マイバディサウンド~青い春のもと音楽をする俺たちの話~
@akitora1155
前編
「退屈……」
高校三年生になった春、少年は芝生の上で寝転がり呟いた。
傍らにはギターケースが転がっており、おもむろに中からアコースティックギターを取り出し弾き慣れたフレーズを手癖で弾いた。
「ギター上手いね、なんて曲?」
気付くと同い年か少し年下に見える少年が横に立っていた。
「別に、曲名なんてない。俺がいつも適当に弾いてるフレーズ」
「じゃあさ、あれ弾ける?空の向こうって曲」
ぶっきらぼうに答えると流行りの曲を弾くように催促された少年は顔をしかめる。
「弾けるけど……ていうかお前誰?」
何者か聞かれるとパッと顔を明るくして答える。
「俺は
「……
蓮がしぶしぶ名前を答えると裕也は驚いて聞く。
「もしかして……先輩?」
蓮が頷くと裕也は慌てて謝る。
「うわぁ!ごめんなさい!同い年かと」
「いいよ今更。それで?空の向こうだっけ?弾いてやるよ」
蓮がギターで流行りのキャッチ―な旋律を奏でると、裕也はそれに合わせて歌いだす。
「上手いな」
蓮が思わずこぼした言葉に裕也はパッと顔を輝かせる。
「ほんと?歌うの好きなんだよね」
「だろうな、その気持ちが伝わってくる」
嬉しそうな顔をする裕也に蓮は微笑んだ。
「あっもうこんな時間だ、そろそろ帰らなきゃ」
時計を見た裕也は慌てて駆け出す。
「じゃあね!蓮!」
走りながら顔をこちらに向けて別れの挨拶をする。
「あんな楽しそうに歌うやつ、初めて見たな……」
小さくなっていく背中を見ながら蓮は呟いた。
蓮が出会った少年のことが気になりながらも数週間が過ぎた。蓮はこの日、音楽室に呼びだされていた。
「これなんだけどね」
音楽教師の倉島が蓮に一枚のポスターを渡す。
「なんすか?これ」
渡されたポスターを怪訝そうに眺めながら蓮が聞き返す。
「『全国高校生楽曲選手権』、せっかく音楽してるんだから参加してみたらどうかと思ってね」
ポスターの題名を読み上げるた後、倉島が続ける。
「もちろん強制じゃないけど僕としては君の才能をどこにも出さないのはもったいない気がするんだ」
少し首を傾げながら悩むようなそぶりを見せる蓮に倉島はポスターを強引に渡す。
「まあ、考えといてよ。応募締め切りまではまだ期間があるしね」
蓮はポスターを眺めながら校舎の廊下を歩いていく。その後ろからポスターをのぞき込む頭がのしかかってきた。
「蓮じゃん!何してんの?なにこれ?」
「裕也⁉急にのしかかってくんな!」
突然のしかかってきた裕也を押しのけると手に持ったポスターを奪われる。
「『全国高校生楽曲選手権』?すっげぇ!面白そう!」
裕也は目を輝かせながらポスターを眺める。
「決めた!俺これに出る!」
更にポスターの内容を読み込む。
「自作した楽曲音源とその楽曲でのライブパフォーマンスかぁ」
応募要項を読み上げながら顔をしかめる裕也に蓮が問いかける。
「お前、曲書けんの?」
「ううん、やったことない!でも俺やってみたい!」
蓮の問いかけに裕也ははつらつとした表情で答える。
「そうかよ、じゃあその紙やるよ。どうせ俺は出る気無いから」
「ありがとう!じゃあ俺早速取り掛かる!」
そういうと裕也はうきうきした表情で去っていった。
それから数日たったある日の夕方、蓮は校舎を歩いていると空き教室の中に人影を見つけた。
「ん?あれ裕也か?」
空き教室に入ると裕也は机に突っ伏してすうすうと寝息を立てている。
「マジで曲書いてやがんのか」
机に散乱したノートや紙を手に取り眺めていると裕也がもぞもぞと動く」
「むにゃ……あれ?蓮?」
机から起き上がると裕也は目をこすりながら大きなあくびをする。
「なんだこの曲、コードもドラムもめちゃくちゃじゃねぇか」
ノートを眺めながら蓮は苦言を呈する。
「あはは……やっぱり難しくって」
「でもメロディーと歌詞はなかなかいい。お前の気持ちがよく表れてる」
それを聞いた裕也は顔を輝かせる。
その顔を見た蓮は頭をボリボリと掻きながらうーんと唸る
「はぁ……わかった、俺が書いてやる」
「え?」
きょとんとした顔で裕也は蓮を見つめる。
「だから、俺がお前のその曲を完成させてやるって言ってんだよ」
それを聞いた裕也は再び顔を輝かせて蓮に迫った。
「マジで!?手伝ってくれんの!?」
「言っとくが俺はお前の歌と歌詞がいいと思ったから手伝うんだからな。中途半端な気持ちだって思ったらすぐ辞めるからな」
「うん!俺、本気でやるし!」
裕也は立ち上がると蓮に向かって手を差し出した。
「じゃあ、俺たち今日から相棒だ」
「ああ、よろしくな」
蓮は差し出された手を取り、窓から差し込む夕日に照らされながら固く握手した。
「それで、どうやって曲を完成させるの?」
「まず歌詞とそのメロディーを全部書いてこい。それを俺が編曲して完成させる」
「わかった!じゃあ明日また見せるね!」
そういうと裕也は走り去っていった。
それから二人は放課後毎日集まり、作曲に没頭していた。
そんな日々が続いたある日、裕也がいつものように空き教室に入ると既に教室にいた蓮が顔を上げる。
「おう、来たな」
そう言うと手に持っていたUSBメモリを見せつける。
「出来たぜ、俺たちの曲」
それを聞いた裕也は得意げな蓮に駆け寄る。
「マジ?聴きたい聴きたい!」
裕也に催促されるまま蓮がUSBメモリをノートパソコンに差し込むと完成した楽曲を再生する。
「すっげぇ、俺この曲歌いたい!」
キラキラさせた目を蓮に向ける。
「ねえ、ライブしよ!」
「はあ?何言ってんだよ」
思わぬ発言に蓮が声を上げる。
「大体、ライブなら楽曲選手権でするだろ?」
蓮の反論に納得できない裕也が指をくるくる回しながら言う。
「そうだけどさぁ……それまで待てないよ。そのライブまで結構あるし」
そう言った後、勢いよく立ち上がった裕也が続ける。
「今すぐやりたい!それにライブしたらもっといい曲が書けるかもしれないじゃん!」
そう言われても決めかねている蓮の背後に回り、肩をグラグラと揺らす。
「ねーえー、やーろーうーよー、ラーイーブー」
「ぐあー!やめろ!わかった!わかったって!ライブするから揺らすな!」
裕也が揺らすのをやめると蓮ははぁはぁと息を整える。
「それに……いい曲が書けたのに出し惜しむのもなんかやだしな……」
裕也から目をそらしながら蓮がそう言うのを裕也はにこにこと見つめる。
「けど!ライブする場所は言い出したお前が探せよ!」
次の日から裕也は、ライブができる場所を探し回った。しかし、ライブなんてしたことない裕也には難しかった。
途方に暮れた裕也は音楽教師である倉島を頼ることにし、音楽準備室を訪ねた。
「倉島先生いるー?」
「あれ?宮原くんじゃないか。珍しいね、どうしたんだい?」
裕也はこれまでの経緯を倉島に話した。
「なるほど、ライブ会場かぁ。校内だと文化祭はまだ先だし……だったら外になるか……」
倉島はしばらく考え込んだ後、続ける。
「よし、先生のツテを当たってみよう。確約は出来ないけど」
「マジ⁉やったぁ!」
嬉しそうな裕也を眺めながら倉島がこぼす。
「でもあの鈴音君が協力するとはね、出るように言った僕が言うのもあれだけど、出ないものかと思っていたよ」
「先生。蓮の曲はマジですっごいんですよ!俺が考えた歌とは思えないくらい!」
裕也は自慢げに言うと音楽準備室を出ていく。
「じゃあ先生!ライブの場所、お願いね!」
振り返って念を押す裕也を倉島は微笑みながら手を振り見送る。
「鈴音君、いい仲間を見つけたみたいだね」
裕也の背中を眺めながら倉島はそう呟いた。
数日後、裕也と蓮は倉島に呼び出された。二人が音楽室に入ると倉島が待っていた。
「おっ来たね。早速だけどライブ会場、押さえれたよ」
二人を見ると倉島が切り出した。
「知り合いがライブハウスをやってるんだけど、そこのライブに出てもいいってさ。これそのライブの情報ね」
そういうと倉島は一枚のポスターを渡す。
「先生も見に行くつもりだけど、楽しみにしてるよ」
ポスターをもらった二人は、いつもの空き教室に向かい、ライブについて話し合う。
「いや、俺は出なくてもいいだろ。作曲者としての参加でいいって」
「絶対蓮もライブに出た方がいいって!あんなにギター上手いんだから」
裕也が蓮の顔を見つめる。
「……お前がそこまで言うなら、出てやらんでもない」
蓮がぶつぶつというと、裕也が目を輝かせる。
「蓮が一緒に出てくれるなら心強いよ!」
「その代わり!やるならマジで練習するからな!」
それから二人はまた空き教室に集まり、ライブに向けて練習していた。そして倉島の紹介したライブの日がやってきた。
「よし、やるぞ」
ライブハウスの前に立った蓮が隣に立つ裕也に拳を差し出す。それに応えるように裕也も拳を差し出し、蓮の拳にぶつける。
「うん!任せろ!」
ライブハウスに入ると二人はオーナーに挨拶をし、リハーサルや準備を済ませる。そして本番が始まり、最初のバンドがステージに立つ。
「すげぇ……これが生のライブ……!」
初めての光景に裕也は息をのむ。
「圧倒されてるとこ悪いが、俺たちはここにいる奴ら全員に勝たなくちゃいけない。お前にはそれができる力がある」
演奏中のバンドを真っすぐ見つめながら蓮が言う。
「そっか、じゃあ気合入れないとね」
蓮の言葉に応えて裕也はにっと笑う。
数組のバンドが演奏を終え、いよいよ裕也達の出番がやってきた。
舞台袖に立った裕也は深呼吸をし、蓮に向かって真剣ながらも楽しそうな目を向ける。
「いくよ、蓮」
二人はステージに立つと、蓮の作った音源が流れ始め、それに合わせて蓮がエレキギターをかき鳴らす。
蓮の演奏に観客が引き込まれていると、裕也が歌いだす。その歌声と演奏に観客たちは歓声を上げる。
裕也は歌いながら、蓮の方に目線を飛ばし、楽しそうに笑いかける。それに応えるように蓮は笑いながら演奏のボルテージを上げていく。
演奏が終わると観客たちは大きな歓声を上げる。裕也はそれにマイクを大きく掲げて応える。
息が上がりながらも、蓮の方に向かって裕也は言う。
「蓮……!音楽って楽しい!」
それに蓮はフッと笑いかける。
「ああ……そうだな」
観客フロアでは倉島とその隣にライブハウスのオーナーが立っていた。
「あれが紹介してきたお前んとこの生徒か?倉島」
オーナーは親しげに倉島に話しかける。
「ああ、彼らは大きくなるよ」
「まるで昔のお前を見てるみたいだな」
そう言われると倉島はフッと笑う。
「違うよ、『僕ら』に似てるんだよ。冬島」
「ははっ、あの時の俺らか、懐かしいな」
そう言いながら、二人はステージに立つ若者たちを微笑みながら見守るのだった。
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