『俺達のグレートなキャンプ233 1000%全力で白菜農家の人に感謝しよう』
海山純平
第233話 1000%全力で白菜農家の人に感謝しよう
俺達のグレートなキャンプ233 1000%全力で白菜農家の人に感謝しよう
「うっま!!うっっっま!!このハンバーグ、マジで神の領域だろ!!」
石川が白菜入りハンバーグを頬張りながら、焚き火の前で全身を震わせている。その様子はまるで啓示を受けた預言者のようで、口の周りにはソースがべったりと付いていた。
「石川くん、そんな大げさに...普通のハンバーグじゃん」富山がコールマンのチェアに座りながら、自分のハンバーグをフォークで切り分ける。夕暮れ時のキャンプ場には、あちこちから焚き火の煙と夕食の匂いが漂っていた。
「普通?普通だと!?」石川が富山に向かって人差し指をビシッと突きつける。「富山、お前は何もわかっちゃいない!!このハンバーグの真髄を!!」
「何言ってんの...」
「いや、確かに美味しいですよね!」千葉がニコニコしながらハンバーグを頬張る。「肉汁がジュワーって!」
「違う!!違うんだ千葉!!」石川が立ち上がる。夕日を背にしたその姿はやけにドラマチックで、まるで重大発表をする政治家のようだった。「この美味さは...肉のお陰じゃねえんだ!!」
「は?」富山と千葉が同時に顔を上げる。
「白菜だ!!白菜のお陰なんだよおおおお!!」
石川がハンバーグを焚き火の光にかざす。その動作は宝石商が極上のダイヤモンドを鑑定するかのような慎重さと情熱に満ちていた。
「見ろよこの断面!!肉の間に挟まった白菜の繊維!!この白菜がな、肉汁を吸って、それでいて自分の甘みと水分を肉に還元してるんだよ!!つまりだ、肉と白菜が互いを高め合う究極のマリアージュを実現してるわけ!!」
「まあ...白菜入れると食感も良くなるし、ヘルシーだけど...」富山が困惑気味に相槌を打つ。
「ヘルシー!?」石川の目がギラリと光る。「そんな次元の話じゃねえ!!この白菜の甘み!!シャキシャキ感!!そして何より、肉の旨味を引き立てるこの献身的なサポート力!!やばい、やばいぞこれは!!」
石川が突然、ハンバーグを皿に置いて頭を抱える。
「どうしたの石川くん?」千葉が心配そうに覗き込む。
「...感謝せずにはいられない!!」
「えっ?」
「白菜に!!白菜農家の人に!!俺、今まで何回白菜食ってきた!?何回白菜に助けられてきた!?鍋、炒め物、漬物、サラダ!!キャンプでも家でも白菜は常に俺たちの食卓を支えてくれてたのに!!一度だってちゃんと感謝したことねえ!!」
石川が勢いよく立ち上がる。その動作でチェアがガタンと倒れるが、彼は気にも留めない。
「これは...これはもう感謝するしかねえ!!今すぐ!!全力で!!白菜農家の人に!!」
「ちょ、ちょっと待って石川くん!今すぐって、今夜7時だよ!?」富山が慌てて立ち上がる。
「時間なんか関係ねえ!!感謝の気持ちに夜も昼もあるか!!」
「いや、あるでしょ普通に!!」
しかし石川は既に行動を開始していた。スマホを取り出し、猛烈な勢いでタップしている。
「この白菜、確か道の駅『富士見テラス』で買ったよな!?」
「え、うん...そうだけど...」富山が不安そうに答える。
「よし!!電話するぞ!!」
「今から!?」
石川が既に電話をかけている。コール音が静かなキャンプ場に響く。1回、2回、3回...
「はい、道の駅富士見テラスでございます」
「あ、すみません!!今日の昼頃、そちらで白菜買った者なんですけど!!」石川の声が異様にハイテンションだ。
「はあ...白菜ですか...」電話口の女性の声が困惑している。
「その白菜がですね!!めちゃくちゃ美味くて!!どこの農家さんが作ったか教えていただけませんか!?感謝を伝えたいんです!!」
「え、えっと...」明らかに戸惑っている。「少々お待ちください...」
保留音が流れる。その間、石川は焚き火の周りをグルグルと歩き回っている。まるで出産を待つ父親のような落ち着きのなさだ。
「石川くん、普通そんなこと聞く!?」富山が頭を抱える。
「聞くだろ!!美味いものを作った人を知りたいのは当然じゃねえか!!」
「お待たせしました」電話口の女性が戻ってくる。「白菜は...白田農園さんから仕入れております」
「白田農園!!」石川が拳を握る。「電話番号教えていただけますか!?」
「え、えっと...それは個人情報なので...」
「お願いします!!本当に感謝を伝えたいだけなんです!!変な勧誘とかじゃないです!!僕、キャンプ場からわざわざ電話してるんです!!」
石川の必死さが伝わったのか、女性が小さくため息をつく音が聞こえた。
「...わかりました。でも、常識的な時間に電話してくださいね」
「もちろんです!!ありがとうございます!!」
電話番号をメモした石川は、一度深呼吸する。しかしその深呼吸は1秒で終わり、すぐに次の電話をかけ始めた。
「ちょ、今からかけるの!?」富山が慌てて止めようとするが、既に遅い。
プルルル...プルルル...
「はい、白田です」低く落ち着いた男性の声だ。
「あ、あの、突然すみません!!今日、道の駅富士見テラスで白菜を買わせていただいた者なんですが!!」
「...はあ」明らかに訝しげな声だ。
「それでですね!!その白菜でハンバーグ作ったんですよ!!白菜入りハンバーグ!!そしたらもう、これが!!」
石川が興奮のあまり早口になる。
「めちゃくちゃ美味くて!!いや、美味いなんてもんじゃない!!白菜の甘みが肉汁と絡み合って、シャキシャキ食感が肉のジューシーさを引き立てて、それでいて白菜自体の旨味もしっかり主張してて!!もう完璧なハーモニーなんです!!」
「...はあ」相手の困惑が電話越しにも伝わってくる。
「それでですね!!この感動を作ってくれた白田さんに、どうしても感謝を伝えたくて!!白菜を育ててくださって本当にありがとうございます!!」
数秒の沈黙。
「...ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいですね」男性の声が少し柔らかくなった。
「いやもう、感謝してもしきれないくらいで!!この白菜の甘みはどうやって出してるんですか!?品種ですか!?それとも土作りですか!?」
「ああ...うちは有機肥料を使っていてですね...」
電話が15分続いた。石川は白菜栽培について根掘り葉掘り聞き、白田さんも最初の困惑から次第に自分の仕事について語り出す。農家の人間は自分の作物について熱く語る相手が現れると、ついつい話し込んでしまうものだ。
「本当にありがとうございました!!また白菜買わせていただきます!!」
石川が電話を切る。しかしその表情は満足げではなく、むしろ更に燃え上がっている。
「...まだ足りねえ!!」
「え?」千葉が首を傾げる。
「電話で感謝を伝えただけじゃ全然足りねえ!!この熱い感謝の気持ちが冷めねえ!!」
石川が突然、テントに駆け込む。ガサゴソと何かを探している音。
「ちょ、石川くん、まさか...」富山の嫌な予感が的中する。
石川がテントから出てきた時、手には便箋とペンがあった。
「今から感謝の手紙を書く!!そして明日の朝一で白田農園に行く!!」
「行くって...直接!?」
「当たり前だろ!!感謝は直接伝えてこそだ!!」
「でも迷惑じゃ...」
「迷惑なわけねえだろ!!だって感謝だぞ!?感謝されて嫌な人間がいるか!?」
石川はそう言うと、焚き火の明かりを頼りに猛烈な勢いで便箋に文字を書き始めた。その集中力たるや、受験生が一夜漬けで勉強する時のそれを遥かに凌駕している。
「石川くん、字が汚いよ...」千葉が覗き込む。
「今は気持ちが大事なんだ!!」
30分後、石川は便箋3枚にびっしりと文字を書き終えた。内容は白菜の美味しさ、白菜入りハンバーグの感動、そして白田さんへの感謝の気持ちが、ところどころ文法が怪しくなりながらも情熱的に綴られていた。
「よし!!これで完璧だ!!」
石川が便箋を封筒に入れる。封筒には「白田さんへ 感謝を込めて」と虹色のペンで書かれていた。
「明日の朝、出発だ!!」
「え、明日!?」富山が驚く。
「ああ!!朝7時に白田農園に向かうぞ!!」
「7時って早くない!?というか農家の人、朝早いから迷惑じゃ...」
「農家は朝が早い!だからこそ朝行くんだ!!」
石川のロジックはどこか破綻しているが、本人は完全に納得している。
「僕も行きます!!」千葉が元気よく手を挙げる。
「おお、千葉!!やっぱりお前はわかってるぜ!!」
「私も...行くしかないよね...」富山が深いため息をついた。
翌朝、午前6時30分。
「起きろおおおお!!白菜農家への感謝の旅が始まるぞおおおお!!」
石川の大声でキャンプ場全体が目を覚ましそうな勢いだった。隣のテントから「うるせえ...」という呻き声が聞こえる。
「石川くん、声でかい...」富山が寝袋から這い出てくる。目の下にはクマができていた。
「テンション上げていくぞ!!今日は歴史的な日になる!!」
「なんの歴史だよ...」
車での30分間、石川は助手席で「白菜農家への感謝の歌」なるものを即興で作曲し歌い続けた。メロディーはどこかで聞いたことがあるような、ないような。歌詞は「白菜ありがとう」が8割を占めていた。
「着いたぞおおおお!!」
車が停まったのは、見渡す限り畑が広がる場所だった。朝靄がかかる中、遠くに農作業をする人影が見える。
「あれが白田さんか!?」
石川が車から飛び出す。勢いがありすぎてドアを閉め忘れ、富山が慌てて閉めに行く。
「あの、すみませーん!!」
石川が畑に向かって走る。その様子は突撃する騎兵のようで、畑の人物が驚いて振り返った。
「え、な、何!?」
60代くらいの男性だ。作業着を着て、長靴を履いている。手には鎌を持っており、明らかに困惑している。
「白田さんですか!?昨日電話した者です!!」
石川が息を切らしながら駆け寄る。
「ああ...あの電話の...」白田さんが思い出したように頷く。「でも、まさか本当に来るとは...」
「来ましたよ!!感謝を伝えに!!」
石川が深々とお辞儀をする。その角度はほぼ90度で、腰を痛めそうなレベルだ。
「い、いや、そこまでしなくても...」白田さんが慌てる。
遅れて富山と千葉が到着する。
「すみません、こいつがいつもこんな感じで...」富山が申し訳なさそうに謝る。
「いえいえ...でも、朝早くからわざわざ...」
「これ!!感謝の手紙です!!」
石川が封筒を差し出す。白田さんが恐る恐る受け取り、開封する。
便箋を読み始めた白田さんの表情が、困惑から驚きへ、そして微笑みへと変化していく。
「...これは、なかなか熱い手紙ですね」
「本気ですから!!」石川が胸を張る。「それでですね、手紙だけじゃまだ感謝が足りないので!!」
「まだ足りない...?」
「農作業、手伝わせてください!!」
「え!?」白田さん、富山、千葉の三人が同時に声を上げた。
「いや、でも農作業なんて素人には...」白田さんが困惑する。
「教えてください!!体を動かして、汗を流して、初めて本当の感謝が伝わると思うんです!!」
石川の目は本気だった。その熱意に押され、白田さんが折れる。
「...わかりました。それじゃあ、簡単な作業を...」
「簡単じゃなくていいです!!一番キツい作業を!!」
「キツいって...」白田さんが苦笑する。「じゃあ、白菜の収穫を手伝ってもらいましょうか」
「やったああああ!!」石川が拳を天に突き上げる。
白菜畑の前で、白田さんが説明を始める。
「白菜の収穫は、まず外葉を取って、それから根元を鎌で切ります。力を入れすぎると白菜が傷むので、適度な力加減で...」
「了解です!!」
石川が鎌を受け取る。しかしその手つきは明らかに素人のそれだった。
「じゃあ、この列をお願いします」
白田さんが指差した畝には、立派な白菜が30株ほど並んでいた。
「任せてください!!」
石川が最初の白菜に向かう。外葉を取り、鎌を構える。
「えいっ!!」
ザクッ!!
「痛っ!!」
石川が鎌を振り下ろした瞬間、切り口が斜めになりすぎて、自分の足に土が跳ねた。
「石川くん、大丈夫!?」千葉が心配そうに駆け寄る。
「大丈夫だ!!これくらい!!」
石川が次の白菜に挑む。今度は慎重に、ゆっくりと鎌を入れる。
ザクッ...ザクッ...
「あれ、切れない...」
力を入れすぎたのか、鎌が白菜の芯に引っかかって抜けなくなった。
「あの、もっと鎌を寝かせて...」白田さんがアドバイスしようとする。
「大丈夫です!!コツつかみます!!」
石川が必死に鎌を引っ張る。その拍子に、
ドスン!!
白菜ごと石川が後ろに転倒した。
「うわああああ!!」
「石川くん!!」
富山と千葉が駆け寄る。石川は尻餅をついた状態で、白菜を抱えていた。
「...収穫、できた...」
「やり方が雑すぎるでしょ!!」富山がツッコむ。
「でも収穫は収穫だろ!?」
「そういう問題じゃない!!」
白田さんが苦笑いしながら石川を助け起こす。
「農作業って、思ったより力加減が難しいでしょう?」
「はい...でも負けません!!」
石川が再び白菜に向かう。
30分後。
「はあ...はあ...」
石川が汗だくになりながら、5株目の白菜を収穫していた。Tシャツは完全に汗で濡れ、額からは汗が滴り落ちている。
「石川くん、休憩したら?」千葉が水筒を差し出す。
「いや...まだだ...」
石川が6株目に向かう。しかしその足取りは明らかに重い。
「無理しないで...」富山が心配そうに見守る。
その時、畑の奥から声がした。
「お父さーん!!お茶持ってきたよー!!」
振り返ると、30代くらいの女性と小学生くらいの男の子が歩いてきた。白田さんの家族だろう。
「ああ、ありがとう。ちょうど休憩しようと思ってたところだ」
白田さんが笑顔で迎える。女性と男の子は、石川たちを見て目を丸くした。
「お父さん、この人たち...?」
「ああ、昨日電話で話した、白菜を褒めてくれた人たちだよ」
「え、本当に来たの!?」女性が驚く。
「来ましたよ!!白田さんの白菜に感謝を伝えに!!」石川が汗を拭いながら言う。
「す、すごい...」男の子が目をキラキラさせている。
「あの、お茶どうぞ」女性がペットボトルのお茶を差し出す。
「ありがとうございます!!」
石川がお茶を一気飲みする。その量は500mlを20秒で空けるという驚異的なスピードだった。
「ぷはあ!!生き返る!!」
「石川くん、飲み方が豪快すぎ...」富山が呆れる。
「ねえねえ、お兄ちゃんたち、白菜好きなの?」男の子が興味津々で尋ねる。
「好きだぞ!!大好きだ!!」石川が即答する。「特にお前んちの白菜は最高だ!!」
「えへへ」男の子が嬉しそうに笑う。
「でも、農作業って大変なんだね...」石川が畑を見渡す。「まだ全然終わってない...」
「ああ、この畝だけで30株、全部で300株くらいありますから」白田さんが言う。
「さ、300...」石川の顔が青ざめる。
「普段は家族総出でやるんですが、それでも丸一日かかりますね」
「そんなに...」
石川が改めて白菜畑を見る。整然と並ぶ白菜たちは、まるで軍隊のようにどこまでも続いていた。
「毎日これを...」
「ええ。種まきから収穫まで、約2ヶ月。その間、毎日世話をします」
白田さんの言葉に、石川の表情が真剣になる。
「...俺、全然わかってなかった。スーパーで簡単に買える白菜の裏に、こんなに大変な作業があるなんて...」
「みんなそうですよ。でも、こうして感謝しに来てくれる人なんて初めてです」白田さんが優しく笑う。
「いや、もっと感謝しないと...もっと手伝わないと...」
石川が立ち上がろうとした、その時。
「うわっ!!」
足が縺れて、石川が前のめりに倒れる。
バシャン!!
「あああああ!!」
石川が顔から泥の水たまりに突っ込んだ。畑の端に溜まっていた雨水の跡だ。
「石川くん!!」
富山と千葉が駆け寄る。石川が顔を上げると、顔中が泥だらけだった。
「ぷはっ...」
その様子があまりにも滑稽で、白田さんの家族が思わず笑いを噛み殺す。
「だ、大丈夫ですか...?」女性が笑いを堪えながら尋ねる。
「大丈夫です...ただ、泥の味がします...」
「それ大丈夫じゃないでしょ!!」富山がツッコむ。
男の子が笑いを堪えきれず、「ぷっ」と吹き出した。それが引き金となり、白田さんも、女性も笑い出す。
「あはは、ごめんなさい...でも...あはは...」
「笑っていいんです!!俺も笑えます!!」石川が泥だらけの顔で笑う。その姿はもはやコメディアンのようだった。
「ちょっと、顔洗ってきな」白田さんが家の方を指差す。「水道があるから」
「すみません...」
石川が情けない足取りで水道に向かう。
顔を洗い終わった石川が戻ってくると、千葉と富山が白菜の収穫を手伝い始めていた。
「お、お前ら...」
「石川くんだけに任せられないよ」千葉が笑顔で言う。
「それに、せっかく来たんだから」富山が呆れ顔で続ける。「少しは役に立たないと」
「富山...千葉...」石川の目が潤む。
「泣かないの!!」
「泣いてねえ!!目に泥が入っただけだ!!」
三人で収穫を再開する。最初はぎこちなかった動きも、次第にコツを掴んできた。
「あ、こうやって鎌を寝かせると切りやすい!!」千葉が発見を報告する。
「本当だ!!」
「外葉は3枚くらい残すといいみたいだよ」富山が白田さんから聞いた情報を共有する。
「なるほど!!」
チームワークで作業が進む。白田さんも隣の畝で作業をしながら、時々アドバイスをくれた。
「皆さん、筋がいいですね」
「本当ですか!?」石川が嬉しそうに顔を上げる。
「ええ。都会の人はもっとひょろひょろかと思ってましたが」
「俺、キャンプで鍛えてますから!!」石川が胸を張る。
その時、また男の子が近づいてきた。
「お兄ちゃん、これあげる」
差し出されたのは、小さな白菜だった。
「これは...?」
「規格外の白菜。小さすぎて出荷できないの。でも味は同じだよ」
「いいのか!?」
「うん!!頑張ってるから!!」
石川が白菜を受け取る。手のひらサイズの白菜は、まるで赤ちゃんのようで愛らしかった。
「...ありがとう。大事に食べるよ」
石川の目が再び潤む。
「だから泣くなって!!」富山がツッコむ。
「泣いてねえ!!汗が目に入っただけだ!!」
「さっきは泥って言ってたでしょ!!」
2時間後。
「終わった...」
石川が最後の白菜を収穫し、その場に座り込む。服は汗と泥でボロボロ、顔は日焼けで真っ赤、手には豆ができていた。
「お疲れ様でした」白田さんが笑顔で近づいてくる。「30株全部収穫できましたね」
「はあ...はあ...これで...300株の10分の1...」
石川が畑を見渡す。まだまだ白菜は続いていた。
「農家の人って...本当にすごい...」
「毎日のことですからね」白田さんが笑う。「でも、こうして感謝してもらえると、疲れも吹っ飛びます」
「白田さん...」
「それに、こんなに楽しい収穫作業は初めてでした」
白田さんの妻と息子も頷く。
「泥まみれになったり、転んだり、大変でしたけど」妻が笑う。「見てて面白かったです」
「笑いものにされてる...」石川が項垂れる。
「でも、本当に一生懸命でしたよ」白田さんが石川の肩を叩く。「その気持ち、確かに受け取りました」
石川が顔を上げる。
「...俺、今日ここに来て、本当に良かったです。スーパーで買うだけじゃわからない、農家の苦労も、野菜への愛情も、全部知ることができました」
「大げさですよ」白田さんが照れくさそうに笑う。
「大げさじゃないです!!」石川が立ち上がる。「これからは白菜を食べるたび、この畑のこと、白田さん家族のこと、思い出します!!」
「ありがとうございます」
「こちらこそありがとうございました!!」
石川が深々とお辞儀をする。富山と千葉も続く。
「あ、そうだ」白田さんの妻が家に駆け込み、すぐに戻ってきた。手には大きな袋。
「これ、持って行ってください。白菜と、あと野菜の詰め合わせ」
「え、でも...」
「受け取ってください。お礼です」
「お礼って、感謝しに来たのは俺たちなのに...」
「感謝されたお礼です」白田さんが笑う。「それに、また来てくださいね」
「本当ですか!?」石川の目が輝く。
「ええ。収穫時期になったら、また手伝いに来てください」
「絶対来ます!!約束します!!」
石川が力強く握手を求める。白田さんがしっかりと握り返した。
帰りの車の中。
「疲れた...」富山が運転席でぐったりしている。
「でも、楽しかったですね!!」千葉が後部座席で笑顔だ。
「ああ...最高だった...」石川が助手席で、膝の上の野菜袋を抱きしめている。
「石川くん、今回の暇つぶしキャンプ、どうだった?」
「暇つぶし...?」石川が首を傾げる。「これは暇つぶしじゃねえよ」
「え?」
「人生で一番大切なことを学んだ。食べ物への感謝、作る人への尊敬、そして...」
石川が窓の外を見る。畑が広がる景色が流れていく。
「直接感謝を伝える勇気だ」
「...石川くん、たまにいいこと言うね」富山が微笑む。
「たまにって何だよ!!」
「普段が普段だから」
「ひどい!!」
車内に笑い声が響く。
「でもさ、次はもうちょっと常識的なキャンプにしようよ」富山が提案する。
「常識的?」石川がニヤリと笑う。「次は...きのこ農家に感謝だな!!」
「また!?」
「当たり前だろ!!鍋にきのこは欠かせねえ!!」
「もう付き合いきれない...」富山が頭を抱える。
「でも、結局付き合うんでしょ?」千葉が笑う。
「...そうね」富山が小さく笑った。
石川が野菜袋から小さな白菜を取り出す。畑で男の子にもらった、規格外の白菜だ。
「今夜のキャンプ飯、この白菜で何作ろうかな」
「また白菜料理?」
「当たり前だろ!!感謝を込めて、最高の料理を作るんだ!!」
石川の目が再び輝く。その情熱は、疲労困憊の体からは想像もできないほど強かった。
車はキャンプ場へと向かう。後部座席の野菜袋から、新鮮な白菜の香りが漂っていた。
「俺達のグレートなキャンプ233、大成功!!」
石川が拳を天に突き上げる。
「次回、俺達のグレートなキャンプ234!!テーマは『きのこ農家に感謝の嵐を巻き起こせ』だ!!」
「絶対やめようよ...」富山のツッコミも虚しく、石川は既に次の企画に頭を巡らせていた。
キャンプ場に戻る道中、三人の笑い声が車内に響き続けた。そして石川の膝の上では、小さな白菜が揺れていた。それはまるで、白田さん一家の温かさを象徴するかのように。
<完>
『俺達のグレートなキャンプ233 1000%全力で白菜農家の人に感謝しよう』 海山純平 @umiyama117
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます