BLドッキリを仕掛けます
沼地からみ
BL配信?
「
人気配信者グループのリーダー、
「BL配信? 本気か?」
その動画は、2日前にアップロードしたメンバーの
「この動画がどうしたんだよ」
「再生数見て! 100万再生だよ! 最近アップデートした他の動画は1万いかないものもあるのに、すごい再生数だ!」
茉白は興奮気味に言ってくる。蒼が所属するグループ『カラーズ』は、5年前から大手動画サイトで活動し始めた。
メンバーはリーダーの
高校生だった活動当時はコロナ禍で外出が
「このままじゃ、カラーズは解散だ。BL配信に
広告収入だけでは全員の給料を出せなくなった茉白は、今回が最後のチャンスだと言ってくる。
「それはわかったんだけどさ。なんで
蒼と赤也はメンバーの緑冴がいないことを茉白に聞いた。すると、茉白は悪い
「1か月間の長期ドッキリBL企画を考えたんだ! その名も『蒼に
「なんで俺なんだよ! そういうイロモノ企画は赤也の方がいいだろう!」
それを聞いた蒼は机を叩いて、赤也を
「赤也は女好きで売っているのに、今更、路線変更したら視聴者が困るよ」
「なら、茉白でいいじゃないか! 茉白の方がビジュアルがいいし、俺より適任だろう!」
「僕は動画編集しないといけないから無理。蒼、動画編集代わりにやってくれるの? 機械オンチな蒼が出来るの?」
「ぐっ⋯⋯」
茉白に正論を言われて、蒼はぐうの音も出ない。言い返せない蒼に、茉白は今回の企画書を渡した。企画の中身を見て、蒼は顔に手をあててため息を吐く。
◇
蒼に与えられた企画は、1か月間ネタバラシなしのドッキリBL企画であった。企画終了後に、隠しカメラで撮った映像を編集して流すようだ。蒼に与えられた初のミッションは、『緑冴に甘える』である。蒼が悩んでいると、企画部屋のドアが開いた。
「おはよう。あれ、皆もう来てたの? 俺、遅刻した?」
どんよりした雰囲気の部屋に、嘘の集合時間を伝えられた
「時間通りだよ。席に座って」
茉白は笑顔で緑冴に言う。席は蒼の隣と茉白の隣が空いていた。どちらへ座ろうか迷っている様子だ。
(数字のためだ⋯⋯)
「緑冴、俺の隣に座れよ」
蒼は悩んでいる緑冴に声をかけた。緑冴はソファに座る蒼の隣に来る。座ったのを確認してから、蒼は緑冴の肩にもたれかかった。
「蒼?? 眠いの??」
「昨日、夜通しゲーム配信してたから眠い。緑冴、
緑冴の腰に抱きつくように蒼は甘えてみた。対面に座っている赤也は声を殺して笑っている。茉白も満足そうな表情である。
「あ、あおい!?」
蒼に枕にされて、
「かたいし、やっぱりいいや。緑冴ごめんな」
緑冴が大げさに恥ずかしがるので、蒼まで恥ずかしくなってしまう。
(これを1か月も続けなければいけないのか⋯⋯)
今後を考えて、蒼は胸を押さえた。
◇
それから3週間が
緑冴は何度やってもスキンシップに慣れないようで、その
◇
「緑冴のベッドに
今日のミッション、『寝ている緑冴の布団に潜り込む』を伝えられた蒼は首を横に振った。メンバー同士仲がいいが、無口キャラの緑冴は他の2 人のメンバーに比べて少し距離があった。布団に入るのはハードルが高いと感じた蒼は全力で拒否をする。
「蒼はカラーズがなくなってもいいの?」
すると、茉白は「緑冴が寝たら連絡するね」そう言い残して、緑冴の家に行ってしまった。夜になると茉白から、緑冴が寝たと連絡が入る。
「緑冴を起こさないようにそうっと入ってね」
メッセージでやり取りし、茉白に鍵を開けてもらうと、蒼は緊張しながら緑冴の家に足を踏み入れた。蒼が入ると、茉白は「編集があるから」と言って帰ってしまった。
足音を殺して緑冴が寝ている寝室へ向かう。すると、キャビネットに蒼と緑冴のツーショット写真が入っている写真立てを見つける。
(ツーショット写真。懐かしいな。皆で撮った写真じゃないのか)
蒼は少し疑問に思いながら、恐る恐る緑冴の布団に
(まつ毛長い、顎細い。やっぱりカッコいいよな⋯⋯)
「あ、お、い⋯⋯」
その時、蒼は自分の名前を呼ばれて肩に力が入る。緑冴が起きてしまったと思い、見ると、まだ夢の中にいるようだ。寝言だとわかり蒼は胸をなで下ろす。
「す⋯⋯き⋯⋯」
緑冴は寝言を言いながら蒼に抱きついてくる。蒼の足に、自らの足を絡ませて、蒼は抱き枕のように抱えられた。
(近いっ⋯⋯!)
蒼が動けずにいると、緑冴の顔が蒼の顔に迫ってくる。そして、ふにゅっ。蒼の唇にあたたかい何かが触れた。
「わぁあああ!!」
寝ぼけた緑冴にファーストキスを奪われた蒼は思わず声を上げた。その声に反応して緑冴が飛び起きる。
「え⋯⋯、何!? あ、あおい!? なんで俺の布団にいるの!?」
「ど、ドッキリ大成功⋯⋯」
蒼は咄嗟にそんな言葉が出た。緑冴は何がなんだかわかっていない様子だ。2人は沈黙に包まれる。
「茉白にはめられたな。ビックリした⋯⋯」
沈黙を破ったのは緑冴だった。蒼にそう言った後、茉白に連絡している。少しして茉白が緑冴の家に来ると、『寝起きドッキリ』だと緑冴に説明した。
◇
「もう、この企画無理! 寝ぼけた緑冴にキスされた! 俺、キス初めてだったのに」
「20歳にもなってキスしたことなかったの!? それは災難だったね。でも、過去一の撮れ高だよ! ハプニングに感謝だね!」
「笑える。ファーストキス卒業おめでとう」
「2人とも
蒼は企画の進行条件を茉白と赤也に伝えていた。ターゲットの緑冴はこの場に呼んでおらず、3人でカラオケボックスにいる。キスの1件で、蒼はBLドッキリ企画へのやる気が減ってしまう。
「後、1週間だよ? 今終わらせたら、3週間が無駄になっちゃうよ?」
「そうだ。お前たちにカラーズの
2人はそう言って蒼を
◇
「蒼、ちょっといい?」
翌日、激辛食レポ企画を終えて店から帰宅しようとした蒼は、緑冴に呼び止められた。茉白と赤也はすでに帰宅している。
「緑冴どうした?」
「俺の勘違いだったらいいんだけれど、何か企画をしている?」
蒼はBL企画が勘付かれたと思い、冷や汗が止まらない。ここで緑冴にバレたら、今までの映像が使えなくなってしまう。そう思った蒼は、緑冴を騙すことにした。
「いきなりどうしたんだよ。企画なんてやってないけど。なんでそんな風に思ったんだよ」
「最近、動画外でよく絡んでくるし。蒼は、俺が好きなの⋯⋯?」
「!!」
緑冴に聞かれて蒼は体が
「もう少し待ってくれ1週間後に話す⋯⋯」
「わかった⋯⋯」
蒼は緑冴の問いにそう答えた。
◇
緑冴にBL企画がバレそうになったが、何とか誤魔化した蒼はとうとう最終日を迎える。
「蒼、1か月お疲れ様! 頑張ったね〜」
「お疲れ〜。動画の反応が楽しみだな。早く緑冴にドッキリだって伝えてこいよ」
2人は早く緑冴の待つ部屋へ行くように急かした。蒼は緊張しながら扉を開ける。
「蒼、話って何?」
「話がある」と言って呼び出した緑冴が、蒼に向かって微笑んでいる。蒼は『ドッキリ大成功』と書かれた画用紙を背中に隠した。
「緑冴、実は伝えなきゃいけないことがあるんだ。俺、緑冴に嘘吐いていて⋯⋯」
企画とはいえ、緑冴を騙せなかった蒼は、本当のことを話すことにした。
「嘘?」
「俺、緑冴に沢山スキンシップしてたけれど、あれは企画のためだったんだ⋯⋯でも、俺は本当に緑冴が好きで⋯⋯ドッキリだって思われたくないから⋯⋯企画倒れしちゃってごめん」
「えっ⋯⋯! 実は俺も蒼が好きで⋯⋯」
「本当か!? 嬉しい⋯⋯」
緑冴は感極まったように蒼を抱きしめた。蒼もその背中に手を回す。
(両思いだったんだ。嘘吐かずにちゃんと告白して良かった⋯⋯)
「逆ドッキリ大成功〜!!」
クラッカーを鳴らして茉白と赤也が部屋の中に入ってくる。『逆ドッキリ』という言葉を聞いた蒼は足先から冷えていく。
「蒼、これは違うんだ!」
緑冴は蒼に弁明している。しかし、蒼はショックで動けなくなってしまう。騙されていたと知り、涙が
「嘘つき!! 俺、グループやめる!!」
部屋の中の様子を知らなかった2人は訳が分からず動揺している。蒼は扉付近に立っていた2人を押しのけると、部屋を飛び出して行った。
◇
(最初に騙したのは俺だ⋯⋯)
蒼は近所の公園のベンチに座りながら、1か月のBL企画のことを考えていた。
告白が成功したと思い、
すると、蒼宛にメンバーから着信とメッセージが入る。蒼はメンバー全員のアドレスをブロックした。
◇
後日。蒼は実家へ戻っていた。実家は農家で、長男の蒼は配信者としてうまくいかなければ、農家を
「蒼、帰ってきたのね。よく頑張ったわ」
母親は落ち込んだ蒼のためにごちそうを用意する。久しぶりに食べた母の味に蒼は泣きそうになった。
その夜、蒼の父親が帰ってくると、蒼を見て怒りに顔を染める。
「お前、なんで帰ってきてんだ!」
「父さん、今まで好き勝手していてごめん。これからは農家として頑張るから」
「お前は配信者として頑張るんだろう! 早く戻れ!」
蒼の父親はスマートフォンを見せてくる。画面に映っているのは、蒼たちのグループ『カラーズ』のチャンネルだった。登録済みなことに気づき、蒼は驚く。
蒼は配信活動をずっと反対されていると思っていたが、違っていた。よく見ると、部屋にはカラーズのグッズがあちこち飾ってある。
「せっかく息子が有名人だって周りに自慢してるのに、こんないいところで諦めるな。農家はじじいになってからやればいい。俺はまだ譲る気はないぞ」
「父さん⋯⋯!」
父親はそう言うと、蒼の背中を力強く叩く。蒼は背中を押されて、メンバーと話合うことを決めた。
「そういえば、新しい動画が出てたぞ。ちゃんと見たか?」
父親にそう言われて蒼がスマートフォンを確認すると、『蒼へ』という黒背景に緑の文字で書かれた動画が1日前にアップロードされていた。緑は
「蒼、ごめん。グループに戻ってきて」
動画の内容は、蒼への謝罪から始まった。緑冴は逆ドッキリを仕掛けた理由を話し出す。それを聞いた蒼は驚きから言葉を失う。
蒼が動画を見終わったタイミングで、実家のインターフォンが鳴る。
「蒼、緑冴くんが来ているわよ」
呼ばれて蒼が玄関へ行くと、緑冴が立っていた。緑冴は蒼に「外で話さないか」と言ってくる。
蒼は小さく頷いた。
◇
「緑冴、この前はいきなりいなくなってごめん」
「ちゃんと説明しなかった俺が悪いから、蒼は謝らないで⋯⋯。そもそも、動画で告白しようと思った俺が悪いんだ」
逆ドッキリは、蒼に告白する勇気の出ない緑冴に
BL企画によりいい雰囲気にしたところで告白。断られればドッキリということにしよう。そういった計画だったようだ。
最終日、中々出てこない蒼と緑冴に、告白が失敗に終わったと勘違いした2人が突入してきた。
というのが事の
「俺もドッキリに乗ったし⋯⋯。緑冴は本当に俺が好きなのか?」
「愛している。蒼、俺と付き合って欲しい」
そう言って右手を出した緑冴は、顔だけでなく全身真っ赤だ。蒼はその手を両手で掴んだ。
◇
「蒼と緑冴のBL動画、1000万再生だよ! 記念にグッズ作っちゃう?」
茉白は最新アップロードの動画を見せてくる。その動画はBL企画の隠し撮りの動画に、カップル成立の報告動画だ。蒼は実家の父親がチャンネル登録していることを知っているので、少し複雑な気持ちである。
「売れなかったら恥ずかしいからいい」
「蒼のグッズはもう個人的に作っているから大丈夫」
恥ずかしがる蒼の横で、緑冴が爆弾発言をした。蒼が緑冴を問い詰めていると、デートで抜けたはずの赤也が涙目で入ってくる。
「女はこわい〜。俺、もう恋愛しない〜」
彼女にこっぴどく振られた赤也は、メンバーに泣きついてきた。
「じゃあ、僕と赤也でBL配信しようか。これでカラーズは安泰だね」
茉白の台詞に赤也が固まった。蒼と緑冴はそれをニヤニヤしながら見る。
2人の動画が上がるのはそう遠くない未来だろう。
BLドッキリを仕掛けます 沼地からみ @numachi_karami
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