現在、話題沸騰中アイドルの九条原レナと結婚前提に付き合ってたけど別れました。それなのにこっそり頻繁に会いに来るんだが。
リロ、ジジジジ。
第1話 破局
九条原レナは、黒髪がよく映える清楚系アイドルだ。
現在、話題沸騰中の5人組アイドルグループ「KyunMag!《キュンマグ》」の中で、彼女はセンターというポジションでステージに立っている。
透明感のある魅力で多くの人を惹きつけ、清涼飲料水のCM起用され、存在感は一気に世間へと広がり、まさに注目度急上昇中だ。
ステージの上で彼女は、こちらに向かってはにかむ笑顔を見せながら、きれいな黒髪を揺らし、額に汗をにじませて全力で踊っている。伸びやかで芯のある歌声と、しなやかで美しいダンスが重なり合い、観る者を惹きつけてやまない。
その姿は、俺はほれぼれと見とれてしまう。
そう、そして……そんな
* * *
俺の名前は、
そんな俺は駅前の高級ホテルの一室に呼び出された。
夜の八時を過ぎていて、辺りにはスーツを着たサラリーマンや大人の女性ばかりで、俺のような男子高校生はどこにもいない。
5月のゴールデンウイークの初日。多くの人たちが行き交うホテルの入り口に立ち、最上階を見上げてみる。
首の角度をかなり曲げないといけないくらいそれは高く、こんなホテルに足を踏み込むのかと思うと尻込みしそうだった。
俺は少し緊張しながら、ロビーに入り、
エレベーターに入って、階数ボタンを押す際に気づいた。
どうやら俺が向かう先は、このホテルの最上階らしい……。
55階に到着すると、通路のすべてに赤いじゅうたんが敷いてあった。
平々凡々な庶民の俺からすれば高級すぎる場所というのは非常に居心地が悪い。
フカフカの感触の上を歩いていく。そして重厚そうなドアの前で立ち止まる。
スマホに届いたメッセージの号室と照らし合わせ、俺はノックした。
――コンコン。
「……どうぞ」
テレビの時とは違う、少しトーンの落ちたレナの声だ。
ドアノブをつかんで中に入る。
「拓斗……遅いんだけど」
リビングにいたレナは、テレビの中で見せる柔らかな笑顔とはまるで別人だった。
眉は露骨にみけんへ寄せられ、唇はこれ以上ないほど不機嫌そうに尖っている。清楚アイドルが絶対にカメラの前ではしない表情だ。
「…………」
俺が無言でいると、レナは腕を組んだままソファに深く腰を沈め、ちらりとこちらを睨むように一瞥してきた。
その視線に、ステージ上のきらめきは一切ない。スポットライトも、ファンへの微笑みも、きれいに置いてきた顔だ。
テレビで見る彼女は、いつも透明感だの天使だのと言われている。
だが、今目の前にいるレナは、不満を隠す気すらないどす黒い悪魔のようである。
現在、SNSを中心に話題沸騰し、最近ではテレビなどのメディアでも大きく活躍の場を広げている。そこで
着ている服も部屋着まるだしのゆるいTシャツ姿とジャージズボンである。アイドルとして売れ始めているというのに、意識が薄いような気がするぞ。
「ちょっと、君たち。喧嘩するために集まったんじゃないでしょ?」
その声に、張りつめていた空気がわずかにゆるむ。
部屋にはレナのほかに、彼女のマネジャーである御手洗さんがいる。黒いジャケットにスカート。いつもと変わらない、隙のないフォーマルな装いだ。
窓際の大きなカーテンの前に立ち、腕を組んだまま、こちらを静かに見ていた。
俺はその視線から逃げるようにレナへ向き直り、小さく息を吐く。
「……レナ。俺に要件があるんだろ?早く言え」
その一言で、レナの目つきがはっきり変わった。
さっきまでの苛立ちに、怒りが混じる。
「な、何その言い方!ほんとムカつくんだけど」
「おい。呼び出したのはそっちだろ」
俺は肩をすくめるように言った。
「俺、明日も学校あるんだ」
レナはぎゅっと下唇を噛み、視線をそらしかけてから、もう一度こちらを睨みつける。
その目には、迷いと苛立ちと、ほんの少しの震えがあった。
「……私と、別れてほしい」
一拍。
部屋の空気が、そこで止まる。
「もう……拓斗とは、うまくいく気がしないから」
その言葉を最後まで聞き終える前に、俺は答えていた。
「わかった」
あまりにも簡単に、あまりにも早く。
「……え?」
レナは完全に意表を突かれた顔で、目を丸くしていた。
「えーと……拓斗?ちゃんと私の話聞いてた?『別れてほしい』って言ってたんだけど?」
「ああ、聞こえてたよ。聞こえたうえでの返事だ。……レナが言うとおり俺たちはもう別れよう」
「な……な、な」
レナは唇を震わせる。そしてパニックになっているんだろう、何度もパチパチまばたきしながら、俺をじっと見つめるばかりだ。
しかし、そんなこと知ったこっちゃない。
むしろ、レナと別れられることに嬉しさがこみあげてくるばかりだ。
……くふふ。
「ど、どうして……?」
レナは思わずと言った感じでそうつぶやいた。
「どうしてだって?レナが別れたいって言い出したんじゃないか。むしろ、それを了承したんだから感謝してほしいくらいだけど」
「く……」
レナの目にだんだんと涙がにじんでくる。
そして、悔しそうに下唇を噛んだ。
「…………もう、拓斗なんか……どうでもいい」
さすが、負けん気の強いレナ。
口が裂けても「やっぱり嘘」なんて言えないだろう。
「じゃあな、レナ。これで俺たちは永遠にお別れだ」
俺は入ってきたドアに向かってきびすを返した。
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