BLドッキリを仕掛けます

沼地からみ

BL配信?


BLボーイズラブ配信をやろう」


 人気配信者グループのリーダー、茉白ましろは突然そんなことを言い出した。その発言で部屋の空気が凍りつく。

 

「BL配信? 本気か?」


 あおいが茉白に聞くと、茉白は無言でパソコンの画面を見せてくる。そこには、動画の再生画面がうつっていた。

 その動画は、2日前にアップロードしたメンバーのあおい赤也あかやがポッキーゲーム(2人でポッキーをくわえて両端から食べ進めるゲーム)をしている動画である。


「この動画がどうしたんだよ」

「再生数見て! 100万再生だよ! 最近アップデートした他の動画は1万いかないものもあるのに、すごい再生数だ!」


 茉白は興奮気味に言ってくる。蒼が所属するグループ『カラーズ』は、5年前から大手動画サイトで活動し始めた。

 メンバーはリーダーの茉白ましろあおい赤也あかや緑冴つかさの4人で構成されている。4人は高校時代からの友人で、名前に色がついていることをきっかけに仲良くなった。

 高校生だった活動当時はコロナ禍で外出が自粛じしゅくされていたため、動画を出せば100万再生、多いもので1000万再生されていたが、現在は視聴者数も少ないのか再生数は低迷している。


「このままじゃ、カラーズは解散だ。BL配信にけるしかないよ!」


 広告収入だけでは全員の給料を出せなくなった茉白は、今回が最後のチャンスだと言ってくる。


「それはわかったんだけどさ。なんで緑冴つかさがいないの?」


 蒼と赤也はメンバーの緑冴がいないことを茉白に聞いた。すると、茉白は悪いみを浮かべる。茉白がこの表情をした時はろくなことを企画しない。2人は嫌な予感がした。


「1か月間の長期ドッキリBL企画を考えたんだ! その名も『蒼にせまられたら緑冴はどうなる!?』だよ!」

「なんで俺なんだよ! そういうイロモノ企画は赤也の方がいいだろう!」


 それを聞いた蒼は机を叩いて、赤也を指差ゆびさした。赤也は自分が指名されなかったことに安堵あんどしている。


「赤也は女好きで売っているのに、今更、路線変更したら視聴者が困るよ」

「なら、茉白でいいじゃないか! 茉白の方がビジュアルがいいし、俺より適任だろう!」

「僕は動画編集しないといけないから無理。蒼、動画編集代わりにやってくれるの? 機械オンチな蒼が出来るの?」

「ぐっ⋯⋯」


 茉白に正論を言われて、蒼はぐうの音も出ない。言い返せない蒼に、茉白は今回の企画書を渡した。企画の中身を見て、蒼は顔に手をあててため息を吐く。



 蒼に与えられた企画は、1か月間ネタバラシなしのドッキリBL企画であった。企画終了後に、隠しカメラで撮った映像を編集して流すようだ。蒼に与えられた初のミッションは、『緑冴に甘える』である。蒼が悩んでいると、企画部屋のドアが開いた。

 

「おはよう。あれ、皆もう来てたの? 俺、遅刻した?」


 どんよりした雰囲気の部屋に、嘘の集合時間を伝えられた緑冴つかさが入ってくる。


「時間通りだよ。席に座って」


 茉白は笑顔で緑冴に言う。席は蒼の隣と茉白の隣が空いていた。どちらへ座ろうか迷っている様子だ。


 (数字のためだ⋯⋯)


「緑冴、俺の隣に座れよ」


 蒼は悩んでいる緑冴に声をかけた。緑冴はソファに座る蒼の隣に来る。座ったのを確認してから、蒼は緑冴の肩にもたれかかった。


「蒼?? 眠いの??」

「昨日、夜通しゲーム配信してたから眠い。緑冴、まくらになって」


 緑冴の腰に抱きつくように蒼は甘えてみた。対面に座っている赤也は声を殺して笑っている。茉白も満足そうな表情である。


「あ、あおい!?」


 蒼に枕にされて、緑冴つかさは顔を真っ赤にして体を強張こわばらせている。普段こういった行動を取るのは茉白で、蒼はグループのツッコミ役に徹底てっていしていた。蒼らしくない行動に動揺したのだろう。


「かたいし、やっぱりいいや。緑冴ごめんな」


 緑冴が大げさに恥ずかしがるので、蒼まで恥ずかしくなってしまう。だかは十分取れたので、緑冴の上から退いた。


 (これを1か月も続けなければいけないのか⋯⋯)


 今後を考えて、蒼は胸を押さえた。



 それから3週間がった。

 あおいは『BL』について調べに調べて、ミッションをこなしていく。

 緑冴つかさに食事をあ〜んしたり、バッグハグをしたり、頭を撫でてみたり、蒼はありとあらゆる萌えシチュエーションを試した。

 緑冴は何度やってもスキンシップに慣れないようで、そのたび赤面せきめんしている。



「緑冴のベッドにもぐり込む?? 流石に無理」


 今日のミッション、『寝ている緑冴の布団に潜り込む』を伝えられた蒼は首を横に振った。メンバー同士仲がいいが、無口キャラの緑冴は他の2 人のメンバーに比べて少し距離があった。布団に入るのはハードルが高いと感じた蒼は全力で拒否をする。


「蒼はカラーズがなくなってもいいの?」


 茉白ましろに言われた蒼は言葉にまる。

 すると、茉白は「緑冴が寝たら連絡するね」そう言い残して、緑冴の家に行ってしまった。夜になると茉白から、緑冴が寝たと連絡が入る。


「緑冴を起こさないようにそうっと入ってね」


 メッセージでやり取りし、茉白に鍵を開けてもらうと、蒼は緊張しながら緑冴の家に足を踏み入れた。蒼が入ると、茉白は「編集があるから」と言って帰ってしまった。

 足音を殺して緑冴が寝ている寝室へ向かう。すると、キャビネットに蒼と緑冴のツーショット写真が入っている写真立てを見つける。


 (ツーショット写真。懐かしいな。皆で撮った写真じゃないのか)


 蒼は少し疑問に思いながら、恐る恐る緑冴の布団に侵入しんにゅうした。緑冴は蒼が隣に来たことをにきづくことなく、規則正しい寝息を立てている。


 (まつ毛長い、顎細い。やっぱりカッコいいよな⋯⋯)


「あ、お、い⋯⋯」


 その時、蒼は自分の名前を呼ばれて肩に力が入る。緑冴が起きてしまったと思い、見ると、まだ夢の中にいるようだ。寝言だとわかり蒼は胸をなで下ろす。


「す⋯⋯き⋯⋯」


 緑冴は寝言を言いながら蒼に抱きついてくる。蒼の足に、自らの足を絡ませて、蒼は抱き枕のように抱えられた。


 (近いっ⋯⋯!)


 蒼が動けずにいると、緑冴の顔が蒼の顔に迫ってくる。そして、ふにゅっ。蒼の唇にあたたかい何かが触れた。


「わぁあああ!!」


 寝ぼけた緑冴にファーストキスを奪われた蒼は思わず声を上げた。その声に反応して緑冴が飛び起きる。


「え⋯⋯、何!? あ、あおい!? なんで俺の布団にいるの!?」

「ど、ドッキリ大成功⋯⋯」


 蒼は咄嗟にそんな言葉が出た。緑冴は何がなんだかわかっていない様子だ。2人は沈黙に包まれる。


「茉白にはめられたな。ビックリした⋯⋯」


 沈黙を破ったのは緑冴だった。蒼にそう言った後、茉白に連絡している。少しして茉白が緑冴の家に来ると、『寝起きドッキリ』だと緑冴に説明した。



「もう、この企画無理! 寝ぼけた緑冴にキスされた! 俺、キス初めてだったのに」

「20歳にもなってキスしたことなかったの!? それは災難だったね。でも、過去一の撮れ高だよ! ハプニングに感謝だね!」

「笑える。ファーストキス卒業おめでとう」

「2人とも他人事ひとごとだと思って!」


 蒼は企画の進行条件を茉白と赤也に伝えていた。ターゲットの緑冴はこの場に呼んでおらず、3人でカラオケボックスにいる。キスの1件で、蒼はBLドッキリ企画へのやる気が減ってしまう。


「後、1週間だよ? 今終わらせたら、3週間が無駄になっちゃうよ?」

「そうだ。お前たちにカラーズの命運めいうんはかかっているんだ」


 2人はそう言って蒼を鼓舞こぶする。蒼は悩んだが、後1週間の我慢だと思い、企画を続けることにした。



「蒼、ちょっといい?」 


 翌日、激辛食レポ企画を終えて店から帰宅しようとした蒼は、緑冴に呼び止められた。茉白と赤也はすでに帰宅している。


「緑冴どうした?」

「俺の勘違いだったらいいんだけれど、何か企画をしている?」


 蒼はBL企画が勘付かれたと思い、冷や汗が止まらない。ここで緑冴にバレたら、今までの映像が使えなくなってしまう。そう思った蒼は、緑冴を騙すことにした。


「いきなりどうしたんだよ。企画なんてやってないけど。なんでそんな風に思ったんだよ」

「最近、動画外でよく絡んでくるし。蒼は、俺が好きなの⋯⋯?」

「!!」


 緑冴に聞かれて蒼は体が強張こわばる。肯定こうていすれば撮れ高は取れるかもしれない。しかし、こんな形で告白していいか悩む。


「もう少し待ってくれ1週間後に話す⋯⋯」

「わかった⋯⋯」


 蒼は緑冴の問いにそう答えた。



 緑冴にBL企画がバレそうになったが、何とか誤魔化した蒼はとうとう最終日を迎える。


「蒼、1か月お疲れ様! 頑張ったね〜」

「お疲れ〜。動画の反応が楽しみだな。早く緑冴にドッキリだって伝えてこいよ」


 2人は早く緑冴の待つ部屋へ行くように急かした。蒼は緊張しながら扉を開ける。


「蒼、話って何?」


 「話がある」と言って呼び出した緑冴が、蒼に向かって微笑んでいる。蒼は『ドッキリ大成功』と書かれた画用紙を背中に隠した。


「緑冴、実は伝えなきゃいけないことがあるんだ。俺、緑冴に嘘吐いていて⋯⋯」


 企画とはいえ、緑冴を騙せなかった蒼は、本当のことを話すことにした。


「嘘?」

「俺、緑冴に沢山スキンシップしてたけれど、あれは企画のためだったんだ⋯⋯でも、俺は本当に緑冴が好きで⋯⋯ドッキリだって思われたくないから⋯⋯企画倒れしちゃってごめん」

「えっ⋯⋯! 実は俺も蒼が好きで⋯⋯」

「本当か!? 嬉しい⋯⋯」


 緑冴は感極まったように蒼を抱きしめた。蒼もその背中に手を回す。


 (両思いだったんだ。嘘吐かずにちゃんと告白して良かった⋯⋯)


「逆ドッキリ大成功〜!!」


 クラッカーを鳴らして茉白と赤也が部屋の中に入ってくる。『逆ドッキリ』という言葉を聞いた蒼は足先から冷えていく。


「蒼、これは違うんだ!」


 緑冴は蒼に弁明している。しかし、蒼はショックで動けなくなってしまう。騙されていたと知り、涙が処無どなこぼれる。


「嘘つき!! 俺、グループやめる!!」


 部屋の中の様子を知らなかった2人は訳が分からず動揺している。蒼は扉付近に立っていた2人を押しのけると、部屋を飛び出して行った。



 (最初に騙したのは俺だ⋯⋯)


 蒼は近所の公園のベンチに座りながら、1か月のBL企画のことを考えていた。

 告白が成功したと思い、がっていた自分をじる。

 すると、蒼宛にメンバーから着信とメッセージが入る。蒼はメンバー全員のアドレスをブロックした。



 後日。蒼は実家へ戻っていた。実家は農家で、長男の蒼は配信者としてうまくいかなければ、農家をぐことを約束していたからだ。


「蒼、帰ってきたのね。よく頑張ったわ」


 母親は落ち込んだ蒼のためにごちそうを用意する。久しぶりに食べた母の味に蒼は泣きそうになった。

 その夜、蒼の父親が帰ってくると、蒼を見て怒りに顔を染める。


「お前、なんで帰ってきてんだ!」

「父さん、今まで好き勝手していてごめん。これからは農家として頑張るから」

「お前は配信者として頑張るんだろう! 早く戻れ!」


 蒼の父親はスマートフォンを見せてくる。画面に映っているのは、蒼たちのグループ『カラーズ』のチャンネルだった。登録済みなことに気づき、蒼は驚く。

 蒼は配信活動をずっと反対されていると思っていたが、違っていた。よく見ると、部屋にはカラーズのグッズがあちこち飾ってある。


「せっかく息子が有名人だって周りに自慢してるのに、こんないいところで諦めるな。農家はじじいになってからやればいい。俺はまだ譲る気はないぞ」

「父さん⋯⋯!」


 父親はそう言うと、蒼の背中を力強く叩く。蒼は背中を押されて、メンバーと話合うことを決めた。


「そういえば、新しい動画が出てたぞ。ちゃんと見たか?」


 父親にそう言われて蒼がスマートフォンを確認すると、『蒼へ』という黒背景に緑の文字で書かれた動画が1日前にアップロードされていた。緑は緑冴つかさの担当カラーである。蒼は緊張しながら動画を再生した。


「蒼、ごめん。グループに戻ってきて」


 動画の内容は、蒼への謝罪から始まった。緑冴は逆ドッキリを仕掛けた理由を話し出す。それを聞いた蒼は驚きから言葉を失う。

 蒼が動画を見終わったタイミングで、実家のインターフォンが鳴る。


「蒼、緑冴くんが来ているわよ」


 呼ばれて蒼が玄関へ行くと、緑冴が立っていた。緑冴は蒼に「外で話さないか」と言ってくる。

 蒼は小さく頷いた。



「緑冴、この前はいきなりいなくなってごめん」

「ちゃんと説明しなかった俺が悪いから、蒼は謝らないで⋯⋯。そもそも、動画で告白しようと思った俺が悪いんだ」


 逆ドッキリは、蒼に告白する勇気の出ない緑冴にごうやした茉白が仕掛けたものだった。

 BL企画によりいい雰囲気にしたところで告白。断られればドッキリということにしよう。そういった計画だったようだ。

 最終日、中々出てこない蒼と緑冴に、告白が失敗に終わったと勘違いした2人が突入してきた。

 というのが事の顛末てんまつである。


「俺もドッキリに乗ったし⋯⋯。緑冴は本当に俺が好きなのか?」

「愛している。蒼、俺と付き合って欲しい」


 そう言って右手を出した緑冴は、顔だけでなく全身真っ赤だ。蒼はその手を両手で掴んだ。



「蒼と緑冴のBL動画、1000万再生だよ! 記念にグッズ作っちゃう?」


 茉白は最新アップロードの動画を見せてくる。その動画はBL企画の隠し撮りの動画に、カップル成立の報告動画だ。蒼は実家の父親がチャンネル登録していることを知っているので、少し複雑な気持ちである。


「売れなかったら恥ずかしいからいい」

「蒼のグッズはもう個人的に作っているから大丈夫」


 恥ずかしがる蒼の横で、緑冴が爆弾発言をした。蒼が緑冴を問い詰めていると、デートで抜けたはずの赤也が涙目で入ってくる。


「女はこわい〜。俺、もう恋愛しない〜」


 彼女にこっぴどく振られた赤也は、メンバーに泣きついてきた。


「じゃあ、僕と赤也でBL配信しようか。これでカラーズは安泰だね」


 茉白の台詞に赤也が固まった。蒼と緑冴はそれをニヤニヤしながら見る。

 2人の動画が上がるのはそう遠くない未来だろう。

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BLドッキリを仕掛けます 沼地からみ @numachi_karami

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