隠手の魔導士と予言の手話士
Shiromfly
1.【最強の「手」は袖の中】
赤獅子の太陽が統べる世界、アグニオン。
かつての凄まじい戦乱はとっくに終わり、今はときどき魔物が暴れる程度の、まあまあ平和な世の中だ。
……あ、俺? 俺はたぶん世界最強の魔導士、エクタリーズだ。二十三歳です。
五年前、アグニオン連合五か国から選抜された精鋭からなる『
数々の戦いを経て、俺は強くなった。
…………強くなりすぎてしまった。度が過ぎるほどに。
今や、俺は魔法に呪文なんて必要としない。軽く手印(ハンドサイン)を示すだけで、たいていの魔法はバンバン発動する。というか、してしまうようになった。
それで……それでさ! 聞いてくれよ!
あのね? 最近はもう日常の何気ない仕草ですら魔法が発動するようになってしまって、困ってんの!
例えば、街で見かけた知り合いに手を振るだけで、両側の民家が真っ二つ。
恐らくは風魔法のトリガーに引っ掛かったせい。
住民は大パニックだ。でも俺のせいだとはまだバレちゃいない。
他にも数々の余罪がある。
バレたら投獄……良くても追放だ。せっかく手に入れた気ままな生活を今更失ってたまるか。
この症状が出始めてから三年が経つ。その間、ますます酷くなっていく一方である。どんなに気を付けていてもやはりうっかり、手を出してしまうと何が起きるか判ったもんじゃない。
拍手などしようものなら火球の雨が降るし、頭を掻く程度でも防御魔法が発動するし。とにかく、迂闊に身振り手振りをするだけで、もはや俺も知らねえ謎の魔法が次々と飛び出してくる。治そうとは努力してきたぞ? しかし最強の魔導士たる俺すらお手上げなのに、どこの誰が何とかできるって言うんだ。
この暴発の原因は――心当たりがないわけじゃない。閨の侯爵が死に際に放った呪いだ。 だが、それは深刻な魔素感染と同義。ただそれならとっくに俺を起点とした感染爆発が起きているはず……しかし確証もない。だからこそ余計にタチが悪いし、絶対に、疑われてもいけない。
なので俺は、何処へ行くにも基本的に、袖に手を引っ込め、腕を組んで過ごしている。それで「きゃーエクタリーズさま、クールでカッコいいー♡」だなんてモテるもんだから困っちゃって……この話はいいか。
名誉のために言っておくが手は出してないぞ。何故かって……手なんて出せねえからだよ。ちくしょう。
そんなこんなでついた二ツ名が、『隠手の魔導士』ってワケ。
そんなある日、俺はついに王城に呼び出された。
あちゃあ、バレたかな……この三年で十五棟の民家と八枚の城壁、見張り塔が七本に、シャゼリン婆さんの花壇を粉々にした犯人が俺だってのが。
――――――――――
さしもの俺でも、王の勅命を無視する訳にはいかない。
「エクタ。久しぶりだな」
豪華な玉座に鎮座する、銀髪の若き『王』が、神妙に言う。
うわあ、そのしかめっ面。やっぱ……例の件だよな?
因みにこいつも元『五字衆』の仲間。かつての戦友だ。
ちゃっかり王様になってやがんの。
なので玉座の間には顔パスで入れる間柄……なんだけど。
「……早速、本題に入ろう」
「…………」
俺は目を瞑って、覚悟した。すいません、シャゼリン婆さん。アレは本当に申し訳ないことをしたと思っています。亡き夫との思い出だったんですよねあの花壇――
「――五十年に一度、秘境に隠された【
お? 何? 違った? よかった。
「そして、その秘儀が間も無く始まる。この国の未来を占う最も重要な神事だ。お前には、とある者と一緒にそこへ向かってもらいたい」
なるほど。
要するに、奥地の龍の像が、その手を動かしてサインか何かを描くので、そいつを見てこいってことね。
うん、わかりました。
しかしだ。
「間も無くだって? 随分と急な話だな」
「ちと事情があってな……おい! リィリを呼べ!」
王が玉座の間の外へ声を投げて、数秒後――
――パタパタパタッ……ききー! タタタタ!
慌てた足音、ブレーキ音、そしてまた軽やかな足音が近付いてくる。
程なく、王の間の入口に、小さな影が飛び込んできて。
見やると、桃色髪の少女が息を切らして立っていた。
背丈は俺の胸ほどもない。服装はごく普通の民――よりも若干みすぼらしく見える、灰色と緑を基調とした旅装だ。
少女はあどけない表情で、王と俺の顔を交互に見て。そして胸元にぶらさげていたスケッチブックを開くと、何やら慌てて走り書き。
その紙面を、ぱっ!と披露した。
『おまたせしました!』
「……!?」
「その娘が今代の担当者、
「…………」なんですと?
空いた口が塞がらない。
(いそいそ、かきかき)
『私も急な話でびっくりしました! けど大切な使命なので頑張りましょう。宜しくお願いします、エクタリーズさん!』
宜しくと言われても……。
「彼女には既にお前のことを伝えてある。さあ、早速出立の支度をしてくれ。何しろ予言の日まであと三日しかない――」
「バカじゃねえの!?」
思わず罵ってしまったので、王の間の外の衛兵が数名飛び込んできて、剣を抜こうとした。
関係あるかボケ。やれるもんならやってみろ大暴れしちゃうぞ。
「すまない。マジで時間がないのだ」
王様がマジとか言っちゃいけません。
「……なんで俺なんだよ。手練れの兵なら他にも居るだろ」
「病床の母親と話すために手話を覚えた、と言っていただろう? そして国内最強の魔導士。お前以外に適任は考えられない」
あー、昔そんな思い出を話したっけな。閨の侯爵との決戦前夜に――いや違う。くそこの野郎、よく覚えてやがったなこの野郎。
「……昔の話だ。今はもうほとんど忘れてる。せめて通訳の一人でも……」
「ならん。国の運命を龍仏の宣託に託しているのは機密中の機密。よって最も信頼できる者にしか頼めないのだ……判ってくれ、友よ」
「えええ……」こっちの事情も判ってくれ、友め。
「断るというなら、口座を凍結する」
それだけはやめてください。
「……ええい、やればいいんだろやれば。で、場所はどこなんだ?」
「詳しいことは彼女に聞いてくれ。何しろ秘儀の中の秘儀。聾聖の一族以外は知らぬのだ」
「なら通訳!!」
「ダメだ」
こいつ……。昔からこーゆーとこあるんだよな。閨の侯爵の弱点を探る旅の時もさ。大雑把な計画立ててさ。尻ぬぐいしたのは俺たち……ああ、悪い。愚痴ばっかりだな俺。
まあ、最悪の事態ではなかったので一安心だ。
そうして、俺たちは、城を後にする。
(かきかき)
『すいません。わたし、未熟者ですけど……足手まといにはなりませんから』
来た時よりも足取りが重い俺の後を、”聾奏のリィリ”がとことこついてくる。
「ああ、問題ない。俺がついている限り、ドラゴンだろうがデーモンだろうが全て蹴散らしてやるよ」
肩越しにそう語ったが、リィリの返事はない。
そうか、聾者……ん? ああ、まずい。
手話だろうが筆談だろうが、意思疎通のためには――
手を出さなきゃだめじゃん!!
俺は、戦慄してリィリを振り返る。
リィリは何も判ってない顔をして、興味深げに俺を見上げている。
「…………」
ど
どうする……!?
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