第3話 推しに推し活邪魔される
私は今、由々しき問題に直面している。
推しのフィギュアが動き出したとか。
推しに心乱されまくってるとか。
いろいろ大変だけど。
そんな話ではない!
――推し活が出来ない!!
しかも、推し(のフィギュア)がいるせいで!!
私の部屋は、とにかくグッズだらけだ。
それは今更どうしょうもないとして。
奏が動き出す前は、部屋には常にNOCTISの曲を流すか、映像を流していた。
それが日常だった。
1日の終わりには、今日の推し活と、その日の想いを日記に綴っていた。
それが、出来ない。
正確に言うと、やりづらすぎる。
本人ではないとは言え、奏に見られてると思うと……。
想像しただけで悶える。
しばらくは我慢していた。
――けど。
もう、我慢出来ない!
今日はNOCTISが音楽番組に出る日なのだ!!
もちろん、録画もしてあるけど、生放送の番組をリアルタイムで見るのはノクティア(ファンクラブ民のこと!)の義務だ。
そう意気込んではみたものの、奏の顔を見ると、なんか後ろめたく感じてしまう。
今日も窓辺に座って外を見ている奏に視線を向ける。
お日様に照らされて、奏の髪のアッシュグレーの部分がきらきらと輝く。
印象的な灰色の目は窓から見える街を眺めていた。
綺麗――
思わず零れる。
でも、かろうじて声に出すのは避けられた。
奏に聞かれるのは、まだちょっと恥ずかしい。
最近、奏はやたら私について聞いてくる。
改まってというよりも、何気ない会話のついでにだ。
「ねぇ、夕莉の働いてるカフェってどこにあるの?」
帰宅後、不意に言われた言葉に絶句して、私は何も答えられなかった。
硬直したままの私を見て、奏はくすくす笑ったけど、答えを催促することはなかった。
でも、それ以来。
「夕莉っていつも何してるの?」
そんなふうに、何気なく聞いてくるようになった。
「……仕事?」
「ははっ、なんで聞き返すの?」
笑いながら、奏は、仕事以外でって返してくる。
「えっ」
詰まる。
考えたこともない、と言うか、推し活以外ない。
基本、ライブを中心に、円盤発売はカウントダウンして、メディアに出れば録画してリアルタイムで見て。
Xでの情報収集も欠かさず。
暇さえあれば、曲を聞き、映像見て……。
仕事以外はNOCTIS――ひいては夜宮奏にすべての時間を使っている。
奏がこちらを見ている。
ぼッと顔に血が上る。
「べっ別に、いろいろと……」
あぁ、墓穴掘ってる気がするけど。
動揺が表に出まくりだ。
「ふぅーん?」
意味深な笑顔で奏は答えた。
……やっぱり、わかってやってるのか……?
ながーーい溜め息が零れた、
それから意を決して、
「ねぇ、私これからTV見るけど、どうする?」
どうする?と聞いたのは、せめてもの抵抗だ。
寝ててくれないかな、とはちょっとだけ思った。
奏は首を傾げて。
「え、一緒に見るよ。なんで?」
……ですよね。
「……なんとなく」
私は黙ってTVの電源を入れた。
時間ぴったり。
音楽番組のオープニングが映る。
今日の出演者紹介が始まり、そして最後のあたり。
NOCTISが映る。
夜宮奏を先頭にメンバーが入場する。
どきっとする。
顔がほわほわーっとして、あぁ幸せ、と感じる。
にやける口元を手で抑えて、画面を凝視する。
――と、はっとしてテーブルの上にいる奏(フィギュアの方)を振り返る。
(しまった……奏の存在忘れてたっ)
本物の奏の映像を見て、フィギュアの奏がどう感じるのか……
少しだけ……不安があった。
奏はテーブルの縁に座ったまま、真剣な顔で画面の向こうの夜宮奏を見ていた。
その眼差しに、私の胸が少しだけじくっと痛んだ。
「奏……?」
思わず、声をかけた。
奏はふっと、私の方を見ていつものように微笑んだ。
「俺ってやっぱりカッコイイね」
心配して……損した。
でも、私は心のなかで安堵の溜め息をついた。
番組は進み、次はNOCTISの出番だ。
画面の向こうで奏がトークをする。
私はちょっと遠慮しつつ、TVにかじりついて見ていた。
そして、始まる演奏。
今度発売される新曲だ。
ラジオで何度も聞いたけど、歌ってる姿を見るのは初めてだ。
話してる姿も、笑ってる顔も、クールな表情も、全部好きだけど、歌ってるところが、一番好き。
ステージ上で、魂の叫びのような歌を歌う。
これだけで、明日もまた頑張れる。
スタジオに拍手が響き、NOCTISの出番が終わった。
私は余韻に浸りながら、顔面崩壊レベルの笑顔を浮かべていた。
「ねぇ?」
不意に、意識外から声が聞こえる。
また、忘れてた……。
恐る恐る奏の方を見る。
いたずらっぽいグレーの瞳が夕莉を射抜く。
「夕莉は、ホントに俺のこと好きなんだね?」
「……っっ!!??」
奏は楽しそうな顔で私を見ている。
「いい顔してたよ?」
もう、何も言えませんっ!
自分でもわかってるの!
でもっ、それを見られる日が来るなんてっっ!!
あぁ、私の日常……。
思う存分推し活が出来る日を返して欲しい……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます