)代わりだ。お前の自称聖剣の切れ味なら、最高にいい仕事ができるはずだ」

「くっ、聖剣を掃除道具にするなんて……! でも、やってやる!」

 アルヴィンが跳ぶ。

 だが、その剣筋は先ほどまでの大雑把なものではない。ダリウスの指示通り、繊細に、しかし大胆に。

 自称聖剣の輝きが、王妃を現世に縛り付けていた最後の未練(パイプ)と床との隙間に滑り込む。

『――パ、キィン。』

 硬質な硝子が砕け散るような、澄んだ音が響いた。


 何か重いものが崩れ落ちる気配。

 上半身だけになった王妃が、ダリウスの腕の中に落ちてくる。

 彼女はもう、魔物ではなかった。

 ただの、皺だらけの、小さくて軽い老婆の遺体だった。


「……あり、がと……う」


 最期に、彼女の唇がそう動いたように見えた。

 ダリウスは彼女をそっと床に横たえ、自身の喪服のコートを脱いで被せた。

「おやすみなさい。……良い夢を」

 焼却炉の火を落とす。

 背中の重みが、急に心地よい疲労感へと変わっていった。

 天井の通気口から、一筋の光が差し込んでいた。埃がキラキラと舞っている。

 それは、五十年以上の歳月を経て、この部屋に訪れた、清浄な空気だった。


## 5


「報告だ。ダンジョン深部の環境異常、修復完了した。詳細はこの報告書を確認してくれ」

 ギルドのカウンターで、ダリウスは淡々と報告書を提出した。

「あの、原因はなんだったんですか?」

「大型魔物による配管詰まりだ。除去し、清掃しておいた」

「……そうですか。いつもありがとうございます」

 受付官の女性は疑う様子もなくハンコを押した。王妃のことは書かなかった。あれは墓荒らしではなく、清掃員の密かな手向けだ。

 それに本来なら、元凶である王妃を浄化した時点で、このダンジョンは『解放』され、消滅するはずだった。

 だが、俺は王妃の核(心臓)を全ては破壊しなかった。ほんの数ミリ、欠片だけを残して、あの寝所に埋めてきた。

 そうしなければ、ダンジョンが崩壊し、周辺諸国が依存している「セルシア鉱」などのエネルギーが枯渇してしまう。形だけの「主」を残し、魔力の供給源としての機能だけを生かす。

 全てを「配管詰まり(タイプBの不具合)」で済ませ、今まで通りの日常を供給し続ける。それが、この日常を回すために必要な仕事だ。


「ダリウスさん!」

 ギルドを出ると、アルヴィンたちが待っていた。

「あの、また……次も頼めますか? その、俺たちには貴方が必要です」

 アルヴィンが真っ直ぐな目で言った。

 エリアも、ミックも、照れくさそうに笑っている。

「……俺の指名料は高いぞ」

「望むところです!」


 彼らと別れ、ダリウスは馴染みの公衆浴場へ向かった。

 熱い湯に肩まで浸かる。

「ふぅ……」

 生き返る瞬間だ。全身の筋肉の強張りが解けていく。

 風呂上がりに、冷えた牛乳を一気飲みする。

 喉を通り過ぎる冷たさとコク。これが「生」の実感だ。


 ダリウスは洗面台の鏡の前で、自分の手を見た。

 洗剤で荒れ、タコができ、火傷の痕が残る、決して綺麗とは言えない手だ。

 だが。

 爪の間には、黒い塵一つ残っていない。

「……よし」

 彼は満足げに呟き、空になった牛乳瓶を所定の回収カゴへ入れた。

 世界を救ったわけじゃない。

 ただ、とある場所の汚れを落として、綺麗にしただけだ。

 だが、それで十分だ。

 明日は筋肉痛だろうなと思いながら、清掃員は軽い足取りで夜の街へと消えていった。

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