生活

深見雨

生活


僕は何かを間違えてしまったらしい。


「ソレ」は 飯を食っている時。

ソファで動画を見ている時。

満員電車に乗っている時。

仕事をしている時。


彼女と過ごしていてふと夜目が覚めた時。

結婚式の最中に。

生まれたばかりの子供の保育器を眺めている時。

子供が初めて歩いて少し経った時。

妻とコーヒーを飲んでいた時。


頻度はまばら。

1年から3年に一度の時もあれば

3ヶ月に複数回の時もある。


僕が不倫相手とホテルにいた時だった。

彼女がシャワーから上がって、ベッドにぽすんと横たわる。こちらを甘えた目でみて

「〇〇くんもシャワーあび×××××××××××××××××××××××××××××××

『…幸せでいいねえ』 声が被る。

彼女の顔の上半分は沢山の白い手で覆われ口元だけはいびつに笑っている。


最初は肩を掴まれたり、

ありえないところに「手」、白い手があるだけだった。それが。

時にスマホの画面を覆い

時に妻の顔を覆い

時に子供の顔を覆い

いまやここまで侵食してくる。

逃げても逃げても逃げても


『…幸せでいいねえ』

手と同時に必ず言われる。

僕は知ってる。


「お前の幸せなんて認めない」って意味だということを。


なぜならこの声を知っている。

妻と天秤にかけて振った女の声だということを。


そして知っている。その女はマンションの高層から飛び降りたということを。


なぜなら知っている。

あの爪の形は

「何にもしてなくても綺麗だね。桜貝みたい。」と言ったあの爪と同じ形をしていることを。彼女はそれをとても喜んでいたことを。




僕は知っている。

自分が最低な人間であることを。


自分の顔に白い手が巻き付く、爪が皮膚に食い込んでいく。



「幸せ、そうだね。」

いままでで、1番低く冷たい声だった。

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生活 深見雨 @amenooto0321

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