勘違いだらけの異世界転生生活 〜スキル【勘違い】だけで何をしろと? 最弱なので助けてください〜

杜鵑

第1話 神様とババ抜きしたら、最強スキルじゃなくて最強の誤解を手に入れた件

4月1日。エイプリルフール。  世間が嘘で浮足立つこの日、俺、霧雨神は高校3年生になった。


 学習机の椅子に座り、ぐーっと天井に向かって大きく背伸びをする。春の日差しがカーテン越しに差し込み、埃がキラキラと舞っているのが見えた。


「ん~、今日から3年生になるのか。早いな~」


 高校生活もあと一年。進路とか受験とか面倒な言葉が脳裏をよぎるが、今はとりあえず春休みの惰眠を貪りたい。  俺はさらに背もたれに体重を預け、力を込めた。


「んっ!」


 ボキッ!


 乾いた破砕音が、静かな部屋に響き渡る。  背中を支えていた頼もしい相棒背もたれが、唐突に職務放棄したのだ。


「――え?」


 世界がスローモーションで回転する。天井が遠ざかり、重力が俺の後頭部を床へと誘う。  視界が暗転する直前、俺は思った。


(嘘だろ……?)


   ◇


「……いてて。もう、相変わらずついて無いな……」


 鈍い痛みを伴って意識が覚醒する。  後頭部をさすりながら体を起こすと、そこは俺の部屋ではなかった。


「あれ?? どこだここは? 部屋にいたはず、だけど……」


 見渡す限り、白。  壁も天井も、地平線すらない。足元にはドライアイスの煙のようなモヤが漂っている。まるで冷蔵庫の中か、手抜きの背景素材の中に放り込まれたような空間だ。


 その時、静寂を切り裂く奇妙な音が聞こえてきた。  キコ、キコ、キコ、キコ……  錆びついた金属が擦れるような音。


「なんだあれ? 三輪車……? 誰か乗ってるな」


 白い空間の彼方から現れたのは、場違いにもほどがある派手なアロハシャツを着た爺さんだった。  子供用の小さな三輪車を必死に漕いで、俺の目の前まで来るとキキーッとブレーキをかける。


「やっほー、元気? わし元気!」


 爺さんはVサインを作って陽気に挨拶してきた。サングラスの奥の瞳がつぶらだ。


「誰ですか? ここは?」


「わしね~、神様なんだ」


「はあ」


「あのね、単刀直入に言うとね。君、死んじゃったんだよね」


 神と名乗る爺さんは、今日の天気を伝えるような軽さで言い放った。


「エエー? そんな、何で?」


「君、背もたれが折れて転んだでしょ?」


「はい。え、打ち所が悪くて頭打って死んだんですか?」


「いや、転落死」


「はい?」


 俺は思わず聞き返した。


「部屋の中で椅子に座っていたんですよ? 何で転落死なんですか?」


「君、椅子に座って考えごとしてたでしょ?」


「はい」


「その時、ちょうどデカい地震があっての」


「……あったのか??」


「君がこのまま倒れたら頭打つし、地震で家具とか倒れてきたら危険じゃん? でな、わしが助けたんじゃよ」


 爺さんは「えっへん」と胸を張る。


「……あの、現状死んでますけど?」


「うん。助けるために君を瞬間移動させて、安全な超高層ビルの屋上に移動させたら……」


 爺さんは目線をそらし、ポリポリと頬をかいた。


「おっこっちゃった。エヘ☆」


「お前のせいじゃねえかー!!」


 俺は立ち上がり、アロハシャツの襟首を掴んで揺さぶった。


「ちょちょ待って待って! 説明させて!」


「ふざけんな! 助けるとか言ってトドメ刺してんじゃねえか! 完全に過失致死だろ!」


 俺が詰め寄ると、爺さんは視線を泳がせ、ボソボソと小声で独り言を漏らした。


「……これは、言えんのぉ。久々の金ロー見ていて、丁度『バ〇ス』のシーンでトレンドに乗りたくてな。ハッシュタグつけて送信ボタン押したつもりが……手元が狂って『瞬間移動』ボタン押しちゃったとは……」


「おいジジイ、全部聞こえてんぞ!!」


 俺は絶叫した。


「ひっ」


 爺さんが肩をすくめる。


「お前、『ながらスマホ』で俺の人生バ〇スほうかいしたのかよ!! ふざけんな!!」


 なんだその理由は。バ〇ス祭りに参加しようとして、俺の命を崩壊バ〇スさせたのかこの神は。


「はぁ……はぁ……」


 俺は怒りすぎて逆に冷静になり、力を抜いてその場にへたり込んだ。  あまりに状況が適当すぎる。白い空間、ふざけた神、理不尽な死因。


「ほんとに、ここって死後の世界なのか? こいつといると、全く信じられんが」


 俺が本音を漏らすと、爺さんは心外だと言わんばかりに三輪車のベルをチリンと鳴らした。


「疑り深いのぉ。そんなに信じられないなら、ここが死後の世界だという証拠を見せてやろう」


 爺さんは俺の手を振りほどくと、もったいぶった様子で言った。


「証拠?」


「目を閉じて、心を静かにして感じてみるのじゃ。ほれ、お主の懐かしい祖母ばあちゃんと話せるぞい」


「ばあちゃんと……?」


 言われてみれば、そんな話を聞いたことがある。死んだら懐かしい人に会えるとか。  俺は半信半疑で、ゆっくりと目を閉じた。意識を集中させる。


 ……すると、どこからともなく、優しく手招きするような声が聞こえてきた。 『……こっちおいで~……こっちおいで~……』


 深い霧の向こうから、懐かしい気配がする。瞼の裏に、広大な川――三途の川の情景が浮かび上がった。  その対岸に、優しげな人影が立って手を振っている。


「ばあちゃん! ばあちゃんなのか!?」


 俺は思わず目頭が熱くなった。ああ、不運な俺を迎えに来てくれたんだな。待っててくれ、今そっちに――


「……ってか、うちのばあちゃんピンピンして生きてるし!! 誰だよお前!!」


 俺はカッとなって目を見開いた。  そうだ、ばあちゃんは先週もゲートボール大会で優勝して、元気に餅を3個も食っていたはずだ。


「誰だ今の! 危うく知らんババアにあの世へ連れて行かれるとこだったぞ!」


「おっと、すまんすまん。回線が混線して、別の誰かの迎えが聞こえてしもうたみたいじゃな」


「Wi-Fiみてーに言うな!」


「危ない危ない。そのまま行ってたら、本当に戻れなくなるとこじゃった」


「全部お前のせいだよ!!」


 俺は肩で息をした。この神、絶対に敬ってはいけないタイプだ。


「まあ、そんなに怒らんでよ~。わしだって少し反省してんだから」


「少しとか言うな!」


「コホン。まあ、過ぎたことは置いといて」


「(こいつ、全然反省してねえ……)」


 爺さんは懐からトランプの束を取り出した。


「特別に、ファンタジー世界に生き返らせようと思っているんじゃが。能力どうする?」


「どうするって……そりゃあ、生き返るなら強い方がいいに決まってるだろ。チート能力とか」


「ん~、まあそうなんじゃけどのぅ」


 爺さんはサングラスを少しずらし、マーケティング担当者のような顔をした。


「最近多いんじゃよ、異世界転生。こないだ送ったやつも『チート』だの『ハーレム』だのって注文が多くて。正直、管理するこっちも飽きてきてな」


「知らねえよ、業務改善しろよ」


「そこでじゃ。逆に『最弱』とかのが良いんじゃない? 最近のトレンド的に『縛りプレイ』みたいなのがウケると思うんじゃが」


「それじゃただの自殺志願者じゃねえかよ!!」


 俺は食い気味にツッコんだ。


「死んだ直後に、また死にに行くようなもんじゃねえか! 俺は平和に、かつ安全に暮らしたいの!」


「ちぇっ、ノリが悪いのお」


「命かかってんだからノリで決められてたまるか」


「仕方ない。じゃあ、公平にこれで決めよう」


 爺さんはトランプをシャッフルし、扇状に広げて俺に突き出した。


「ここから残ったカードに、お主の能力が書いてあるんじゃ」


「沢山カードあるんだな……」


 そこから、白い空間で不毛な時間が過ぎた。  なぜか神様と一対一でトランプゲーム。


「なー」


「ん? なんじゃ? あ、こっちのね」


 爺さんが俺の手札から一枚引く。


「これってさ……」


「はよ引け、お前の番じゃ」


「……ってかこれ、ババ抜きじゃねえかよ! 残るのジョーカーだけじゃん!」


 俺はトランプを床? にたたきつけた。  バサラッとカードが散らばる。


「いいから引くのじゃ」


 爺さんは動じない。  俺はしぶしぶ、散らばったカードを拾い集めた。

 そして、爺さんの手札から最後の一枚を引き抜いた。  手元のカードと数字が揃う。


「あ、揃った。あがりだ」


 俺の手札がなくなった。


「あ~あ、負けた~」


 爺さんの手元には、ジョーカーが一枚だけ残されていた。


「勝ったから、モチロンなにか能力貰えるんだろ?」


 俺が期待を込めて尋ねると、爺さんはジョーカーを見つめて言った。


「あのな、このジョーカーにチート能力が入っているんだけど……」


「え?」


「お主の手札、ゼロじゃろ?」


「え……じゃあ……俺の手元には何もないから……」


「うん、能力なし」


「うん、じゃねえよ!! どうすんだよ!?」


 俺は詰め寄るが、爺さんは三輪車にまたがりながら肩をすくめた。


「まあこれも運だしの~」


「運じゃねえよ! お前のルール設定のせいだよ!」


「じゃ、達者でな~」


 爺さんが指をパチンと鳴らす。俺の体が光に包まれた。


「なに? なにこれ、体が透けて……ん?」


 消えゆく視界の端で、爺さんが虚空に出したテレビで深夜アニメを見始めていた。


「てめえ、なに寛いでんだ!!」


 俺の叫び声は白い空間に吸い込まれ、意識は完全に暗転した。


   ◇


 こうして、俺の異世界転生は果たされた。  目覚めた俺は、すぐに空中に浮かぶ自分のステータス画面を確認した。


【名前】ジン・キリサメ

【職業】無職

【体力】1

【魔力】1

【攻撃】1

【防御】1

【運】 -530000


 最弱。これ以上ないほどのゴミステータスだ。  スライムにすら勝てる気がしない。あのクソ神、本当に何もよこさなかったのか。  だが、スキル欄に一つだけ輝く文字があった。


【スキル】 ・勘違い:Lv.999(MAX)


「……なんだこれ?」


 これが、俺の波乱万丈な「勘違いだらけの異世界転生生活」の幕開けだった。  俺は何もしていない。ただ、くしゃみをしただけで魔王軍が撤退し、転んだだけで古代魔法の発動と間違われる。  最低最悪のステータスだけど、やることなすこと全てが良い方に「勘違い」されてしまう伝説が、今始まる――。

​――――――――――――――――――――

本日も読んでいただきありがとうございます!

明日のお昼19時20分に、続きを更新します。

​もし「続きが気になる!」「面白かった!」と思っていただけたら、

【作品のフォロー】と、下にある【★★★★★】で応援していただけると執筆の励みになります!

よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る